3段階に分けて施行される「育児・介護休業法」
今回の改正では、既存の制度をほぼ残した状態で、新たな制度が追加されました。それぞれの制度は一度に施行されるのではなく、複数の取り組みがいくつかの段階に分かれていますので、順を追って説明します。(1)2022年4月1日施行
育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び、妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け事業主は、「労働者に対する制度説明のための研修」や「相談窓口の設置」などのいずれかを取り入れることで、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備が必要になります。さらに、雇用する労働者またはその労働者の配偶者が、妊娠または出産したことを申し出た際、事業主は育児休業の制度を周知するとともに、制度の取得意向を確認することが義務付けられます。
有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
これまでは有期雇用労働者が育児・介護休業を取得する場合、引き続き雇用された期間が1年以上必要でしたが、この改正により撤廃されます。ただし、労使協定を締結することで現行のままとすることは可能です。ちなみに、有期雇用労働者が育児休業を取得するための要件である、「子が1歳6ヵ月になるまでの間に契約が満了することが明らかでないこと」については、そのまま残ります。
(2)2021年6月9日の公布から1年6ヵ月以内に施行
男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設子の出生後8週間以内に、4週間までの育児休業を柔軟に取得しやすくなる取り組みが新設されます。女性の場合は、子の生後8週までは産後休業を取得していることがほとんどなので、主なターゲットは男性ということになるでしょう。今回の目玉ともいうべき改正ポイントです。
●休業の申出期限については、原則休業の2週間前までとする(これまでは1ヵ月前まで)
●育児休業を分割して2回まで取得可能
●休業中の就労が可能(ただし労使協定を締結している場合に限り、労働者と事業主の個別合意により、事前に調整した上での就業とする
●1歳以降に延長する場合、休業開始日を柔軟化することで、各期間途中でも夫婦交代が可能に
育児休業の分割取得については、「出生後8週間以内で4週間までの育児休業」を2回に分割して取得が可能となり、さらに「出生8週間後の育児休業」についても2回に分割して取得することができるようになります。したがって、合計4回に分けて育児休業を取得できるようになるわけです。
さらに、子が1歳なった時「保育所に入れないなど」の理由で育児休業を延長する場合、現行の育児休業の開始日は、子が1歳・1歳半の時点に限定されていましたが、休業開始日がそれぞれ柔軟化されます。これにより、夫婦でそれぞれ育児休業を取るタイミングを調整することができるようになります。
(3)2023年4月1日施行
育児休業の取得の状況の公表の義務付けこの時期に到達すると、育児休業の取得状況について公表が義務化され、事業主は毎年少なくとも1回、公表することになります。ただ、公表義務の対象となっているのは、常時雇用する労働者数が1,000人を超える事業主です。
労働者1人に対して最大84万円! 「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」
このように、男性労働者にとって育児休業を取得しやすい制度が整備されますが、それでは事業主側が労働者に対して、育児休業の取得をプッシュしやすくなるような制度はあるのでしょうか。実は、中小企業であれば、育児休業を取得した労働者1人に対して、最大84万円が支給される助成金があります。これについて、詳しくご紹介しましょう。
両立支援助成金「出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)」
中小企業の場合において、子の出生後8週間以内に連続5日以上の育児休業を男性労働者に取得させると、事業主に支給されるものです。支給額は、育児休業の取得が1事業主単位で1人目の場合、基本額は57万円ですが、生産性要件を満たすと「72万円」に増額されます。また、個別支援加算の要件を満たすとさらに10万円が支給され、こちらも生産性要件を満たせば「12万円」に増額されるので、合計「84万円」が支給されるわけです。助成金が増額されるポイントとなる「個別支援加算」は、以下の取り組みを行った場合に加算されます。
●男性が育児休業を取得しやすくなるような職場風土づくり
●対象となる労働者に対して、育児休業を取得する前に個別面談などを実施して、育児休業の取得をプッシュする
助成金は、ただ申請書を作成するだけで支給されるものではなく、まずは企業として「育児休業の取得を後押しする取り組み」を行うことが必要となります。また、支給申請書の作成も複雑なため、社会保険労務士などの専門家に相談の上、進めてみてはいかがでしょうか。
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