「新卒採用」の目的や中途採用との違いはどこにある?
「新卒採用」とは、毎年度同様の時期に一定数の人材を一括で採用するという、日本ならではの採用方法を指す。年齢制限はないが、「大学を卒業したばかりの学生」を採用することが多い。●「新卒採用」の現状
いまだに「新卒採用」のニーズは根強い。日本では少子高齢化が加速していることもあって、労働者人口は減りつつある。そうしたなかで、企業は生き残っていくためにも優秀な人材を獲得していかなければいけない。それだけに、むしろ人材獲得競争は激しくなるばかりである。中長期的に見ても、新卒市場は一定の役割を果たすものと思われる。もちろん、コロナ禍といった社会情勢の変化を受け、採用手法は変わりつつあるのは確かだ。学生と対面でのコミュニケーションを取らないオンライン説明会やオンライン面接に切り替える企業も増えている。
●「新卒採用」の目的
「新卒採用」の目的はいくつか挙げられる。1つ目は、「企業における人員バランスの最適化」だ。新卒者を毎年安定的に採用することで、企業を支える次世代、次々世代の人材を育成することができる。2つ目が「企業文化(カルチャー)の継承」。新入社員をイチから育て企業文化を引き継いでいくことは、企業の存在感を社会にアピールする絶好の機会となる。3つ目が「将来のリーダー・経営幹部候補となる優れた人材の確保」である。「新卒採用」では長期的な視点でリーダーや幹部候補として養成しやすい傾向にある。4つ目が「組織の活性化と事業成長へのきっかけ」だ。新入社員の発想力やバイタリティが職場に刺激をもたらし、これまでにない展開が期待できるだろう。
●中途採用との違い
ところで、「新卒採用」と中途採用はどう違うのか。ここでは、項目ごとに詳しく見て行きたい。・目的
「新卒採用」の目的としては、経営幹部候補やジェネラリスト人材の確保、企業文化の継承などが挙げられる。一方、中途採用では即戦力やスペシャリスト人材の確保、欠員募集、他社のノウハウ獲得といった目的が一般的だ。
・対象
「新卒採用」の対象は、その年度に学校を卒業予定の社会人未経験者だ。最近では、国の方針を受けて、卒業後3年までを新卒として扱う企業も増えている。一方、中途採用では学校卒業から3年以上が経過した社会人経験者が対象となるが、社会人経験3年未満の”第二新卒”と呼ばれる層を狙う企業も見かける。
・スケジュール
「新卒採用」の開始時期は入社前年度の3月~4月が一般的だ。そのタイミングを皮切りに説明会、面接、内定出しなどが進められていくが、一部の企業ではかなりスケジュールを前倒しするケースも見られる。一方、中途採用では採用時期は企業が独自に判断できる。欠員募集といったニーズが出てきた際に随時募集するというのが大半。求人募集から内定までは、数週間から1ヵ月程度を要する。
・手法
「新卒採用」では、企業も学生もお互いを良く理解するために、インターンシップや会社説明会などさまざまプロセスを設けている。これに対して、中途採用では採用人数が限られていることもあって、スピード感や効率性、コストを重視する傾向が強い。求人媒体や人材紹介などを経由して、個別に選考が進んでいくケースがほとんどと言える。
・評価基準
「新卒採用」では、対象者に就労経験がないので、むしろポテンシャルに重きが置かれる。それに対して、中途採用では即戦力を求めていることもあってキャリアや実績が重視されがちである。
・期待すること
「新卒採用」には、将来のリーダーや幹部職などコア人材として成長してもらいたいという期待がある。一方、中途採用ではパフォーマンスの維持・向上が何よりも期待される。
・コスト
就職みらい研究所の「就職白書2020(※)」によると、中途採用の採用単価は一人あたり約103.3万円。これに対して、「新卒採用」の場合は約93.6万円と、約10万円の差があると言われている。しかし、「新卒採用」であっても求人広告(ナビ媒体)サイト掲載費や、イベント参加費などは高額なだけに、慎重に判断していかないといけない。
・トレンド
