「企業文化」とは? 組織風土や社風と何が違う?
まずは、「企業文化」の意味を説明していきたい。類する言葉が幾つかあるので、それらとどう違うのかも抑えておこう。●「企業文化」とは
「企業文化」とは、企業と従業員との間で意識的、あるいは無意識的に共有されている独自の価値観や行動規範を言う。英語では「corporate culture」や「company culture」と表現される。そのベースとなっているのは、創業時からの歴史や伝統、実績、経営者の思考だ。当然ながら、内容は企業によって大きく変わってくる。企業文化は、企業活動に大きな影響を与える。マネジメントの父と称される、ピーター・ドラッカー氏も「企業文化は戦略に勝る(Culture eats strategy for breakfast)」という有名な言葉を残している。企業文化の醸成や変革にいかに取り組んでいくかは、企業の未来を左右するといっても良いくらいだ。
●「企業文化」と組織風土との違い
「企業文化」と似た言葉に、組織風土がある。組織風土とはその企業や組織の内部に根付いた独自性によって生まれ、培われた暗黙のルールや習慣などを指す。時代の流れや外部からの影響を受けにくく、大きく変化することはない。一方、文化とは、もともと人間が自ら築きあげていくものである。企業が市場の変化や社会情勢の変遷を受け、意図的・戦略的に形成、醸成、変革していけるのが企業文化であり、仕事の仕方に大きな影響を与える。●「企業文化」と社風との違い
社風も、「企業文化」に類する意味で良く使われるが、まったく同じではない。社風とは従業員が感じているその会社の特徴や雰囲気を意味する。活発、のんびり、温かみがある、おおらかなど、職場の空気感も要素に含まれてくる。これに対して、企業文化は社員の間で共有されている、ないしは統一されている「文化」と言える。これがあることによって、従業員は日々安心して働けるだけでなく、チームとしての一体感も高まってくる。この二つの言葉を人間に譬えるとするならば、社風は人柄や性格、企業文化は哲学や価値観と言って良いだろう。「企業文化」はなぜ必要か、企業にとっての重要性を解説
次は、そもそも「企業文化」がなぜ必要なのか、どうして重要なのかを解き明かしていきたい。●迅速な意思決定
ビジネスは日々決断の連続と言える。特に現代は変化のスピードが速いだけに、意思決定が遅れたことが致命的になることすらありえる。この点、企業文化が明文化されていれば、社員共通の指針として機能することができる。もし、判断に悩むことがあったとしても、企業文化に立ち返れば、思い込みや偏見による判断ミスを防ぐことが可能となる。自ずと、迅速かつ的確な意思決定につながると言えるだろう。●チームワークの強化
「従業員数が増えて来たのは良いが、一体感がなくなってきている」、「従業員一人ひとりが別々なベクトルに向かって仕事をしている」。そんな悩みを抱いている企業も多いのではないだろうか。明確な企業文化があれば、従業員は同じ価値観や判断基準に立てるため、連帯感が生まれやすい。結果的に、社員間のコミュニケーションがスムーズになり、情報共有や連携が活発化していける。●生産性向上
明確な企業文化があれば、従業員は企業のあるべき姿に向かって「自分は何ができるか」、「それを実現するにはどうすれば良いか」といったことを自発的に考え、行動していけるようになる。当然、社員のパフォーマンスは向上するし、仕事にやりがいを感じやすくなるのでモチベーションも上がってくる。そうした従業員が増えれば、増えるほど、企業の生産性向上につながると言える。●事業成長
企業文化が明確化されていると、人材の採用や確保がしやすい点も大きなポイントだ。まず採用にあたっては、常日頃から外部に向けて自社の企業文化を発信することで、それに魅力を感じる人材を募ることができる。しかも、応募者を判断する際の基準も「自社の企業文化に合っているかどうか」とクリアなので、採用のミスマッチを防げる。企業文化に合致した社員は、仕事への満足度も高く、パフォーマンスを発揮しやすいので、退職する確率も少なくて済む。優秀な人材の定着が、事業成長につながるのは明らかといえと言えよう。「企業文化」のこのデメリットには要注意!
