コロナ禍にあって経営計画の見直しを強いられ、多くの人事施策を先延ばしにしている企業も少なくないだろう。だが、先行き不透明な今だからこそ取り組みたいことがある。組織を多様化させ、生き残るチャンスを高める策、「ダイバーシティ」だ。

ここでは人事施策研究のスペシャリストである慶應義塾大学大学院経営管理研究科・岩本隆特任教授と、AIを用いたビジネス英語スピーキングテスト『PROGOS』などグローバル人材の育成サービスで知られ、第6回HRテクノロジー大賞で「注目スタートアップ賞」を受賞した株式会社プロゴス 取締役社長 安藤益代氏の対談から、医療機器メーカー 「オリンパス」などを例にあげながら、日本におけるダイバーシティ経営のあり方を探った。

プロフィール


  • 岩本 隆 氏

    慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授
    岩本 隆 氏

    東京大学工学部金属工学科卒業。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)工学・応用科学研究科材料学・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータを経て、2012年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科 特任教授。HRテクノロジー大賞審査委員長、HR総研アドバイザー、(一社)ICT CONNECT 21理事、(一社)日本CHRO協会理事、(一社)日本パブリックアフェアーズ協会理事、(一社)SDGs Innovation HUB理事などを兼任。2020年10月、日本初のISO 30414導入リードコンサルタント/アセッサー認証取得。

  • 安藤 益代 氏

    株式会社プロゴス 取締役社長
    安藤 益代 氏

    野村総合研究所、ドイツ系製薬会社を経て、渡米。シカゴ大学国際関係論修士。ニューヨーク大学MBA 滞米7年半の大学院/企業勤務経験を経て帰国。
    英語教育・グローバル人材育成分野にて25年余の経験を有する。国際ビジネスコミュニケーション協会にて企業むけ英語テストの普及を担当し、グローバルリーダーの育成を支援。EdTech企業執行役員を経て2020年より株式会社レアジョブに参画。2021年より現職。

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ダイバーシティの世界的潮流は“コグニティブ” 重視

--日本のダイバーシティ経営について、その現状や海外との差異について、どのような印象を抱いていらっしゃいますか?

岩本 世界ではダイバーシティを2つに分けて考えるようになっています。1つがデモグラフィック・ダイバーシティ(Demographic Diversity)で、性別や人種といった「変えられない属性」に関するダイバーシティ。もう1つがコグニティブ・ダイバーシティ(Cognitive Diversity)。こちらは思考特性やスキル・経験など「トレーニングで身に付けられるもの」に関するダイバーシティで、認知的多様性と呼ばれています。

最近の研究によると、イノベーティブな組織を作るためには、デモグラフィック・ダイバーシティよりも、さまざまな思考特性やスキルを上手く掛け合わせるコグニティブ・ダイバーシティが重要だとされています。たとえばサステナビリティに関するスタンダードを作っているValue Reporting Foundation(旧SASB)という団体は、70以上もの業種にヒアリングして「サステナビリティを実現するためには、どのような人的資本が重要か」を調査しているのですが、やはり「コグニティブ・ダイバーシティがもっとも重要」とされていました。

ただ日本では、コグニティブ・ダイバーシティに着目した取り組みはまだまだ聞きませんね。
岩本教授
安藤 経営レベルでコグニティブ・ダイバーシティを意識している企業もありますが、ほとんどが現在デモグラフィック・ダイバーシティを推進しているという段階だと感じます。日本ではいまだに「ダイバーシティ=女性活躍」という意識の方もいて、事例紹介も“女性にとって働きやすい職場環境”といったケースが多いという印象をもちます。スコープも国内に閉じがちで、海外のグローバル企業とは少し温度差があるように思います。

岩本 もちろんデモグラフィック・ダイバーシティも「社内から差別をなくしていく」という意味では重要ですが、「とりあえず女性管理職の数を増やそう」という意識で進められている印象があります。しかも日本ではまだ男性中心の価値観が根強いため、男性的な思考特性を持つ女性ばかり重用されるケースが多いのではないでしょうか。

安藤 過去数十年を振り返ると、女性が総合職として重要なポジションについていく過程では、男性の価値観や期待値に過剰適応することも少なくはなかったと思います。でもいまは、個々の特性や価値観の違いに着目したコグニティブ・ダイバーシティを進めていくべきで、そうした多様性が企業の成長につながっていくはずです。

岩本 少なくとも「男性と同じように戦える女性が重用される」のはダイバーシティではありません。個々が持っている特性や能力を生かす、という視点が大切。コグニティブ・ダイバーシティに着目したマネジメントの重要性を、ぜひ認識していただきたいです。

ダイバーシティは「DEI」という言葉に置き換わりつつある

--ダイバーシティにおける日本の遅れ、世界基準との認識の違いは、他にもあるのでしょうか?

岩本 日本でも単にダイバーシティというだけでなく、ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity and Inclusion/多様性と包摂)という表現が定着しつつありますが、海外ではさらにエクイティ(Equity/公平性)をプラスしたDEI(Diversity, Equity and Inclusion)という言い方が浸透してきています。

ダイバーシティ推進を支援する団体「センター・フォー・グローバル・インクルージョン(The Centre for Global Inclusion)」のレポートも、今年からDEIという文言に切り替わりました。Googleもダイバーシティに関するレポートで「DEI」を用いています。

安藤 外資系の中には「将来に向けての重要な取り組みはDEIだ」と前面に押し出している企業も多いですね。
安藤様
岩本 エクイティとは何かというと、典型的なエピソードがシリコンバレーにある某メガベンチャーでの出来事です。社屋から遠く離れた場所にしか駐車場の空きがなかったために、妊娠中の女性役員が会議に遅刻してしまいました。これに対してその企業は「もっと早く出社すれば」などと言わず、「妊婦用の駐車場を社屋の近くに」という要望に応えたのです。

また「DEI」というキーワードで検索すると“身長に合わせた踏み台が用意されれば、背の低い人も高い人と同じ条件で働ける”というイメージイラストが出てきます。こうした“ハンデをカバーして公平に”という意識や取り組みの重要性に、日本の企業はまだ気づいていないように思います。

この後、下記のトピックが続きます。
続きは、記事をダウンロードしてご覧ください。
●最新の研究から紐解く、ダイバーシティの世界的潮流
●ダイバーシティから置き換わりつつある「DEI」とは
●ダイバーシティの取り組みと密接にかかわる『ISO 30414』
●世界的企業「オリンパス」のダイバーシティへの取り組み
●ダイバーシティ経営に適合した人材育成とマネジメントの形
●HRテクノロジーとEdTechがダイバーシティに必要な人材育成に役立つ


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