「新卒採用」のトレンドとして顕著なのは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うオンライン採用の浸透・定着だ。対面を避ける傾向が強く、会社説明会を動画で配信したり、面接をビデオ通話で行ったりする企業が増えている。また、「HRテクノロジー」の導入が加速している点も見逃せない。HRテクノロジーとは先端テクノロジーを駆使し、人事業務を効率化させるサービスを指す。採用関連のHRテクノロジーも色々と登場しており、活用次第では効率的かつスムーズな採用活動を実現していける。
「新卒採用」のメリットとデメリットを整理
ここからは、「新卒採用」ならではのメリットとデメリットを詳しく解説していきたい。●メリット
・理念や社風の受け入れやすさ新卒入社者には就労経験がない。そのため、特定のカルチャーに染まっておらず、他社を経験してきた社員よりも自社の理念や社風を受け入れやすい。また価値観が比較的醸成されていない段階であるので、企業の求める姿勢や考え方を容易に身につけてもらいやすいというメリットもある。
・幹部社員につなげるための育成
将来のリーダーや幹部候補となり得る優秀な人材を獲得し、計画的に育成できることも、新卒採用のメリットだ。何しろ、新卒採用では毎年約45万人もの学生が一斉に就職活動を行う。それだけに、優秀な人材と接触できる可能性も高いと言える。また、入社後には数年おきにジョブローテーションを行ない、複数部署を経験した上で幹部社員に登用する、といった育成計画も組みやすい。他社での就労経験がない分、企業への忠誠心や愛着心も生まれやすく、高い意識を持って働いてもらえる。
・新たなアイデアやイノベーションの誕生
同じメンバーで仕事を続けていると、現状維持に重きが置かれがちとなり、新たなアイデアが生まれにくくなる。結果として、業績も伸びず、組織も停滞状態になってしまう。その点、「新卒採用」を行うことで組織の年齢構成が若返る。世代も違うので、価値観やモノの考え方も既存の社員とは全く違ってくるはずだ。彼らから刺激を受け、斬新な発想がもたらされることも多い。
・採用コストの抑制
「新卒採用」は、決まった時期にまとまった人数を採用するので、効率良く人材を確保できる。職種別に採用しなければならない中途採用と比べても、採用コストは比較的安く抑えられるメリットがある。
・組織の活性化
「新卒採用」によって、フレッシュな人材が入ることで、組織の雰囲気や人間関係に刺激がもたらされ、結果的に組織の活性化にもつながる。また、新卒社員の教育を通じて、既存の社員は自らの知識やスキルを改めて体系化することができ、上司のマネジメント力向上も期待できる。加えて、迎え入れる職場においても、これまで言語化されていなかったルールや行動指針などをマニュアルといった形で言語化する良いきっかけにもなる。
●デメリット
・育成にかかる時間社会人経験や就労経験がない人材を雇用するため、当然ながらイチから育てあげていかなければならない。個人差があるにせよ、業務に慣れ、独り立ちするまでには、それ相当の期間がどうしても必要となる。
・採用コスト増大のリスク
「新卒採用」を実施する際には、採用広報、会社説明会や面接、内定式、研修など、さまざまなプロセスが発生する。そのため、ハンドリング次第では中途採用と比べるとどうしても採用コストが高くなるリスクがあるので注意しなければいけない。
・受け入れ準備や選考にかかる時間
「新卒採用」では、多くの学生の中から自社の企業文化や社風に合う人を見つけ出して採用するため、募集開始から入社までの期間が長く、採用担当者の負担が大きい。面接も複数回行う企業がほとんだ。選考プロセスが長期化する分、受け入れ準備や選考に要する時間も多大なものとなる。
・景気に左右されやすい
「新卒採用」の難易度は景気に左右されやすい。一般的に好景気の場合は、求職者数よりも求人数が多い「売り手市場」となる。一方、景気が悪化すると、企業はどうしても採用人数や採用予算を抑えがちとなる。特に厳しいのは、中小企業だ。採用したくても、学生は安定性を求めて大手企業を選びがちとなる。内定辞退のリスクも高くなるだろう。
