「タレントマネジメント」の定義や目的とは?
「タレントマネジメント」とは、従業員の才能・スキル(タレント)を把握し、組織横断的な人事配置や人材育成、能力開発などを行う人事管理の手法である。会社は経営戦略を実現するために、従業員を適材適所に配置して経営戦略の実現を目指す。●タレントマネジメントの目的
(1)事業を実現させるための人材戦略従来型の人材マネジメントでは、企業戦略に必要な人的資源の需要を予測し、それに基づき新卒一括採用などの方法で人的資源を確保してきた。人材のキャリアは長期雇用を見越し、企業主導で行うのが特徴だ。
「タレントマネジメント」では、従業員それぞれの資質・適正を可視化しデータ化したうえで能力開発、人事配置などを行う。これにより、例えば新規事業の推進に必要な人材の選出も容易になる。適する人材が社内にいなかった場合は、その能力を持つ人材を新卒に限らず、中途採用などで新たに採用してプロジェクトを推進できる。
(2)個々の能力を活かす人材育成
個人の能力に適さない分野でスキルを伸ばそうとしても、なかなかうまくいかないばかりか、仕事に対するモチベーションの低下につながる可能性がある。モチベーションの低下により離職が増えれば、その損失は計り知れない。
「タレントマネジメント」で個人の価値観や思考、目指したい将来も把握すれば、「最適な研修の実施」、「望ましい業務が行える配置」などが実現できる。これにより人材のモチベーションの低下を防ぎ、定着化が期待できるだろう。
またタレントマネジメントを人材育成に活用することで、次世代リーダーの育成や次に着手したい事業に最適な人材の開発も可能になる。
(3)経営戦略の実現のための「タレントマネジメント」
「タレントマネジメント」の最大の目的は、経営戦略の実現にある。有能な人材の獲得・開発は、企業の競争優位性の構築にもつながる。
ただし、達成したいビジョンを明確にしておかなければ、タレントマネジメントによる効果が薄れることは理解しておきたい。
なぜ「タレントマネジメント」がいま注目されているのか
タレントマネジメント論は、2000年代以降の欧米で注目を集めた新たな人材マネジメントの手法だ。日本では2010年代から各種メディアに取り上げられ、広く知られるようになった。「タレントマネジメント」が注目されるようになった背景には、企業を取り巻く環境が大きく変化したことで、既存のマネジメントシステムでは対応できなくなっている現状がある。
日本経済の低成長、少子高齢化による労働力不足。人材確保への課題感は年々増している。外国人の採用や外部人材、異業種・同業他社との提携で雇用形態も多様化しており、従来通りの新卒一括採用・長期雇用を見越した企業主導のキャリア構築では企業の目標は達成できないだろう。
とはいえ、新たな手法を導入するのは容易ではない。特にタレントマネジメントでは、社員それぞれのデータを詳細に収集し管理する必要がある。社員数が多い大企業・中堅企業はもとより、社員数がそれほど多くない中小企業では、データを管理する業務にあたれる人的リソースがそもそもない、という可能性があるからだ。
そこで近年、タレントマネジメントの導入と運用が容易になるタレントマネジメントシステムが利用されるようになってきている。タレントマネジメントシステムは、従業員に関するデータを集約・蓄積して、人材開発や人材配置、キャリア支援等に役立てられるシステムのことだ。
事業の規模、社員数、選ぶシステムによって料金は異なる。人材データベース機能、評価機能、採用管理機能、離職防止機能、後継者管理機能などさまざまな機能を有する。
「タレントマネジメント」は企業や従業員にどのような効果をもたらすか
タレントマネジメントの導入でメリットを得られるのは企業側だけではない。企業側と従業員側、それぞれが得られる効果について説明する。●多様な人材の活躍の可能性
「タレントマネジメント」の導入で、従業員は企業に合わせた働き方をするのではなく、自分に合った仕事に就き、働けるようになる。また、正社員だけでなく時短勤務や業務委託によるフリーランス化など、従業員それぞれが自分に合った働き方を選択できるようになるのだ。
従業員の能力を企業側が把握していれば、どのような形態であれ、各人にマッチする業務にアサインできるだろう。育児や介護で正社員では働けなくなってしまった優秀な人材をみすみす手放す、といった事態も避けられる。
●主体的なキャリア開発の促進になる
