東京オリンピック開催中は長時間のテレビ放送が予定されている
今回のオリンピックでは17日間にわたり33競技339種目が実施され、パラリンピックについては13日間に22競技539種目が行われる予定だ。しかし、新型コロナウイルス感染症の影響により観客数に“上限”が設けられたため、直接競技会場で観戦するのは難しそうである。一方、テレビ放送は充実しているようだ。6月21日に「一般社団法人日本民間放送連盟」が発表した“東京オリンピック民放地上波テレビタイムテーブル”によると、地上波では大会期間中のほぼ毎日、朝9時前後から夜23時の競技終了まで、生中継を中心とした放送が行われるようである。さらに、夜23時から夜中の2時までは、注目競技の録画放送も予定されている。
そのため、国内で開催される大会ではあるが、「自宅のテレビで観戦する」という方が多いのではないだろうか。
在宅勤務の“生産性の低下”が懸念?「テレビのオリンピック放送」
現在、コロナ禍で多くの企業が「在宅勤務」を導入している。さらに、オリンピック期間中のテレワークを推奨する「テレワーク・デイズ2021」(※1)という取り組みに合わせ、「在宅勤務」を実施する企業もあるだろう。このように、現在注目を浴びる「在宅勤務」だが、“生産性の悪化”を懸念する声も少なくない。とりわけ、終日にわたってオリンピックの模様がテレビ放映される大会期間中は、「在宅勤務中にテレビ放映で観戦する」、「連日、深夜までオリンピック放映を観る」などの行動をとる社員が出る可能性は否めない。その結果、在宅勤務者については、次のようなトラブルの発生が懸念されるだろう。
(1)始業・終業時刻の形骸化
(2)業務中の集中力・労働密度の低下
(3)業務の遅延・誤りの増加
(4)上記に起因する時間外労働の増加
つまり、「在宅勤務者の生産性低下」という労務リスクが顕在化しやすいのが、オリンピック開催期間中の在宅勤務の特徴といえるだろう。
生産性維持・向上に有効な「トップメッセージ」と「短時間マネジメント」
それでは、オリンピック開催中に、在宅勤務者を適切に就労させるにはどうすればよいだろうか。まず、必要となるのは、「オリンピック開催期間中の在宅勤務のあり方」について、全社員が共通認識を持つことである。自社の社会的役割・存在意義を踏まえ、「ビジネスパーソンに相応しい勤務行動をとること」などを、大会開催前に社員一人ひとりが心に刻む必要がある。社員にこのような好ましい意識付けを行えるのは、「トップメッセージ」だけである。従って、社長などの企業トップから直接、全社員に対して「オリンピック開催期間中の在宅勤務のあり方」に関するメッセージを発信することが重要である。
あわせて、人事部門からは就業規則やテレワーク規程、在宅勤務規程にある服務規律の記載について、全社員に再度、周知を図るとよい。特に、在宅勤務規程には「在宅勤務中の社員には、業務に専念する義務が課されている」という趣旨の定めが置かれているケースが多いので、この点を社員に再認識させるのがよいだろう。
さらに、各部門では「短時間マネジメント」に取り組むとよい。「短時間マネジメント」とは、業務管理を行う単位時間を短くするマネジメント手法である。例えば、単位時間を2時間と決めたケースでは、1日の勤務について2時間ごとに達成目標を明確化した上で、業務に取り組むことになる。この場合、業務の進捗管理が2時間ごとに繰り返されるため、「テレビ放送を見ながら仕事をする」などが行いづらい。その結果、生産性の維持・向上が期待できるものである。
大会期間中の「有給休暇の取得奨励」が“悪癖”の要因になる?
オリンピックの開催期間に合わせて有給休暇の取得を奨励し、取得日数の増加を図ろうと考える企業があるかもしれないが、筆者はこの考えにあまり賛同できない。社員が「在宅勤務時のテレビ視聴習慣」という“悪癖”を身に付けかねないからである。“オリンピックの開催期間に合わせて有給休暇の取得を奨励”した場合、恐らくほとんどの社員は、自宅でテレビ放送を観戦することになるだろう。しかしながら、テレビの視聴には「習慣化しやすい」という大きなリスクが内在している。
そのため、休暇の取得を終えて通常の在宅勤務に戻ったとしても、よほど自律性の高い社員でない限り、仕事中にテレビをつけてしまいかねないだろう。上席者の物理的な監督下にない在宅勤務では、自身の行動の制御は極めて困難に近いのだ。
現在、5人に1人は在宅勤務中にYouTubeなどの動画の視聴経験があり(※2)、その結果、「在宅勤務者の労働生産性は低下している」といわれる。それにもかかわらず、企業側から大会期間中の有給休暇取得を呼びかけ、オリンピック放送の視聴を促すような労務施策は、その後の「在宅勤務」を見据えたときに本当に好ましいといえるのだろうか。
オリンピック期間中における在宅勤務時の規則を追加するなど、企業側も上記例を踏まえて十分な検討が必要になってくるだろう。
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