労働者の保護を目的とする「労働基準法」は、企業運営において極めて重要であり、基本中の基本とも言える法令である。「労働基準法」の理解と遵守は、雇用の円滑化と安定、トラブル回避、企業イメージの毀損防止など、あらゆる観点から絶対不可欠な姿勢である。そこで本稿では、この「労働基準法」に関して、基本となる原則のほか、労働時間、賃金、労働時間、休憩などの内容について解説しつつ、違反例と罰則をわかりやすく解説する。
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「労働基準法」とは

「労働基準法」とは、労働条件についての“最低限の基準”を定めた法律である。「労働基準法」では、労働時間や休憩・休日、賃金、解雇など、人が働く(企業が労働者を雇用する)際に適用されるさまざまなルールが明記されている。これらのルール・基準を満たさない労働契約は無効とされ、違反すれば罰金や懲役といった罰が科せられることもある。

●「労働基準法」の目的

「労働基準法」の目的は、労働者を保護することにある。使用者(企業)と労働者は対等な立場で労働契約を結ばなければならないが、多くの場合、労働者の立場は使用者より弱く、不当に低い待遇、望まない労働条件を強いられる恐れもある。そこで、使用者による搾取を防ぎ、労働者が生活に必要な収入を得られるよう“最低限の基準”を法によって定めているのだ。なお「労働基準法」におけるルール・基準はあくまでも“最低ライン”であり、使用者にはその向上を図ることが求められる。

雇用・就労の際に「労働基準法」と並んで重要となるのが、労働契約に関する民事的なルールをまとめた「労働契約法」だ。「労働契約法」には、労働契約の締結・変更・継続・解雇の手続きなどに関する決まり事が明記されている。労働契約においては「労働基準法」における基準に加え、「労働契約法」の内容も理解しておくことが必要と言える。

「労働基準法」の基本7原則(労働憲章)

「労働基準法」では、第1章「総則」において、基本7原則を定めている。これを「労働憲章」と言う。まずは原則から理解していきたい。

【労働条件の原則(第1条)】
・労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
・この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

【労働条件の決定(第2条)】
・労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
・労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

【均等待遇(第3条)】
・使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。

【男女同一賃金の原則(第4条)】
・使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない。

【強制労働の禁止(第5条)】
・使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

【中間搾取の排除(第6条)】
・何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。

【公民権行使の保障(第7条)】
第七条使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。但し、権利の行使又は公の職務の執行に妨げがない限り、請求された時刻を変更することができる。


「労働基準法」の対象となる労働者と適用外の労働者

「労働基準法」は、人を雇用しているすべての使用者(企業)と、使用者の指揮命令下で働くすべての労働者に適用される。企業の種類に関係なく、また正社員だけでなく非正規の労働者(契約社員、パート、アルバイトなど)も、外国人労働者まで含めて、原則として「労働基準法」の適用対象となる。

ただし労働者によっては「労働基準法」による規定の一部が適用除外とされることもある。以下の労働者が、適用外となる主なものである。

●労働基準法が適用されない労働者の主な例

・日雇い労働者など
2カ月以内の期間を定めて使用される労働者や試用期間中の労働者などは解雇予告・解雇予告手当の規定が適用されない。

・特定の事業に従事する労働者
農林水産関係の事業に従事する労働者、経営者と一体的な立場にある管理監督者、秘書のように機密の事務を取り扱う者などは、労働時間・休憩・休日に関する規定が適用されない。

・船員
一定の条件に該当する船舶(5トン未満や漁船など)の船員には、一部規定を除いて「労働基準法」は適用されない。代わりに「船員法」が適用されることで、労働者としての船員は保護されることになる。

・高度プロフェッショナル制度が適用される労働者
高度プロフェッショナル制度が適用される労働者(研究開発職、アナリストなど、高度な専門知識やスキルを持ち、職務が明確で、一定の年収要件を満たす労働者)との契約においては、労働時間・休憩・休日・割増賃金の規定が適用除外となる。

