「精神障がい」は、どのような障がいか
内閣府発行の「障害者白書」(令和3年版)によると、国内には419万3千人の精神障がい者がおり、割合として約30人に1人になります。また、65歳未満の労働人口では、男性が118万7千人(46.4%)、女性が137万9千人(53.9%)で、合計250万人以上となります。精神障がいは、特別な人だけがもつものではないと認識することは大切です。精神障がいにより日常生活や社会生活への制約がある人には、「精神障害者保健福祉手帳」が交付されますが、その症状はさまざまです。精神障がいの中で多い「統合失調症」や「気分障がい」、「てんかん」などについて見ていきます。
●統合失調症
「統合失調症」は、脳の神経ネットワークの働きがなんらかの原因でうまく機能せず、さまざまな情報をまとめることができなくなる病気です。発症の原因は、はっきりとは分かっていません。特徴的な症状に「幻覚」や「妄想」などがあり、その他にもいろいろな点で生活のしづらさが表れます。また、青年期に発症するケースが多いのが特徴です。
統合失調症には、「陽性症状」と「陰性症状」があります。「陽性症状」では、幻覚、幻聴、妄想が見られ、実際にないことが感覚として感じられたり、「自分の考えを周囲に知られている」など、誤った内容を信じ込んでしまったりすることがあります。「陰性症状」では、「やる気が起こらなくなる」、「感情の表出が乏しくなる」、「記憶力や注意力、判断力が低下する」といった症状が見られます。
「統合失調症」の治療法は薬物療法などであり、通院や服薬が必要です。社会との接点を保つことも重要で、病気と付き合いながら働いている人も多くいます。一方で、患者はストレスや環境の変化に弱く、一度に多くの情報が入ると混乱することがあります。当事者に情報を伝えるときは、紙に書くなどしてゆっくり具体的に伝えるとよいでしょう。
●気分障がい
「気分障がい」とは、気分が極端に沈んだり(うつ状態)、極端に高揚したり(躁状態)と、気分の波が主な症状として表れる病気です。うつ状態のみの場合は「うつ病」、うつ状態と躁状態を繰り返す場合は「双極性障がい(躁うつ病)」と呼ばれています。
「うつ状態」では、「何事にもやる気が出ない」、「疲れやすい」、「考えが働かない」、「自分が価値のない人間のように思える」、「死ぬことばかり考えてしまい実行に移そうとする」などの症状が見られます。一方、「躁状態」では「普段ならあり得ないような浪費をする」、「ほとんど眠らずに働き続ける」、「自分は何でもできると思い込んで人の話を聞かなくなる」などの症状があります。躁状態のときだけを見ていると、本人も周囲も、「気分障がい」の症状であることに気づかない場合も多いようです。
「気分障がい」をもつ人は、感情のコントロールがうまくできないことから、自己嫌悪や悲観を繰り返すことがあります。専門家の診察の上で、当事者や家族、また周囲の人が病気について理解することが大切です。治療には、服薬などとともに十分な休養が必要であり、当事者がうつ状態の時は無理をさせないようにします。自分を傷つけてしまったり、自殺に至ったりすることもあるため、サポートには医療機関や専門家との連携が必要です。
●てんかん
てんかん発作は、脳の一部の神経細胞が突然、一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じます。発作には、けいれん、突然の意識消失、認知機能の変化、また急に動きが止まってボンヤリする……など、さまざまなタイプがあります。症状は一時的なもので、発作が治まると元どおりの状態に回復します。
多くの場合は、適切な抗てんかん薬を服用することで発作が抑制されます。発作が起こっていないほとんどの時間は普通の生活が可能で、過剰に活動を制限する必要はありません。発作を予防するためには、服薬と規則正しい健康的な生活を送ることが大切です。
「精神障がい」への配慮のポイント
精神障がいによる病は、統合失調症や気分障がい(うつ病、躁鬱病)、てんかん等、さまざまなものがあります。疾患によって必要な配慮が異なりますので、それぞれの特徴を理解した上で適切な対応をとることが望まれます。【募集・採用のときにできる配慮】
