「育児・介護休業法」改正で“男性の産休”の取得促進へ
「育児・介護休業法」は、当初「育児休業法」として1992年に施行された。のち1995年に「育児・介護休業法」へと改正され、時代の移り変わりに合わせて改正が繰り返されてきた。男性の育児休業取得率については、「少子化社会対策大綱(2020年5月29日閣議決定)」において、“2025年には取得率30%にすること”を目標としている。しかし、厚生労働省の「令和元年度雇用均等基本調査」の“事業所調査”によると7.48%にとどまっており、男性の育児休業取得率向上は、かねてからの課題であった。
今回の「育児・介護休業法」の改正では、男性の育児休業取得の促進などをさらに図るため、自身の子の出生直後に柔軟な育児休業を取得できるようになるほか、「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」、「個別の周知・意向確認」の措置などが企業に義務付けられる。
改正のポイントは次のとおりだ。
1.男性の育児休業取得促進のための子の出生直後の時期における柔軟な育児休業の枠組みの創設(施行期日:公布日から1年6月を超えない範囲内で、政令で定める日)
男性労働者が、子の出生後8週間以内に4週間まで育児休業を取得できる(出生時育児休業)。女性の産後休業が産後8週間であることから、「男性の産休」ともいわれている。現行の育児休業制度との相違点を表にまとめたので見てみよう。2.育児休業を取得しやすい雇用環境整備及び妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置の義務付け(施行期日:2022年4月1日)
事業主には、次の措置を講ずることが義務付けられる。(1)育児休業の申出・取得を円滑にするための雇用環境の整備に関する措置
(2)妊娠・出産(本人又は配偶者)の申出をした労働者に対して事業主から個別の制度周知及び休業の取得意向の確認のための措置
※専用の相談窓口の設置や、制度周知用の案内文書、対応マニュアルを用意しておくと、対応がスムーズだ。
3.育児休業の分割取得(施行期日:公布日から1年6月を超えない範囲内で、政令で定める日)
育児休業について(1の「休業」を除く)分割して2回まで取得することが可能となる。分割しての育児休業の取得が可能となることから、労働者毎での対応が必要となってくる。4.育児休業の取得の状況の公表の義務付け(施行期日:2023年4月1日)
常時雇用する労働者数が「1,000人超の事業主」に対し、育児休業の取得の状況について公表を義務付けられる。5.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和
有期雇用労働者の育児休業及び介護休業の取得要件のうち、「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」であることという要件が廃止される。ただし、労使協定を締結した場合には、今までどおり対象から除外することが可能となることから、労使協定の見直しもしておきたい。“男性の産休”に対し、企業はどう対応すべきか? 保険料免除要件も見直しに
「育児・介護休業法」の改正に伴い、「雇用保険法」も改正となったため、出生時育児休業期間や育児休業の分割取得についても「育児休業給付金」の対象となる。また、「健康保険法」も改正されるため確認しておこう。育児休業中の保険料免除要件が見直され、短期の育児休業の取得に対応して「月内に2週間以上の育児休業を取得した場合」には当該月の保険料を免除するとともに、賞与に係る保険料については「1月を超える育児休業を取得している場合」に限り、免除の対象となる。今までは、月末日に育児休業を取得すると“保険料免除”となることから、「短期間の男性の育児休業取得の際に、月をまたいでの育児休業とするケース」も多かったが、注意が必要になってくるだろう。
企業としては、上記に説明した事項の整備や、就業規則の改正に取り組む必要があるが、あわせて「パタニティーハラスメント(パタハラ)」対策もしておきたい。厚生労働省が2020年10月にインターネットで実施した調査によると、過去5年間に勤務先で育児に関する制度を利用しようとした男性の26.2%が、育児休業などを理由に嫌がらせ(パタハラ被害)の経験があると回答している。
また、ハラスメントを受け、利用をあきらめた制度では、「育児休業」の割合が最も高く、42.7%の人が取得をあきらめていた。制度があるのに利用者が伸び悩んでいる背景に、「パタハラ」もあるという現状が明らかになっている。
男性の育児休業取得については、職場環境の改善も大きな鍵となっていることから、まずは企業全体の意識改革に取り組む必要があるのかもしれない。
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