「バーバルコミュニケーション」と「ノンバーバルコミュニケーション」とは?
普段意識することはないが、人はコミュニケーションをとるにあたって、「バーバルコミュニケーション(言語的コミュニケーション)」(以下、「バーバルコミュニケーション」)と「ノンバーバルコミュニケーション(非言語的コミュニケーション)」(以下、「ノンバーバルコミュニケーション」)を駆使している。「バーバルコミュニケーション」はその名の通り、言葉を手段としたコミュニケーションである。言葉は、人類を進化させてきた強力な武器である。言葉の持つ細やかで正確な意思伝達手段は、人々の心を結び付けて集団化を促し、さらには文字をも生み出して人類にヘゲモニー(覇権・主導権)を与えてきたとも言えるのだ。
他方、人間以外の動物は基本的に言葉を持たないため、鳴き声や表情、動作などによる非言語的な「ノンバーバルコミュニケーション」だけがコミュニケーションの手段である。ただし、言語を有する人間も他の動物以上に「ノンバーバルコミュニケーション」を多用している。
「ノンバーバルコミュニケーション」の威力
「ノンバーバルコミュニケーション」は軽視できない。ときには、「バーバルコミュニケーション」以上の伝達力を持っていることが証明されている。アメリカ・カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学者アルバート・メラビアン博士は、話し手が聞き手に与える印象がどのような要素で形成されるかを実験的に検証し、その結果、話し手の印象を決めるのは、「言葉以外の非言語的な要素で93%の印象が決まってしまう」ということを解明している。これが有名な「メラビアンの法則」である。それによると、見た目・身だしなみ・しぐさ・表情・視線といった「視覚情報」で55%、声の質(高低)・速さ・大きさ・テンポといった「聴覚情報」で38%、話す言語そのものの「言語情報」で7%だったそうだ。この割合を冠して「7-38-55ルール」とも呼ばれている。ただし、この法則は話し手と聞き手との間で、好意や反感などの態度や感情のコミュニケーションを前提としたものであるため、全てのコミュニケーションに当てはまるものではないことに注意しなければならない。
とはいえ「ノンバーバルコミュニケーション」の重要性はいささかも揺るがないものであり、人間関係はこれによって構築されるといっても過言ではないから、最大限の意識を振り向けるべきだろう。
職場で注意すべき「権威」というノンバーバル
職場で交わされる非言語的なるものの中でも、通常は意識することの少ない「権威」には注意した方がよい。「権威」とは肩書や組織内ポジションのことだが、人は「権威」の前では無力化されてしまう傾向にある。「権威」を持つ人の行動は、それだけで強力な「ノンバーバルコミュニケーション」となってしまうのだ。上司から部下へのハラスメントが頻発しているが、これは上司が自らの「権威」に対して無意識すぎることを物語っている。マネジメントする立場の人は、さまざまな場面で「権威」をかざす可能性が高いことを十分に意識しておかねばならない。
無駄とは言えないコミュニケーション、「雑談」を見直そう
一見、無駄と思われるコミュニケーション、いわば「雑談」には意外な効果があることを意識しているだろうか。最近では、職場においてこの「雑談」が減少しているように感じる。コロナ禍でテレワークが一気に普及したことや、人件費削減などによって最小限の要員で業務を行わざるを得ないという環境であるとか、効率性を重視し無駄を排除する慣行などが要因かもしれない。確かにルーチンワークについては、無駄を失くすことが業務効率アップに寄与するが、クリエイティブな業務環境では、マイナスとなる可能性も高い。どのような職場でも、コミュニケーションが不可欠であることは論を待たないが、特に後者の職場ではコミュニケーションの内容よりもコミュニケーションしていること自体に意義がある。人間は常に相互の存在を確かめあったり、コミュニケーションする意思を発現しておかないと、相互不信に陥ったり不安感に苛まれたりする傾向があり、そのような環境づくりには「雑談」が最適なのだ。
また、人間関係の潤滑油にとどまらず、「雑談」の中から新しい発想が生まれることもあるため、ビジネスにおいても大切な役割を果たしている。職場において「雑談」だけが横行していて業務成績は振るわず、という状態では困るが、「雑談」を軽蔑・軽視する雰囲気があるとすれば、それは見直すべきことかもしれない。
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