障がい者雇用に携わっていると、「もしかして社内に障害者手帳を持っている社員がいるのではないか」と考えることがあるかもしれません。特に、障がい者雇用率が未達成の場合には、社内に該当者がいないかを確かめたくなるでしょう。新たに障がい者雇用をすることを考えることも大切ですが、すでに働いている社員に手帳を持っている人がいれば、雇用率をカバーできることもあります。しかしながら、プライバシーに関わる内容のため、確認の方法や進め方などは慎重である必要があります。ここでは、人事が障害者手帳を持っている社員をどのように確認・把握していけばよいのかを説明していきます。
人事が障害者手帳を確認・把握するときにおさえておくべきポイント

社員に対する障害者手帳の把握方法

障害者手帳の確認は、特定の社員に対して、周囲のもつイメージや意見をもとに、障がいの有無についての確認を行うことは適切ではない方法とされています。職場における障がい者であることの把握・確認については、厚生労働省から「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン※」が示されており、これにそった形で周知をすることが大切です。



働いている社員に、障害者手帳の把握・確認を行う場合には、基本的には、雇用する社員全員に対して、「画一的な手段」で申告を呼びかけることが原則とされています。つまりすべての社員が同じ条件の元で情報を受け取るようにすることが必要です。

画一的な呼びかけ方法として明示されているものは、次のようなものがあります。
・従業員全員が社内LANを使用できる環境を整備し、社内LANの掲示板に掲載する
・従業員全員に対して一斉にメールを配信する
・従業員全員に対して、チラシ、社内報などを配布する
・従業員全員に対する回覧板に記載する


一方で、不適切な呼びかけ方法として示されているのは、次のようなことです。
・従業員全員が社内LANを使用できる環境にない場合において、従業員全員に対してメールを配信する
・障がい者と思われる従業員のいる部署に対してのみチラシを配布する


基本的には、雇用する社員全員に対して、「画一的な手段」で申告を呼びかけているものの、場合によっては個人に照会することもできます。例えば、障がい者である従業員本人が、職場において障がい者の雇用を支援するための公的制度や社内制度の活用を求めて、企業に対し自発的に情報を提供するようなケースなどです。

具体的に想定されるケースは、次のようなものです。
・公的な職業リハビリテーションサービスを利用したい旨の申し出があったとき
・企業が行う障がい者就労支援策を利用したい旨の申し出があったとき


復職支援制度の利用の申出を理由に照会をする場合は、本人の障がいの受容の状況や病状等を熟知している専門家(保健医療関係者、産業医など)がいるときは、事前に相談などをして、照会を行うことが適切かどうかを判断することをおすすめします。照会を行なう理由として不適切とされている例や、状況によって不適切とされる例は、次のような場合があります。

■照会を行う理由として不適切な例
・健康等について、部下が上司に対して個人的に相談した内容
・上司や職場の同僚の受けた印象や職場における風評
・企業内診療所における診療の結果
・健康診断の結果
・健康保険組合のレセプト


■個別の状況によっては照会を行う理由として不適切な場合があり得る例
・所得税の障害者控除を行うために提出された書類
・病欠・休職の際に提出された医師の診断書
・傷病手当金(健康保険)の請求に当たって事業主が証明を行った場合


社員本人の障がいの受容の状況や病状等によっては、これらの情報をもとに照会を行うこと自体が、本人の意に反するようなケースが考えられる場合があります。照会を行うことが適切かどうかの見極めについては、企業において個別ケースごとに慎重に行う必要があります。

障害者手帳を把握・確認するときのポイント

申告を呼びかける際には、「障害者雇用状況の報告等のために用いる」という利用目的等の事項を明示することが求められています。つまり、障がい者雇用の目的のための情報だと認識できる形で、手順を踏んで同意を得ることが必要だということです。

例えば、障害者雇用状況の報告等のために用いるという利用目的が、他の多くの事項が記載された文書の中に記載されている場合、社員がその部分に気付かない可能性も考えらます。このように、利用目的が記載された部分をすぐに判断できない書面を手渡す場合、社員本人が、情報の利用目的及び利用方法を理解したうえで同意を行うことができるよう別途説明を行うなどの配慮することが勧められています。

また、障害者雇用状況の報告等以外の目的で、社員から障がいに関する個人情報を取得することがあっても、あわせて障害者雇用状況の報告等のための情報としても同意を取ることはしないように求められています。

本人に対して明示するときには、次のような点を示すとよいでしょう。
・利用目的(障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請のために用いること)
・利用目的の報告等に必要な個人情報の内容
・取得した個人情報は、原則として毎年度利用するものであること
・利用目的の達成に必要な範囲内で、障がい等級の変更や精神障害者保健福祉手帳の有効期限等について確認を行う場合があること
・ 障害者手帳を返却した場合や、障がい等級の変更があった場合は、その旨人事担当者まで申し出てほしいこと
・特例子会社または関係会社の場合、取得した情報を親事業主に提供すること


また、把握・確認に当たっては、本人が障害者手帳等の所持を否定した場合や、照会に対する回答を拒否した場合、回答するよう繰り返し迫ることや、障害者手帳等の取得を強要しないようにします。

把握・確認に当たっての禁忌事項は、次の事項です。
・利用目的の達成に必要のない情報の取得を行ってはいけません
・社員本人の意思に反して、障がい者である旨の申告または手帳の取得を強要してはいけません
・障がい者である旨の申告または手帳の取得を拒んだことにより、解雇その他の不利益な取扱いをしないようにしなければいけません
・正当な理由無く、特定の個人を名指しして情報収集の対象としてはいけません
・産業医等医療関係者や企業において健康情報を取り扱う者は、障害者雇用状況の報告、障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金または報奨金の申請の担当者から、社員の障がいに関する問い合わせを受けた場合、本人の同意を得ずに、情報の提供を行ってはいけません


障害者手帳の確認・把握に関する案内は、いつおこなうとよいのでしょうか。

多くの企業では、年末調整の扶養控除申告書で、障害者手帳の有無を確認しています。これなら、年末調整の案内と一緒に障がい者雇用情報把握の依頼を出せます。また、この時に障がい者本人に対する公的支援策や企業の支援策について、あわせて伝えるとよいでしょう。

その他の機会では、企業が障がい者雇用を進めるときに全社的に案内を出す場合や、障がい者雇用に関連した研修などを実施する場合などで、施策と合わせて周知がしやすいです。

人事担当者が、社員の障害者手帳所持に関して把握できる場面としては、他にも住民税の通知からわかるケースもあります。ただ、住民税の通知で確認できたとしても、本人が扶養控除移動申告書に記載していない、手帳の写しを添付しない場合には、自分の意思で会社に申し出ていないことを尊重し、毎月の給与や年末調整での所得税控除には反映させないと判断されている企業が多いようです。

新たに障がい者として採用する場合には、ご本人がオープンにしていることから把握しやすくなっていますが、すでに働いている社員の場合には、プライバシーにかかわる点を考慮しながら進めることが大切です。
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