2021年も、もうすぐ終わろうとしている。「上司からのパワハラを理由に社員が自殺」、「職場のパワハラでうつ病を発症して労災認定」……等々、今年もこうしたニュースをうんざりするほど耳にしてきた。パワハラを経験した労働者の割合は約3割に上るというデータもあり、今やパワハラはいつどこの職場で発生しても不思議ではない時代となってしまった。ところで、12月は厚生労働省(以下、厚労省)が定めた「職場のハラスメント撲滅月間」だそうだ。年末の業務繁忙や忘年会等でハラスメントが発生しやすくなることが懸念されている。この機会に、企業のパワハラ対策の基礎知識を見直すとともに、その防止のために何が大切なのかを考えてみたい。
「パワハラ」とはどういうものか
まず、「パワハラの定義」をおさらいしよう。厚労省の指針では、職場におけるパワハラを次のように定義づけしている。引用:令和2年厚生労働省告示第5号
職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすものをいう。
職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)から(3)までの要素を全て満たすものをいう。
この中で判断が難しいのが(2)であるが、「言動の必要性や正当性、回数、行為者の数などが社会通念に照らして許容される範囲であるかどうか」が判断の基準となる。詳細については同指針や厚生労働省のサイトなどを参照されたい。
なぜ「パワハラ対策」が必要なのか
次に、なぜパワハラ対策が必要なのかを考えてみよう。まずは「法令順守」である。2020年6月1日に改正労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)が施行され、パワハラの防止は企業の法律上の義務となった。2021年12月現在の義務化の対象は大企業であり、中小企業は2022年4月1日から義務化される。同法第30条の2に記載の通り、企業は雇用管理上、必要な措置を講じなければならない。そして、パワハラ対策が必要なのは「経営上のリスク回避」も大きな理由である。パワハラ対策を講じないことにより、職場の士気の低下、生産性の悪化、業績の悪化、人材の流出等、様々な悪影響が出ることが予想される。さらに、トラブルが発生した場合、労働契約法による「安全配慮義務」の違反が厳しく問われ、場合によっては刑事上や民事上の責任を問われる可能性もあり得る。近い将来、パワハラ対策への積極的な取り組みが、投資家や就職希望者、消費者、取引先等からの重要な評価指標の一つとなるという見方も出ており、企業のパワハラ防止対策は「待ったなし」の状況であると言えよう。
パワハラが無くならない理由
このように、パワハラ防止のための法整備がなされ、パワハラを放置することによる経営リスクも広く認識されているにもかかわらず、パワハラは一向に減る気配がない。この理由は何であろうか。この疑問について、一般財団法人労務行政研究所が、筑波大学働く人への心理支援開発研究センターの指導のもと行った「職場におけるハラスメント」に関する調査結果の中で、興味深い指摘をしている。その内容は、「『当人の加害認識』と『周囲の被害認識』とのギャップが、ハラスメントという問題をより深刻なものにしていると考えられる」というものである。何のことはない、加害者側の自覚がない(低い)という、これまでもいじめの構図として繰り返し言われてきた理由である。罪の意識がないのだから、改善されないのは道理である。
改めて、企業の積極的なパワハラ対策への取り組みが重要であると感じるとともに、個人レベルでも「自分もハラスメントをしているかもしれない」という自覚を持つことが、現代の社会人の心構えの一つと言えるだろう。
「パワハラ防止対策」の取り組みのヒント
いざパワハラ防止対策を取るにしても、「あれも(パワハラだから)ダメ」、「これも(パワハラかもしれないから)ダメ」といった、言動を制限するような取り組みでは息が詰まり、社員の気持ちも暗くなりがちである。何より、人は否定的な言葉を聞くと素直になりにくいものである。そこで、「こうすればgood!」という肯定型の取り組みをおすすめしたい。例えば、ある職場ではこのような取り組みをしている。「目が合ったら、とにかく笑顔」。笑う門には福来る。“笑う会社”にも福来る。2022年は、よりいっそう笑顔が溢れる職場づくりを目指していきたい。
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