・ミスマッチの懸念
ミスマッチが起こりやすい点もデメリットだ。「新卒採用」では応募者に就労経験がない。そのため、仕事内容や職場環境に対する理解が浅く、イメージと違ったというケースが往々にして見られる。
担当者必見の「新卒採用」で失敗しないフローを解説
最後に、実際に「新卒採用」を行なう際の採用フローをまとめてみたい。●まずは「新卒採用」の目的を明確にする
最初に行わなければいけないのは、「新卒採用」の目的を明確化することだ。なぜ、新卒採用を行なう必要があるのか、中途採用ではいけないのかなどを、会社の中長期的なビジョンや事業計画と照らし合わせながら検討する必要がある。目的が定まっていないと、ターゲットも決まらず、応募も満足に集まらない。採用目的の明確化は採用成功への第一歩となってくると言って良い。●新卒採用のターゲットを具体化する
目的を明確化したら、次はターゲットを具体化しよう。企業の「考え方」や「社風」、「価値観」と照らし合わせて、どのような人物であれば入社後に活躍できるのかを検討し、そのイメージを言語としてまとめていく必要がある。●採用スケジュールの計画
ターゲットを具体化したところで、いよいよ1年を通した大まかな採用スケジュールを立案したい。「新卒採用」には、採用広報活動や会社説明会、選考、面接などさまざまなプロセスがあるだけに、それぞれをいつ行ったら良いかを考え、時期を決定していこう。行き当たりばったりの計画だけは、避けるべきだ。●自社に合った手法の選定
「新卒採用」では、設定したターゲットを目標通りの人数で採用できるかどうかが鍵となる。そのためにも、最適な採用手法を検討しなければならない。採用手法は一つだけに絞る必要はない。いくつかの手法を組み合わせるのも一つの考えだ。●新卒採用に向けた体制の構築
「新卒採用」は、一人の担当者ですべてを行うことはできない。特に面接となると、社長や役員、さまざまな部署の幹部や社員にも協力を要請し、しっかりとした体制を構築しておかなければいけない。事前に、採用活動を行なう目的やターゲットを関係者と共有し、理解してもらえるようにしておくことが大切になる。●選考の開始と内定出し
「新卒採用」における一般的な選考プロセスは、書類選考、筆記試験・適性検査、面接、内定出しの流れで進んでいく。まず、エントリー時に提出された書類をもとに選考を行うのが書類選考だ。近年では、独自のエントリーシートを用意している企業も多い。書類選考をクリアした学生たちを対象に実施するのが、筆記試験や適性検査だ。筆記試験では、一般常識や語学力、業界に対する理解の深さを見極め、適性検査では職業適性や性格、ストレス耐性などを測るケースが多い。そして、学生の人柄やコミュニケーション能力を直接把握できる重要な機会となるのが面接だ。会社の雰囲気を学生に感じてもらう場としても有効と言える。内定者が決定したら、その旨を電話で伝え、入社意思が明確であるかを確認することも重要だ。できれば、その際には詳しい採用理由や選考時の評価なども伝えたい。入社前のモチベーションや入社後のエンゲージメントの向上につながるからだ。
●内定者フォロー
内定出しを行った後は、内定者フォローへと移行する。このフォローをしっかりすることで、内定ブルーの解消や帰属意識の醸成、入社後の早期戦力化などに大きな効果を発揮するだろう。内定ブルーとは企業からの内定を得ても、「本当にこの会社で良いのか」、「この会社でうまくやっていけるのか」という不安を抱いている状態を指す。また、1社から内定を受けた後も就職活動を継続する学生も多く、内定辞退につながってしまう可能性もあるため、綿密にコミュニケーションを図っていかなければいけない。
●新卒採用の振り返りと改善を必ずやる
「新卒採用」は毎年実施するのが一般的だ。採用成功の確率を高めていくには、振り返りと改善が欠かせない。どのタイミングで行うかは、企業によって判断が異なってくる。今期の採用活動の目標達成に向けて採用活動中に行なうケースもあれば、次年度の採用に活かすために活動が終了してから詳細に行なうケースもある。- 1