・家族経営の事業で働く同居親族など
同居親族のみを使用する事業や家事使用人には「労働基準法」が適用されない。

・一部の公務員
一般職、特別職(裁判所職員・国会職員・防衛省の職員)とも国家公務員は原則として「労働基準法」の対象外となる。地方公務員も原則として労働基準法の適用外である。

以上のほか、使用者である企業の役員、業務を委託されるフリーランスなどは、使用者の指揮命令下で働いているわけではないため「労働基準法」の適用外となる。これら適用外となるケースについては厚生労働省のサイトに整理されているので参考にするといいだろう。

「労働基準法」の主な内容

「労働基準法」で定められている主なルールや基準は、以下の通りである。

●労働条件の明示(第15条)

労働契約の締結に際し、使用者は労働者に対して労働条件を明示しなければならない。
〇絶対的明示事項……書面での明示が必要
・労働契約の期間
・就業の場所や従事すべき業務
・始業・終業の時刻、休憩・休日
・賃金の決定方法、昇給に関する事項
・退職・解雇に関する事項 など

〇相対的明示事項……定めがある場合に書面で明示する
・臨時に支払われる賃金や賞与に関する事項
・退職手当
・労働者が負担する食費・作業用品
・災害補償・業務外の傷病扶助に関する事項 など

なお2024年4月1日以降は、全労働者に対し「将来の配置転換などによる就業場所・業務内容の変更範囲」も明示することが求められているため、注意が必要である。

●解雇の予告・解雇予告手当(第20条)

使用者が労働者を解雇する場合には、30日以上前に解雇を予告しなければならない。または、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払うか、解雇をn日前に予告した場合は(30-n)日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払って解雇する必要がある

ただし以下は禁止されている。
・業務上の災害のため療養している期間と、その後の30日間の解雇
・産前産後の休業期間と、その後の30日間の解雇
・労働者の性別を理由とする解雇
・女性が結婚、妊娠、出産、産前産後の休業をしたことを理由とした解雇

●賃金(第24条)

賃金の支払いについては、以下の5原則が定められている。
(1)原則として円通貨で支払う。銀行振込は可。労働者が同意すれば「〇〇pay」などのデジタルマネーによる支払いも可。
(2)労働者本人に直接支払う。
(3)全額を支払う。
(4)毎月1回以上支払う。
(5)一定の期日を定めて支払う。


また賃金は最低賃金以上の額でなければならない(第28条)。最低賃金には都道府県ごとに定められた「地域別最低賃金」と、特定の業種について定められた「特定最低賃金」の2つがあり、いずれか高い方が適用される。

●労働時間(第32条)

労働時間については「休憩時間を除いて1日8時間・週40時間」という上限=「法定労働時間」が定められている。ただし卸売業や小売業などの「商業」、「映画・演劇業」、病院などの「保健衛生業」、旅館や飲食店などの「接客娯楽業」で、常時使用する労働者が10人未満の場合は「特例措置対象事業場」となり、法定労働時間は「1日8時間・週44時間」となる。

【特例措置対象事業場】
・商業…卸売業や小売業、理美容業、倉庫業など
・映画・演劇業…映画の映写、演劇、その他の興業
・保健衛生業…病院、診療所、社会福祉施設、浴場業など
・接客娯楽業…旅館、飲食店、ゴルフ場、公園・遊園地など


このほか、月単位や年単位で労働時間を平均する「変形労働時間制」、「フレックスタイム制」、労働時間の配分などを労働者の裁量に委ねる「裁量労働制」、「高度プロフェッショナル制度」といった、特殊な労働時間制も認められている。

【変形労働時間制】
業務量の波に合わせて労働時間を柔軟に調整できる制度。1日8時間という固定的な労働時間ではなく、繁忙期には労働時間を長く、閑散期には短く設定することで、月単位・年単位で総労働時間を調整する。残業時間を削減でき、企業の残業代抑制にもつながる。

