中小企業の障がい者雇用は、大企業に比べると遅れを取っていると言わざるを得ない状況です。今回は、そんな中小企業における障がい者雇用の状況や、取り組めていない理由について見ていきたいと思います。また、現状を踏まえつつ、中小企業が障がい者雇用を進めるためのポイントも合わせて考えていきます。
中小企業の障がい者雇用の現状

データから読み解く中小企業の障がい者雇用の状況

中小企業の障がい者雇用の状況は大企業に比べると進んでいないことはデータからも明らかです。まずは「障害者雇用状況の集計結果」(厚生労働省)の結果から見ていきましょう。

企業規模別にみると、雇用率と法定雇用率を達成している割合は次の通りです。
令和2年度の民間企業全体の実雇用率は2.15%(同2.11%)でした。しかし、45.5人~100人未満の企業では1.74%、100~300人未満の企業では1.99%、300~500未満の企業では2.02%と平均実雇用率よりも低くなっています。このことからも企業規模が小さくなるほど、障がい者雇用が進んでいないことがわかります。

また、障害者雇用率は前年から比べて上がっているものの、民間企業に義務づけられた障害者雇用率2.2%を達成できていない企業は全体の半数に上っています。障がい者を1人も雇っていない企業は30,542社と、その割合は3割ほどとなっています。

最近では、障がい者の雇用が進んでいないと行政指導がかなり厳しくなっていることから、従業員が一定数いる企業において障がい者雇用が全くできていない状況があることは考えにくくなっています。となると、1人も雇っていない3万社の大部分は中小企業であると推測できます。このデータを見るに、障がい者雇用に取り組んでいるところと取り組んでいないところの差が広がっていると言えるでしょう。

なぜ、障がい者雇用ができていないのか、中小企業を対象とした調査結果では、次のような回答が挙げられていました。

障がい者を雇用していない理由(複数回答)

・障がい者に適した業種・職種ではないから … 55%
・受け入れる施設が未整備だから … 47%
・雇用義務のある企業ではないため … 43%
・障がい者雇用に関する知識が不足しているため … 30%
・募集しているが、採用できない … 17%


出典:障がい者雇用について(エン・ジャパン)

障がい者が雇用していない理由や悩みでトップだったのは、「業務・職種」についてでした。

従業員数が一定以上いる企業では、障がい者雇用の業務として、事務補助的な業務として定型的なものをいくつか切り出して1日の業務にする方法がよくとられています。しかし、中小企業にとってこの方法は多くの場合、切り出すのが難しいことがあります。

なぜなら、大企業における総務部や人事部、経理部などが担っている管理的な業務の多くは、中小企業では管理部門として複合的に行なっていることが多いからです。必然的に複数のマルチタスクが求めることになり、仕事の内容も多岐に渡ることになります。また、大企業で担っているほどの業務量がないことや、限られた人数で業務を効率的に回すことが求められることも少なくありません。

専門的な知識や経験が求められることも多く、それに見合う人材であれば雇用したいという企業はありますが、そのような人材はごく限られており、障がい者雇用で採用するできる人材の中から見つけ出すことは、かなり難しいと言えるでしょう。

企業全体で業務の見直しを検討し、組織に必要な業務を検討する

先に紹介した調査では半数以上が、「障がい者に適した業種・職種ではないから」を理由に挙げていました。このように考えている企業は、社内全体で定型的な業務がないかを洗い出すとよいでしょう。どんな職場でも、必ず一定の定型的な業務が存在します。これを、探して切り出すのです。この時、特定の部門だけで捉えると業務量が少ないケースが多いため、全社で考えていくのがポイントになります。

大切なのは、障がい者雇用のためだけに業務を見直し、切り出すのではなく、企業として全体を効率よく動かす仕組みを考えていくということ。障がい者雇用のためだけに目がいくと、業務の切り出しがごく限られたものになりがちです。

社内の業務を棚卸しし、例えば、定型的な業務を担っている社員がいるのであれば、その人にさらに上流の業務や役割を担ってもらうことによって、業務が生み出せるかもしれません。こうして、ある程度の業務量を確保できたなら、それを担う障がい者を雇用することが可能になります。

定型的な業務は、毎日同じ業務量である必要はありません。毎日ある仕事、週に1回の仕事、月に1回の仕事、年に数回ある仕事、これらをすべて定型的な業務として切り出します。もし、外部に外注している仕事や派遣に依頼している業務があれば、それも含めてください。そして、それをスケジュールに落とし込んで、1週間のおおよその内容を決めていきます。

それでも仕事量が足りない場合には、本来、やらなければならないけれど手がつけられていない業務や、今できていない業務でも本当は取り組んだほうがよいものはないかという視点から考えていくことができます。

例えば、中小企業には、自社のことをよく知ってもらうためにホームページやSNSを活用して情報発信を行いたいと考えているところは少なくありません。しかし、実際には手がまわっていないことが多いようです。このような情報発信を新たな業務として検討していくこともできるでしょう。はじめは情報発信から始まるかもしれませんが、毎日仕事として取り組んでいくことで、マーケティング的な要素も含めた業務に発展できるかもしれません。

また、営業サポートのような業務を担当してもらうこともできるでしょう。商談前後の細かなやり取りは、今まで通り担当者がすることになると思いますが、見込み客リストの作成やファーストコンタクトを取ること、見込み客の開拓などは、ある程度定型的なメッセージを送ることは業務の組み立てによっては十分できるものです。業務の内容を明確にしておき、マニュアルなどを作成しておくことにより、障がい者の業務にすることもできます。先ほど紹介したような情報発信やマーケティング、営業に関する仕事は、やりすぎて困るということはありません。また、パソコンを中心とした業務になるので、テレワークにも取り組みやすくなります。

中小企業のよくある悩みの1つに、人材不足があります。ある中小企業では、雇用のありかたを変えていかないと新たな人材が確保できないと判断しました。
そこで、多様な働き方として、テレワークで仕事をできるようにすることや、子育てや介護しながら働ける体制を整えることにしました。このような制度を整えた結果、一般の社員の採用や定着に関する問題を解決しただけなく、障がい者の雇用にも役立ったそうです。

障がい者雇用は大企業だけが行えばよいものではなく、中小企業を含めたすべての企業が取り組まなければならないものになりつつあります。障がいの有無に関わらず、社員の誰にとっても働きやすい職場をつくることが、安心安全な職場につながり、結果的に障がい者や他の社員に役立つこともあります。
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