●面接時に、就労支援機関の職員等の同席を認める精神障がいの方の中には、緊張しやすく、面接で実力を発揮しにくい方もいます。そのため、当事者が就労支援機関などに通っている場合、面接時に支援機関スタッフの同席を希望することがあります。希望があれば同席を認めるほか、事前にスタッフへ障がい特性を確認しておき、面接時に当事者へ過度な負担がかからないよう配慮するとよいでしょう。また、面接を実施する前に、当事者に仕事内容や職場の雰囲気を知ってもらうため、職場見学などを開催する企業もあります。
【採用後にできる配慮】
●当事者の業務指導担当者を決める精神障がいの方は、「何事にも手を抜けず頑張りすぎてしまう」、「さじ加減がわからない」という方が多く、知らず知らずのうちに疲労やストレスを溜めてしまいがちです。そのため、仕事に関して質問や相談のできる担当者を決めておくとよいでしょう。担当者を決めることで、当事者が働く上で問題になっていることについて、当事者と事業者が互いに認識しやすくなり、必要な対応がとりやすくなります。また、担当者が定期的に当事者と面談したり、日誌を記入したりすることで、当事者の仕事の悩みや体調などを把握しやすくなるほか、仕事のフィードバックもしやすくなります。
●当事者に適切な勤務時間と業務量を設定する
当事者に割り振る仕事については、無理のない範囲から始め、少しずつ勤務時間や業務量を増やすなど、調整できるようにしておくとよいでしょう。初めは当事者も気が張っていて、通常以上に集中して業務をこなせるかもしれませんが、実力以上のことをしていると、一時的にはできても、そのペースを継続することは難しくなります。当事者にとって無理のないペースかどうか、定期的に確認することも重要です。
また、精神障がいの方の中には「曖昧な状況にストレスを感じやすい」、「工夫・応用が苦手」という方も少なくないため、作業の流れや手順を決めて、できるだけ具体的かつ簡潔な指示を出すようにしてください。さらに、業務の優先順位を明確にすることや、作業手順を分かりやすく示したマニュアルを作成することは、当事者のスムーズな就業に有効です。
●出退勤時刻、休憩、休暇、通院などに関し、柔軟な制度を導入する
障がい特性によっては、体調に波があり、定時に出勤することが難しかったり、通院、服薬を必要としたりすることがあります。このような場合には、個別の状況に合わせて適切な配慮が求められます。
例えば、精神障がいの方は心身が疲れやすい傾向にあるため、就業初期は短時間勤務から始め、徐々に勤務時間を延長していくのも一つの方法です。また、通勤ラッシュや人混みが苦手な人も多いので、出勤時間を少し遅めに設定することがあります。
休憩時間においても、規定が「1日 60 分」であれば「45分」と「15分」というように、本人の希望や状況に応じ、分割して休憩が取れるよう配慮しているケースもあります。休暇に関しては、当事者の通院などに応じて、有給休暇を1時間単位で取得できるようにするといった対応もできるでしょう。
●その他の配慮
精神障がいは、外見からはわかりにくい障がいです。当事者のプライバシーに配慮した上で、一緒に働く人たちに障がいの内容や必要な配慮などを説明しておくことは、当事者に対する職場の理解を助けます。障がい特性や、当事者が働くときにどのような困難を感じることがあるのか、どのような配慮が必要かといった点について、職場の人たちに知ってもらうことが望まれます。
また、専門職のサポートを活用する場合もあります。ジョブコーチ(職場適応援助者)や、就労支援機関などの外部機関にサポートを依頼したり、社内にカウンセラーや保健師、精神保健福祉士、社会福祉士等などの専門家を配置したりすることもできます。
他に、当事者は「休憩時間を一人で過ごしたい」という人も多いので、静かに休憩できるスペースを準備する、休憩時間をずらして取れるようにする、などの配慮をしている場合もあります。
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