【フレックスタイム制】
従業員が自由に始業・終業時間を決められる勤務制度。ただし、完全な自由ではなく、定められた総労働時間の範囲内で調整する必要があり、企業によっては必ず就業が必要な「コアタイム」を設定することもある。柔軟な働き方を実現できる制度と言える。

【事業場外みなし労働時間制】
営業職や添乗員など、主に会社外で働く従業員の労働時間について、実際の労働時間にかかわらず所定労働時間分働いたとみなす制度。ただし、労働時間の算定が困難で、テレワークなど労働時間が把握可能な場合は適用が難しいとされている。

【裁量労働制】
研究開発や企画立案など特定の業務において、実働時間ではなく、企業と従業員間で取り決めた時間を働いたものとみなす制度。「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2種類があり、業務遂行の方法や時間配分を従業員の裁量に委ね、成果で評価する。

【高度プロフェッショナル制度】
見込み年収1,075万円以上の高度専門職を対象に、労使委員会の決議及び本人の同意を前提として、労働時間や休日などの規定を適用しない制度。ただし、年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずる必要がある。


●休憩(第34条)

使用者は労働者に対して労働時間に応じた休憩を与えなければならない。
・1日の労働時間が6時間を超える場合……休憩45分以上
・1日の労働時間が8時間を超える場合……休憩1時間以上


休憩時間は一斉に与えるのが原則で、労働者の自由に利用させなければならない。

●休日(第35条)

使用者は労働者に対して、毎週1日以上、または4週間に4日以上の休日を与えなければならない。これは「法定休日」と呼ばれている。「法定休日」は休日労働の割増賃金(割増率35%以上)が適用される。

一方で法定休日以外の休日を「法定外休日」と言う。こちらは、法定内残業(割増なし)、あるいは時間外労働(割増率25%以上)として扱う。

●時間外労働・休日労働(第36条)

労働者に「法定労働時間」や「法定休日」を超えた時間外労働・休日労働をさせるためには、「36(サブロク)協定」と呼ばれる労使協定を締結しなければならない。

時間外労働・休日労働・深夜労働については、使用者には割増賃金の支払いが義務づけられている(第37条)。時間外労働には25%以上(月60時間を超える部分は50%以上)、深夜労働(22時から翌朝5時)には25%以上、休日労働には35%以上の割増率が適用される。

●年次有給休暇(第39条)

6カ月以上継続勤務し、かつ全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、使用者は10日間の年次有給休暇を与えなければならない。年次有給休暇の付与日数は勤続年数の長さに応じて最大20日まで増え、その年のうちに取得しなかった場合は次の年に繰り越すことができる。パートやアルバイトなど勤務日数が少ない労働者に対しても、雇用継続期間と週の所定労働日数をもとに算出した年次有給休暇が付与される。

「労働基準法」改正の流れ

「労働基準法」は1947年の制定以来、労働環境の変化に応じて改正を重ねてきた。1987年には週40時間労働制への段階的移行が始まり、1993年には「育児・介護休業法」が制定された。2010年には、月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が50%に引き上げられ、当初は大企業のみが対象だったが、2023年4月からは中小企業にも適用が拡大され、中小企業の月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率が50%に引き上げられている。

また2019年の「働き方改革関連法」では、時間外労働の上限規制(月45時間、年間360時間)が導入され、違反した使用者(企業)には懲役または罰金が科されることになった。さらに2023年4月には、賃金支払いにデジタルマネーが解禁されたほか、2024年4月からは、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されている(ただし災害復旧・復興事業は除く)。

このように、「労働基準法」は働き方の多様化や労働者保護の観点から、デジタル化への対応や長時間労働の是正など、時代に即した改正が進められている。

「労働基準法」の違反例と罰則

「労働基準法」では多くの基準とルールが定められているため、その違反例も下記のように多岐に渡る。違反の中には明確に“犯罪”となるものもあり、罰則も明記されている。

●労働基準法違反となる事例

・「36協定」を締結せず時間外労働を強制した
・残業代を支給しなかった
・正当な理由なく労働者を解雇した
・有給休暇の取得を妨害した
・女性の賃金設定が男性より低い など


