7割の企業で支給されている“ボーナス”
今年も夏のボーナスの支給時期が到来した。現在、企業の約7割でボーナスが支給されており、平均支給額は約38万円である(毎月勤労統計調査-令和2年年末賞与の結果/厚生労働省)。昨年の冬に支給されたボーナスは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり「飲食サービス業」、「生活関連サービス業」を中心に、多くの業種で前年よりも支給額が減額された。ところが「電気・ガス業」、「不動産・物品賃貸業」など、前年よりも支給額が増額されている業種も一部あり、平均では前年比2.6%減のボーナス支給となった(同調査)。
このように不安定な経済環境下では、「ボーナスを受け取ってから会社を辞める」という社員が出ることも考えられるだろう。そのときに“問題”となるのが、退職することがわかっている社員に支払うボーナスの「社会保険上の取り扱い」をどうするかである。
「資格喪失月」にボーナスを支給すると、原則として“保険料の徴収対象にならない”
退職予定者に支払われるボーナスが、「厚生年金」や「健康保険料」の徴収対象になるかどうかは、ボーナス支給月がその社員にとって「厚生年金等の資格喪失月に該当するか」どうかで判断をすることになる。「厚生年金」や「健康保険」から抜けることを「資格喪失」といい、抜けた当日を「資格喪失日」、抜けた月を「資格喪失月」という。ボーナス支給月に退職予定の社員の場合は、ボーナス支給月がその社員の「資格喪失月」に該当するのであれば保険料を徴収せず、「資格喪失月」の前月に該当するのであれば保険料を徴収するのが原則ルールである。
具体例で見てみよう。例えば、7月5日に夏のボーナスの支給を受け、7月25日付で退職する社員を考えてみよう。この場合、ボーナス支給月は7月なので、この社員の厚生年金等の「資格喪失月」も7月であれば、ボーナス支給月が「資格喪失月」に該当することになる。その結果、厚生年金等の保険料の徴収対象にはならない。
ここでポイントとなるのは、厚生年金等から抜けた当日にあたる「資格喪失日」の考え方である。厚生年金等の「資格喪失日」は退職日の翌日である。そのため、退職日が7月25日の本ケースでは、「資格喪失日」は翌日の7月26日となる。
その結果、「資格喪失月」は7月になり、ボーナスの支給月が「資格喪失月」に該当することになる。従って、厚生年金等の「保険料の徴収対象にはならない」と判断するのが原則である。在職中に支給されたボーナスではあるが、そのボーナスから保険料を天引きするのは“誤り”というわけである。
ボーナス支給月が「資格喪失月」にならないこともある
それでは「ボーナス支給月に退職した場合」に、ボーナス支給月が厚生年金等の「資格喪失月」に該当しないケースというのはあるのだろうか。次の事例を見てみよう。今度は、7月5日に夏のボーナスの支給を受け、7月31日付で退職する社員の場合だ。前述のとおり「資格喪失日」は退職日の翌日なので、退職日が7月31日の本ケースでは、「資格喪失日」は翌日の8月1日となる。
「資格喪失日」が8月1日ということは、「資格喪失月」は8月である。そのため、ボーナスは「資格喪失月」の前月に支払われたことになり、7月31日に退職した本ケースでは、「保険料を徴収する」というのが正しい事務処理となるわけである。
以上のように、ボーナス支給月に退職した場合には、ボーナス支給月が厚生年金等の「資格喪失月」に“該当するケース”と“該当しないケース”が存在する。実はこの違いは、退職日が「月末か月末以外か」に起因して発生する現象なのだ。
ボーナスが支給された月の末日で退職した場合には、ボーナス支給月は「資格喪失月」の前月になり、保険料の徴収が必要となる。これに対し、月の末日以外の日で退職した場合には、ボーナス支給月が「資格喪失月」に該当するため、保険料の徴収が不要となるということを覚えておこう。
保険料を徴収しなくても届け出は「必要」
最後に、届け出について見てみよう。通常、ボーナスを支給すると、5日以内に日本年金機構および健康保険組合に対して「被保険者賞与支払届』を提出し、その結果、保険料計算の根拠となる標準賞与額が決定される。そのため、ボーナスが「保険料の徴収対象にならない」場合では、日本年金機構等への届け出が不要のように思える。しかし、健康保険の標準賞与額には年度の累計額に「573万円」という上限が決められており、この累計額の計算には、「資格喪失日の前日までに支給された全てのボーナス」が含まれることになっている。
そのため、ボーナス支給月の末日以外の日に退職したために“保険料の徴収対象”にはならなくても、資格喪失日の前日までに支給されたボーナスであれば「被保険者賞与支払届」に必要事項を記載して届け出なければならない。この点は見落としがちな取り扱いなので、注意しておきたい。
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