「法定雇用率」未達成の場合における企業名公表までの流れ
「障害者の雇用の促進等に関する法律」(障害者雇用促進法)により、常時雇用する従業員が43.5人以上の民間企業は、従業員の2.3%にあたる障がい者を雇用することが義務付けられています。しかし、この法定雇用率が達成できていないからといって、すぐに企業名が公表されるわけではありません。企業名公表までの流れを見ていきます。障がい者雇用の法定雇用率の義務対象である企業は、毎年、6月1日時点の障がい者雇用状況をハローワークに報告する義務があります。この報告により、行政機関は各企業が障がい者を何人雇用しているのかを把握し、結果をまとめて「障害者雇用状況の集計結果」として公表します。
障がい者雇用の法定雇用率が未達成であり、かつ実雇用率が低い企業には、障がい者を雇い入れるための「雇入れ計画作成命令」がハローワークから出されます。これは、命令発出後の1月1日から2年間において「障がい者をいつ、何人雇用するか」についての計画書の作成を命ずるものです。
この雇入れ計画書は、提出したら終わりというものではなく、計画期間中、予定通りに障がい者雇用が進んでいるかが確認されます。予定通りに進んでいない場合には、「雇入れ計画の適正実施勧告」や「特別指導」が行われます。さらに、労働局や厚生労働省への呼び出しがかかることもあります。それでも障がい者雇用が進まない場合には、企業名が公表されます。
出典:障害者雇用率達成指導の流れ(厚生労働省)
令和3年は6社の企業名が公表に。公表の基準は?
厚生労働省は、令和3年の障害者雇用未達成企業として、6社の企業名を公表しました。ここ数年、企業名が公表されたのは0~2社だったこともあり、令和3年の6社は多い印象を受けますが、その理由は、主に2つの背景が関係しています。1つ目の理由は、平成30年の官公庁などにおける障がい者雇用の水増し問題による影響があります。この問題では、国土交通省や総務省などの中央省庁が、義務付けられた障がい者の雇用割合を水増ししていたことが明らかになっています。これに対し、国の検証委員会が発足し、中央省庁の8割を超える28機関で計3700人が不適切に計上されていたことが判明しました。これらの対応として、障がい者のみに限定した公務員試験が実施されました。障がい者枠の公務員試験は、障がい者の就職機会の拡大にも繋がりましたが、すでに民間企業で働いていた障がい者が一定数転職するケースも見られました。そのため、民間企業がこの水増し問題に関する影響を受けたことを考慮して、特例的に「行政措置」の猶予が行われました。
2つ目の理由は、新型コロナウイルス感染拡大の影響です。新型コロナの流行初期は、企業も休業や時短などの対応を迫られたり、採用がストップしたりと、企業活動に大きな影響がありました。これらの理由により、障害者雇用率未達成企業への指導の期間が延長されています。
このような背景から、令和3年においては、平成29年からの雇入れ計画を作成した企業と、平成30年からの雇入れ計画を作成した企業の両者が、企業名公表の対象となっています。対象企業は、令和元年度の公表を前提としていた5社と、令和2年度の公表を前提としていた25社、あわせて30社でしたが、このうち公表される基準に該当した6社の社名が公表されています。
企業名を公表される基準の目安として、障がい者の実雇用率が、前年の全国平均未満であることがあげられます。法定雇用障がい者数が4人以下の企業では、障がい者を1人も雇用していない場合に該当となります。今回は、令和3年1月1日現在において、実雇用率が令和元年の全国平均実雇用率 (2.11%)未満(法定雇用障がい者数が4人以下の企業については、当該数 が3~4人で雇用障がい者数が0人)であり、令和3年12月1日現在においても同様だった企業の企業名が公表されています。
なお、上記に該当する場合でも、下記のいずれかに該当する場合は、 初回に限り、公表に猶予が与えられます。
・特別指導期間終了後の1月1日から1年以内に特例子会社の設立を実現し、かつ、実雇用率が令和元年の全国平均実雇用率(2.11%)以上、又は 不足数が0人となると判断できる
企業名が公表されると、厚生労働省からプレスリリースが出され、企業概要をはじめ、社名公表に至るまでの経緯、障がい者雇用の推移が詳細に示されることになります。
企業名公表を避けるためにすべきこと
企業名公表を避けるために、まず考えていきたいのは、「法定雇用率を満たす障がい者雇用」を進められる状況を作ることです。自社が、障がい者雇用において、どこでつまずいているのかを明確にする必要があります。障がい者雇用に関して、組織としての方針が固まっていないのであれば、「障がい者雇用をどのように進めていくのか」を検討する必要があります。同じ業種、同じ規模の企業の事例が参考になることはありますが、自社と全く同じ状況の企業はありません。自社内で障がい者雇用をどのような位置づけにするのか、どのような方向性で進めるのかなども含めて考えましょう。
もし、障がい者雇用に関する社内の理解が不足しているのであれば、障がい者雇用について知る機会を設けたり、情報提供したりするなどの対策が考えられます。また、障がいのある社員の業務の創出・切り出しが難しいのであれば、他社の事例を参考にするなどして、観点を変えて再検討してみるとよいでしょう。HRプロ参考記事【障がい者雇用&戦力化の教科書(全7回)】では、この点について解説していますので、ぜひ参考にしてください。
また、すぐに法定雇用率を達成することが難しい場合には、公表が猶予される条件として、「特例子会社」を設立することがあげられます。現状、障がい者雇用のための業務や職場を確保できないのであれば、特例子会社を設立し、そちらで障がい者雇用を進めるという方法もあります。しかし、特例子会社の設立は障がい者雇用を進める方法としては有効ですが、設立して終わりではありません。継続的に経営、運営していくことの難しさも指摘されています。特例子会社を設立することのメリット・デメリットをよく検討し、自社の状況に合わせて考えていくことが大切です。HRプロ参考記事【「特例子会社」とはどのような制度なのか】では、この点について解説していますので、こちらも参考にしてください。
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