そもそも「人事評価シート」を使う目的とは?
「人事評価シート」とは、人事評価を実施する際にスキルや課題などの評価項目を整理するとともに、適切に管理していくシートを指す。処遇や人材開発を行うためにも、社員の能力を適切に把握することは不可欠だ。そのためのベースとなるものが「人事評価シート」である。ただ、実際に作成しようとすると簡単にはいかない。また、完成したとしても運用に問題があるケースも多々見られるなど、さまざまな課題が生じている。●「人事評価シート」の目的
「人事評価シート」を作成する目的は、いくつか挙げられる。主だったところを取り上げてみよう。・質の向上
人事評価において、評価項目や評価基準が不明確であれば、評価の内容自体が曖昧となり、適切に評価することができない。評価すべきポイントが漏れていたり、評価者によって評価項目や評価方法が異なるという問題も起きたりしてしまう。「人事評価シート」を導入することで、評価項目や評価基準は評価者全員に共有され、チェックすべき項目については漏れなく、かつ確実に評価できるようになる。
・公平性の担保
評価される側の社員からすれば、人事評価の方法が属人的であったり、もっと言えば統一されていなかったりすると、納得はできないだろう。自ずと、モチベーションが低下してしまうため、業績にも悪い影響が出てしまう。「人事評価シート」を導入することによって、決められた評価項目や基準に沿って評価することになるため、人事評価の公平性や透明性が高まり、社員も納得しやすくなるだろう。
・成長促進
「人事評価シート」には、社員の成長をもたらす目的もある。会社がどのようなスキルや成果を評価しているかがわかると、社員は目標を立てやすくなる。また、その実現に向けて自主的に行動するようになるだろう。どのスキルや能力を優先的に身に付ければ良いのかが、明確になるからだ。当然ながら、会社が期待することと社員の行動とのずれもなくなってくるので、より効率的な成長につながると言える。
・組織風土の形成
従業員に対して明確に評価基準を提示することは、会社が目指す方向性を示すことでもある。そのため、「人事評価シート」を導入すれば、従業員は会社が何を目指していて、何を求めているのかも理解しやすい。従業員同士が共有することで、組織としての風土も自ずと形作られていく。
・モチベーション向上
モチベーション向上も「人事評価シート」の目的として見逃せない。判断基準を明確に設定することで、従業員はどのような方向に進むべきか、何をしたら会社に評価してもらえるかが理解しやすくなる。その結果として、成果が上がり昇給につながれば、社員のモチベーションが向上するというわけだ。
●人事評価の要素
人事評価を行う場合、一般的には「業績」、「能力」、「情意」の3点を評価することが多い。・業績
期間内における目標に対する達成率やプロセスを評価する。通常は期初に、上司と部下が協議し業績目標を定め、一定期間(年間や半年間)が終了した段階で達成状況を鑑みて評価していく。業績は数値化されやすいため、評価する側もされる側も透明性が高いのが特徴だ。
・能力
部下が持っている能力を業務においてどれだけ発揮できたかを評価する。評価基準となる能力には、その職務ごとのものもあれば、コミュニケーションスキルやロジカルシンキングなど職務に関わらず、汎用的に求められるものもある。
・情意
これは、業務に取り組む意欲や姿勢、勤務態度に関して評価するものだ。具体的には、業務意欲については、設定した目標に対してどんな取り組みをしたか、モチベーションはどうであったかなどを評価する。一方、勤務態度については、就業規則を遵守しているか、遅刻・欠勤といった勤怠項目がどうかなどが評価の対象となる。
「人事評価シート」の書き方のポイント
「人事評価シート」には基本となる書き方がある。ポイントを整理してみよう。被評価者の観点も取り上げているので、目標設定やフィードバックを行ううえでの参考にしていただきたい。●可能性な限り簡潔に
可能な限り簡潔に目標や成果、フィードバックなどは記載するようにしたい。後で読む際にシンプルな文章だと要点がつかみやすく、評価面談の際、評価者と被評価者の双方にとってわかりやすくなるからだ。●結論から先に
結論から先に記載することも重要だ。「何が言いたいのか」が不明確であれば、マネジメント層や経営層がどう評価して良いかわからなくなってしまうからだ。●前向きな振り返りを