「企業文化」の重要性やメリットに触れてきたが、実は幾つか注意しなければいけない点もある。デメリットもしっかりと理解しておいてもらいたい。●ユニークなアイデアやイノベーションが生まれにくい
企業文化に固執すると、どうしても同じような思考パターンや行動パターン、意識を持った人材ばかりを集めてしまいがちだ。そうなると、思考や行動が画一化されたり、前例や従来からの枠に捉われがちになったりしてしまい、斬新な発想やイノベーションが起こりにくくなると言える。●排他的な企業になりやすい
独自性の強い文化であるほど排他性が生まれやすくなる。能力がどんなに優れていたとしても、企業文化にそぐわないと周囲から思われてしまうと、他の従業員から距離を置かれてしまう。そうした行動が続けば、対象とされた従業員は退職せざるを得なくなってしまうだろう。また、独自性が強ければ強いほど、外部から「関わりにくい企業」という印象を持たれてしまう可能性もある。いずれにもならないよう、定期的にチェックする必要があるだろう。「企業文化」を醸成するうえで欠かせない8つの要素
今度は、「企業文化」を形成する要素を解明していきたい。ここでは、8つのポイントを取り上げる。(1)ビジョン(Vision)
「ビジョン(Vision)」とは、その企業が目指す理想の未来像であり、企業としての理念・志とも言える。まさに、企業文化を生みだす重要な要素となる。ビジョンを明確に提示し、明文化していけば、企業はその実現に向けた価値観を形成することができるし、従業員の意思決定や行動を正しい方向に導いきやすくなる。さらには、社会貢献などをビジョンに織り込むと、社外へのアピールにもなると言えよう。(2)果たすべき使命(Mission)
ミッションとは、その企業が事業を通じて成し遂げたいこと、果たしたいことである。企業活動を行う上で基盤となる考え方とも言い換えられる。ミッションが浸透することで、従業員は自社の存在意義や存在価値、さらには自らの仕事の意義を理解し、モチベーション高く働くことができる。ビジョンよりも、社内に向けたメッセージ性が高く、企業文化を醸成していく際に大きな要素となってくる。(3)価値観(Values)
価値観とは、その企業にとって「何が重要か」、「何が重要でないか」という価値を示すための軸、評価基準、行動指針を指す。中核となる価値観が「コア・バリュー」と呼ばれている通り、企業文化にとっては不可欠な要素となる。価値観はビジョンの実現やミッションの達成に向けて必要な行動様式や判断基準、考え方を表しており、従業員の仕事の質や成果にも影響を与える。従業員が皆、共感できるようなものを価値観として掲げたいものだ。(4)慣行(Practices)
慣行とは、その企業の中で日常的に、そして継続的に行われている行動である。いくら素晴らしいビジョンや価値観が掲げられても、それが社員に慣行として根付いていなければ成果は望めない。重要になってくるのが企業からの働き掛けだ。「どのような企業文化を作り上げていきたいか」を十分に考えた上で、それを促すために制度を見直したり、環境を整備したりしていく必要があるだろう。(5)人材(People)
人材も企業文化を醸成するために必要な要素だ。その企業のビジョンや価値観に共感してくれる人材が多いほど、企業文化はより活性化する。そうした人材は適応性が低い人材より離職率も低く、また多くの成果を導くことができる。採用時に、企業文化にフィットしているかどうかを重視する企業が近年増えているのもうなずける。(6)ストーリー(Narrative)
ストーリーとは、その企業を創業した時のエピソードや創業者の生い立ち、ある商品・サービスを開発した背景など、社内で長年に渡って語り継がれる企業独自の歴史に関する話だ。ストーリーは独自なものであって、企業によって異なる。ストーリーが語られ続けていくことで、企業文化はより強固になってくる。(7)場所(Place)
場所も企業文化の醸成にインパクトを及ぼす要素だ。本社や支社をどこに置くのか、どういったデザインやレイアウトにするのかによって従業員の働き方が大きく変わってくる。(8)外部からの影響(Environment)
今や市場環境や社会情勢は著しく移り変わっている。こうした外部からの影響を受けて、自ずと企業文化も変化させていかなければならない。定期的にタイミングを設けて、企業文化を見直し、時代の流れと合致しているかを見極めていく姿勢が必要だといえる。「企業文化」の企業事例を紹介
最後に、「企業文化」がどのように作り上げられているのかを理解するために、幾つか事例を紹介しよう。●メルカリ
フリマアプリ「メルカリ」を展開するメルカリは、企業文化の実例として良く取り上げられている企業だ。メルカリのミッションは、「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」。それを実現するために掲げられているのが三つのバリュー。「Go Bold(大胆にやろう)」、「All for One(全ては成功のために)」、「Be a Pro(プロフェッショナルであれ)」だ。社員はいずれも、どう行動すべきか迷った時には、必ずこれらに基づいて意思決定をするようにしている。これらは、評価や採用ファーマットにも使われている。ミッションと3つのバリューが、まさにメルカリの企業文化を作り上げている。●ザッポス
ザッポスは、靴のネット通販会社だ。自らを「サービスカンパニー」と称するだけあって、企業理念として掲げている10の価値基準(コア・バリュー)のトップに、「サービスを通じて、WOW(驚嘆)を届けよ」とある。顧客満足につながるのであれば、カスタマーサービスのオペレーターにすべての裁量権が与えられているのもその一例といえる。また、コア・バリューの浸透と徹底を促すために、企業文化との適合性を重視した採用を行っている。それだけでなく、コア・バリューに合致しない人には応募すらしないように仕向けている。コア・バリューが存在することで、強固な企業文化が根付いている例と言えるだろう。●ネットフリックス
ネットフリックスは、世界最大級の映像ストリーミングサービス企業だ。急成長ぶりを支えたのが、独特な企業文化である。その基盤を成しているのが、7つの価値観だ。「価値とは我々が重視するもの」、「ハイパフォーマンス」、「自由と責任」などの言葉が掲げられている。同社は自分の働き方を従業員自身が決める、目的を達成するために何をすべきかを考えるのも各自に任せている。社員を大人として扱う、といったマネジメントスタイルもそうした価値観を反映したものといえよう。- 1