■第1回:中高年社員の「キャリア形成」を企業がサポートすべき本当の理由
■第2回:中高年社員の「キャリア形成」で最も重要な「やる気」をどう引き出すか?
■第3回:企業が行う中高年社員向け「キャリア形成」サポートの具体的な内容とは?
中高年社員のキャリア形成が社会的に求められている
最初に読者の方に申上げたいのは、日本の会社の中高年社員というもの、出世を遂げた一部の方々を除き、言葉を選ばずに表現すると、組織の中で「飼い殺し」の状態にあるのではないか? 本当にそれで良いのか? という何十年もの間、抱き続けた疑問が本稿の出発点です。そういう大概の中高年社員も、考えてみれば若い頃は会社のために粉骨砕身、必死に働き、いつしか出世競争から遅れだすにつれて閑職に追いやられ、諦観の中で闘うことをやめ定年を待つ「会社へのぶら下がり状態」に陥ってしまったのではないかと思います。
彼らの心の底では会社に対する熱い思いがマグマのように流れ、それを解き放ってやれれば、社員も会社もハッピーになれる……そんな道を日本の産業界はこれから追求すべきではないかと希って「人生100年時代を見据えた、中高年社員のキャリア」というテーマを進めようと思い立ちました。
「65歳への定年延長」、「更なる競争激化への対応」、「長引くコロナ禍」、「DXの推進」、「ジョブ型社員制度の導入機運」……こうした、激変ともいえる環境変化の中で、労働法制上安易に社員を解雇出来ない日本企業は、いよいよ中高年社員を放置するのではなく、中高年社員の「活性化」あるいは「戦力化」に真剣に取組まなければならなくなったと言っていいでしょう。
この問題は、程度の差こそあれ、1990年のバブル崩壊以降、本来であれば日本企業が真剣に向き合わなければならない問題であったのに、実際は、「役職定年制」、「60歳以上の顧問契約」、「確定拠出年金への移行」といった制度導入によって何とか持ちこたえることとなり、活性化・戦力化についての抜本的な対策は手付かずだったのだと思います。
「人生100年時代」と言う言葉は、社会的な環境変化によって引き起こされている現象であり、本来は企業が主語ではなく、社員が主語の言葉です。もちろん企業としても社員の幸せを願うという面はあるとは思いますが、企業の本音としては、「会社にぶら下がる中高年社員の存在」をこれ以上放置出来ない、働くシニアを雇用する機会が増えるなら「良い人材に自社で働いてほしい」という生々しい話ということになります。
つまり、もう今回ばかりは、「企業主導」で、この「中高年社員の活性化問題」にメスをいれなければならない、しかしそれは相当高いハードルであることは経験的に分かっている……このギャップをどうすれば良いのか、企業の人事担当の悩みは深いように思います。「ブラック企業」というレッテルも恐いので、もはや「リストラ部屋」も作れないし、「付加価値を産まない部署」で中高年社員を抱えていられる人数はとっくに超えており、このまま増え続ければ、若手社員の意識を阻害し社内全体の活力に水を差すことになるのは明らかでしょう。
それは、中高年社員からの視点でも、なまじっか現在の企業側の対応がそれなりに「心地よい」ものであるだけに、自ら定年後の経済的な生活設計について真面目に考えずに、定年後(あるいは雇用延長終了後)、企業から放り出され、そこで初めて現実の厳しさに直面することになるという社会的な問題を引き起こしています。
すなわち、定年退職後に「やっぱり、俺のスキルじゃ雇ってくれる会社はないなぁ」という不都合な真実です。
企業が出来る中高年社員のキャリア形成へのサポートは、「環境づくり」
これまで企業が中高年社員の活性化のキモとなる中高年社員の「キャリア形成」から目を背けてきたのは、次のような事情からです。(1)企業が主導して「キャリア形成」に力を入れても、社員の側は既に「会社にぶら下がる」依存心(実は、これは昭和の企業側が意識的に育んできたものでもあります)に支配されていて、中高年社員自体に主体性がないのが現実
(2)同時に、福利厚生の観点などから多少突っ込んで行うと、「リストラや希望退職の準備か」と勘ぐられかねない
しかしながら、定年延長で企業が面倒を見なければならない期間が長くなっているのですから、飼い殺しにしているのではなく、全員でなくてよいから、少しでも多くの中高年社員に「意識を変えて」「キャリア形成に対して主体的に取組んで」「変わっていかなければならない会社の社業のプラスになるような業績を挙げて欲しい」という機運が生まれてこないと、もう会社が持たないのです。
ここで生じる問題はただ一つ、「中高年社員の活性化は可能なのか?」です。
先に結論を言ってしまうと、中高年社員の活性化は『十分可能』です。コロナ禍で会社と社員の関係性に転機が訪れ、「人生100年時代」が喧伝され、「年金問題」で定年後の家のマネー事情について目を向けざるを得ない今こそ、正に企業として手を打つ良いタイミングなのだと思います。
企業が心掛けることは「企業と社員が共に社員のキャリア形成に向き合う仕組みの構築」を目指し、そうした仕組みの構築という「環境整備」と、社員の意識改革を促すための「仕掛け」ということになります。
HRプロを愛読されている、HR部門を中心とする企業の皆さんは、恐らく「十分可能」という私の上記の断言に、やや疑心暗鬼かと思います。
でもご安心ください。私自身最初の会社での挫折を経て45歳に初めての転職をして以来、現在まで10社程度(数が数えられなくなっています・・・笑)を経験した過程で、自分自身が試行錯誤の中で大きく成長し、時には大学教授として教壇に立ち、最近では起業するなど、「活性化」しまくりました。この、試行錯誤で身につけてきたキャリア形成の方法、意識改革の方法、その結果としての中高年の活性化は、自分自身の体験に基づく体系的な形になっていて、誰でもやる気がありさえすれば実行可能です。
起業した会社の人財育成関連の業務として、今たくさんの中高年のビジネスパーソンと話す機会があります。世間に流布している様々な「偏見を取っ払い」、「自分ごととして行動する」ことによって、中高年でも、大概の人は「変わること」が出来るのです。
今の中高年ビジネスパーソンは、様々な情報の中で、昔と比べてはるかに過去の経験の質も高く、知識も豊富です。会社も社員自身も、最初から「出来ない」と決めつけていては何も変わりません。
中高年社員のキャリア形成の意識が高まれば、今の仕事にも好影響が
中高年に限らず、「キャリア」についてモヤモヤしている人は、知識過多になっていて、それゆえに自分の中で整理が出来なくなっている場合が多いです。自分の頭の中だけでグルグルと思索を繰り返すのではなく、他者、それも出来るだけ社外の人と話すこと、そして何でもいいから行動して一歩踏み出すこと、それだけでキャリアや定年後の人生に関しての意識は変わっていきます。
その思索がある一定の形となって、「他の場所でも出来る。定年後も自分の足でしっかり経済活動を進めていける」という確信めいたものに変わっていけば、そのビジネスパーソンは顔を上げ、今やっている自分の業務に対しても再び目を輝かして取り組んでいくはずなのです。
「キャリア形成」というものは、現在自分が行っている業務の延長線上にしかないのであり、その社員の今と過去の実績の中にしか、今後のキャリアのヒントはありません。
そのことに気づき、自身のキャリアのバージョンアップが視野に入ってきたとき、中高年社員は成長のための行動に一歩踏み出す……その時、会社のお荷物ではない、自律的な社員、そして100歳まで有意義に生きていける人間に変われるのだと思います。
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