こうした違反に対する罰則は、4段階に分けられている。罰則の内容とその対象は以下の通りで、悪質なものほど重い罰が与えられると考えていいだろう。

●労働基準法違反に対する罰則

・1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金(第117条)
暴行や脅迫などによって労働者の意思に反して労働を強制する行為や、退職希望を無視して働かせ続ける行為は“強制労働”であり、「労働基準法」第5条の違反となる。これにはもっとも思い罰が用意されている。

・1年以下の懲役または50万円以下の罰金(第118条)
労働者からの中間搾取(第6条違反)のほか、15歳未満の児童に労働をさせる行為(第56条違反)や18歳未満の者を坑内で労働させる行為(第63条違反)など、主に年少者に関する禁止事項を破った際の罰則である。

・6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金(第119条)
国籍、信条、社会的身分を理由として賃金・労働時間などの労働条件で差別的な扱いをする行為(第3条違反)、男女で異なる賃金設定(第4条違反)、労働者に対して違約金や損害賠償金を設定した契約(第16条違反)、業務で負傷した者の療養休養中の解雇(第19条違反)、解雇予告をしない(第20条違反)、有給休暇を与えない(第39条違反)、「法定労働時間」や「法定休日」を守らない(第32条違反・第35条違反)など、かなり多くの違反に対して、この罰が適用される。

・30万円以下の罰金(第120条)
労働者に対して賃金や労働時間などの労働条件を明示しない(第15条違反)、給与を指定の日に支払わない(第24条違反)といった行為に対する罰則。

まとめ~「労働基準法」への理解を深め、遵守しよう

ここに紹介したもの以外にも、「労働基準法」では労働者を保護するためのルールや基準が細かく定められている。ただし、いくつかの例を紹介したように「労働基準法」の適用除外となるケースも多い。

また働き方の多様化などにともない、「労働基準法」は改正が繰り返されてきた。近年では「年次有給休暇取得の義務化」、「高度プロフェッショナル制度」、「デジタルマネーによる賃金の支払い」、「時間外労働に対する割増賃金率」などが追加・改正された主な要素である。

「労働基準法」に加え「労働契約法」の目的・内容・改正条項を把握し、雇用契約などにしっかりと反映させていくことは使用者(企業)にとって極めて重要だ。違反すれば社会的な信用を失墜させてしまい、事業にも今後の雇用にも多大なる影響を与えることは間違いない。企業には「労働基準法」を遵守する義務があり、違反すなわち企業生命の危機と認識すべきである。

一方、「労働基準法」に定められた“最低限の基準”を超えた好待遇などを用意すれば、会社としてのイメージは良化し、従業員のエンゲージメント向上にもつながるだろう。ぜひ本稿や厚生労働省のサイトなどを参考に、「労働基準法」に対する理解を深めていただきたい。



よくある質問

●1日何時間働いたら「労働基準法」の違法になる?

「労働基準法」においては「休憩時間を除いて1日8時間・週40時間」という上限=「法定労働時間」が定められている。ただし卸売業や小売業などの「商業」、「映画・演劇業」、病院などの「保健衛生業」、旅館や飲食店などの「接客娯楽業」で、常時使用する労働者が10人未満の場合は「特例措置対象事業場」となり、法定労働時間は「1日8時間・週44時間」となる。

●週40時間以上働いたらどうなる?

「労働基準法」においては、「休憩時間を除いて1日8時間・週40時間」の法定労働時間を超える労働は禁止されている。これを超えて労働させる場合は、労使間で36協定を締結し、労働基準監督署に提出する必要がある。労働時間の上限時間に違反した企業には、労働基準法第119条に基づき、6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金刑が科される。
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