前向きな振り返りをするためにも、ネガティブ表現は避け、ポジティブな表現をするようにしたい。例えば、「着手すべき業務があったのに、ただ単に手を付けられませんでした」と記載するよりも「より優先度の高い業務があり、着手できなかった仕事があった。ただし、その結果として顧客から良い評価を得ることができた」と記載した方が前向きな印象を評価者に伝えやすい。●客観的な視点で
客観的な視点で書くことも大切だ。内容が主観的であったり、評価の根拠があいまいであったりすると正確な評価と言えず、説得力もなくなってしまう。できるだけ、客観的な事実に基づいて評価するようにしたい。●具体的な数字で
できるだけ具体的な数字で評価することも重要になってくる。基準があいまいであったりすると、評価結果に対して納得してもらいにくいからだ。●失敗や問題点も記載
よかったことだけでなく、失敗や問題点も記載するようにしたい。「評価が下がってしまうのでは」と懸念を抱く人もいるかもしれないが、むしろ失敗した原因を分析し、今後の成長につなげていきたいという意思を示すことは、組織力強化の観点でも有益である。●改善点の記載
思うような成果・業績を上げられなかった場合、今後どのような点を改善していくかを記載することも有効だ。意欲の高さを会社や組織に示すことにもなる。●自己評価は一段高く
日本人にありがちだが、どうしても自己評価を控えめにしてしまう傾向がうかがえる。むしろ、自分が考えているよりも1段階高く評価することを心がけたい。もちろん、自己評価を高く付けすぎるのも問題だ。かえってマイナスイメージを評価者に持たれてしまう。●定量化しにくい目標は達成条件をわかりやすく
定量化しにくい職種は、達成できたのか、できなかったのかの判断が難しい。往々にして上司と部下との間で齟齬が生じがちだ。それだけに、こうしたケースでは達成条件をあらかじめ相互の間で取り決めておく必要があるだろう。●実現可能性のある目標設定を
実現可能性のある目標を設定することもポイントだ。どうしても目標が高すぎると到達できないことがあり、低すぎてはモチベーションが高まらない。なかには、高い評価を得やすくするために、目標をあえて低く設定するというケースも見受けられる。これも問題だ。あくまでも、目標を達成できるか否かだけではなく、現時点で何が不足しているのか、将来的にどうなりたいのかを考慮した上で目標を決めていくようにしたい。●具体的な期限の設定を
いつまでに何を達成するのか、その具体的なロードマップを描かなければ、何をどう進めていけば良いのかがわからず、モチベーションも湧いてこない。一般的には、期限を1年間と定めているケースが多く、四半期や上半期、下半期などと期間を細かく区切るのも効果的だ。最終目標に向けてどのようなステップを踏んでいけば良いのかが具体的にイメージしやすくなるからだ。●経営方針や事業方針に基づいた目標を
経営方針や事業方針に基づいた目標を設定するようにしたい。マネジメントの最終目的は、従業員が各自の目標を達成することで、企業の成長や業績の向上につなげることにある。「人事評価シート」もその一翼を担うものとなるだけに、従業員一人ひとりが果たすべき役割を踏まえた目標を設定すべきであると言える。職種別の書き方、重視する項目などを一挙解説
「人事評価シート」は、業種や職種ごとに作成する必要がある。重視する項目が違うからだ。実際に、どう書けば良いのかを紹介しよう。●営業職
営業職は、目標や達成度を数字で表すことができる。そのため、「人事評価シート」では、目標達成率と結果分析が中心になりがちだが、目標の実現に向けた取り組み具合を評価したり、来期に向けての課題および改善策なども併せて記載したりすることが望まれる。●企画職
企画職にはリサーチ力や数値の分析力、企画の提案力などに加えて、新たなアイデアを追求したり、企画の実行に向けた意欲が求められたりする。できるだけ数値化した実績を提示したいが、数値化しにくい項目も多いため、細かい部分にも目を配り、評価につなげていく必要がある。●事務職
事務職は営業職と違って、基本的に数値目標を持たないため、実績を数値化するのは難しい。そのため、作業効率やスピードがどう向上したかといった、ディテールを評価することが重要になってくる。●技術職
技術職も業績をどう捉えるかは難しい。それでも、コストダウンにどこまで結び付けたか、作業の効率化をどれだけもたらしかなどは、数値化できる余地がある。現場レベルに落とし込んだ評価項目を設定して、貢献度を具体的に評価するようにしたい。- 1