なぜ「マタハラ」や「パタハラ」が起こるのか? 加害者にならないための留意点
まず、「加害者にならないために気をつけること」をまとめてみましょう。【留意点1】自らの「経験」に固執しない
多くの成功体験を積み重ねてきた人は、「あの時に厳しい指導を受けた」、「辛い時に優しい言葉を掛けてもらえた」などのさまざまな『経験』を力にして前進できた人なのかもしれません。そのような人が上司になれば、「部下にも同じような『経験』をして前進してもらいたい」と思うでしょう。しかし、上司の『経験』に基づいた厳しい指導は、時代に合っていない可能性も高いですし、部下にとって効果があるとも限りません。優しい言葉であっても、部下のモチベーションを上げるとは限らないのです。自らの『経験』に固執することは、ハラスメントの要因にもなりかねません。上司の『経験』が部下に合わないものであれば、その部下に合った指導を考えていく必要があります。特に出産・育児などは、自らの『経験』が影響されやすい傾向もあるようです。自らの『経験』に照らし合わせ、例えば言葉には出さなくても「育児休業をここまで取る必要があるのか」などの思いがあれば、部下はそれを感じ取るものですし、大きなプレッシャーになることも考えられます。
【留意点2】自らの「思い」は、相手へ伝わりにくいことを意識する
例えば、上司が部下に対し、育児に専念してもらいたいという思いから、「1年間は、会社のことは気にせず、育児を頑張って!」と伝えたとします。そのように声を掛けられた部下は、多くの場合はその声掛けをとても嬉しく感じると思いますが、状況によっては以下のように思うこともあるかもしれません。●夫も育児休暇を取るので、休業は半年間で考えているが言い出しづらくなった。
●雇用保険の給付はあるものの、経済的にもできる限り早い時期に仕事復帰を考えているが相談しにくくなった。
もちろんこの言動だけであれば、制度等の利用への嫌がらせに当たるようなハラスメントとは言えませんが、「相手は違うことを考えているかもしれない」、「相手が違う受け取り方をするかもしれない」という意識を頭の片隅に入れておくことが大切です。そのような意識を持つことで、出産・育児を応援する気持ちが相手へ伝わりやすくなりますし、マタハラ・パタハラに限らず、コミュニケーションの行き違いによるハラスメントの防止にも繋がります。
「マタハラ」、「パタハラ」を防止するために必要な会社の取り組みとは
それでは、2つの留意点をふまえ、マタハラ・パタハラを防止するために必要な会社の取り組みを考えていきます。【取り組み1】育児休業等の制度周知などにより、ハラスメントを防止する職場環境を醸成する
時代の流れとともに、出産・育児に対する職場の理解は深まっていると思いますが、冒頭で紹介した調査結果からみても、まだまだ多くのハラスメントが起こっているのが現実です。対策のひとつとして、ハラスメント防止だけでなく、出産・育児などに関連するさまざまな休業制度等を理解すること目的とした研修を行うことが大切です。休業制度に対する理解が深まることで、従業員一人ひとりが、各々の家庭の事情などもふまえながら、主体的・計画的に制度を利用することに繋がります。そして、すべての従業員が制度の目的や内容を正しく理解することで「制度を利用しやすい職場環境」が醸成され、結果としてハラスメントの防止にも繋がるのです。
【取り組み2】相談窓口の設置などにより、ハラスメントを防止する体制をつくる
育児休業等の取得については、従業員と会社の双方が、互いの立場を尊重することが大切です。コミュニケーションの主導がどちらかに偏ってしまうと、自らの「思い」が正しく相手に伝わらず、ハラスメントに発展するケースもあります。従業員は、利用したい制度を明確に伝えるとともに、会社の現状も理解し、上司や同僚へ感謝の気持ちを伝えることが大切です。また、会社は業務分担の見直しなど、必要な措置を講じるとともに、相手の話を聴くことに重きをおいて、出産・育児を応援する姿勢を伝えられるように工夫しましょう。
多くの場合、このようなコミュニケーションは「上司・部下間」で行われるので、人間関係が絡み、行き違いなどが発生することも少なくありません。従業員が負担なく相談できるような「相談窓口の設置」など、会社としての体制も整えましょう。
会社の積極的な取り組みが、出産・育児を迎える従業員の気持ちの「ゆとり」につながる
今回紹介したような「研修」や「相談窓口設置」等の措置は、2022年4月に改正施行される「育児・介護休業法」の中で、「雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化」として位置づけられています。“従業員が各種制度を利用しやすい職場環境”を会社が整備することにより、出産・育児を迎える従業員に、気持ちの『ゆとり』が生まれます。そうすれば、上司・同僚などの「経験」や「思い」は、「貴重な経験談」や「最大限の配慮」として受け取られるようになると考えられますし、コミュニケーションの行き違いなど、制度を利用する際のハラスメントの防止にもつながっていくでしょう。
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