従業員が望むキャリアを支援する仕組みがあることで、従業員は自身のキャリアに対して自律的な行動をとれるようになる。企業は従業員にキャリアアップに必要な情報を提供して機会を与え、それに対する情報を蓄積していく。企業側はこのようにして蓄積したデータをもとに配置を決定するようになるため、従業員も人事に不満を抱きにくくなるだろう。
●従業員と組織の状態にマッチした育成ができる
「タレントマネジメント」では、企業に必要な人材を計画的に育成できる。今後必要になる人材にはどのようなスキルが必要なのかを把握し、収集したデータの中からそのスキルに適した人材を見つけられる。人事側は個人に関するデータを一元管理しているため、従業員のこれまでの実績やキャリアプランをみて、一人ひとりに適した育成プランを実行できる。
●従業員エンゲージメントの向上
従業員エンゲージメントの低下は、パフォーマンスの低下、離職率の増加を招きかねない。「タレントマネジメント」の導入で、従業員は自分が望む方向にキャリアの舵を取れるようになる。また、個々に適した業務ができるよう配置や能力開発を行うことから、従業員自身が「自分に向いている」、「成長できている」、「会社に貢献できている」と感じられるようになり、仕事へのモチベーションも向上する。
やりがいを感じられる場を提供してくれる企業に対して、従業員はより愛着を持つようになるだろう。
「タレントマネジメント」を導入するうえで押さえておきたいポイント
「タレントマネジメント」による効果を最大限に得るために、次の点を押さえておきたい。●目的の明確化
「タレントマネジメント」を導入することで、何を実現したいのか、経営にどう活かすのかを企業は明らかにしておく必要がある。目的があいまいな状態で導入しても、データの利活用が進まず求める効果が得られないからだ。単なる「情報の収集と可視化」にとどめず、集積した情報をどう整理し使用するのか、タレントマネジメントで実現したい経営戦略を策定し目的を明確化しよう。
●人材要件の明確化
策定した戦略に必要な人材要件も明確化する必要がある。どのチームにどのような人材が不足しているのか、必要な人材像をクリアにすれば最適な人材をアサインできる。このとき、人材要件は短期的に目標を達成できる「即戦力型」と、企業の長期的な成長に寄与する「成長型」に分けバランスよく設定する。必要な人材像が分かった後は、従業員の能力や資質、性格、経験、価値観を鑑みて戦略にマッチする人材を見つけ出す。社内に存在しない場合は、人材要件に合致する人材を育成によって開発するか、新たに採用する必要があるだろう。
●人事部門を見直す
「タレントマネジメント」を導入すると、人事部にはこれまでにない業務が求められるようになる。人事戦略は採用、異動、評価など人事の基本的な部分を担う部署ではなく、企業のビジョンの達成に貢献する部署に変化するからだ。業務が変われば、必要な人材も変わる。現在の人事部内にタレントマネジメントの運営に適している人材が存在しているのか、不足するならどうやって補うのか、改めて考えなければならない。
タレントマネジメントシステムを導入する場合は、システムを活用できるIT人材が必要になることもあるだろう。
●タレントの把握
人材要件が明確化されたあとは、従業員のタレントを把握し可視化する。要件を満たす従業員はどのくらい存在しているのか、存在していたとして、十分なのか不十分なのかを割り出す。現時点で足りていたとしても中長期的に見てどうなるのか、今とこれからに必要な人材育成の方法は何か。タレントを把握し分析することで今後の人事戦略について検討できるようになるだろう。
気になる「タレントマネジメント」の導入フロー
タレントマネジメントの導入フローは次の通りだ。▼目的の設定
前述の通り、タレントマネジメントを導入するうえで目的の設定は必須だ。まずは経営戦略・人事戦略を策定する。新規事業の創出、事業の拡大、売上の向上など具体的な目的を設定しよう。目指すゴールにたどり着くまでに解消しなければならない課題も明確化し、課題解決に必要な人材要件を決定しておく。
▼システムの要件を決定
タレントマネジメントシステムを活用する場合、システムの要件を決定しなければならない。システムによって機能や価格が異なるため、自社の規模や課題に合ったものを選ぶ必要がある。自社の課題を解決し、目標を達成するためにはどのような機能が必要で、何が不要なのかを理解しよう。複数のシステムを比較検討することで判断がしやすくなるだろう。
▼導入までの手順を確認
タレントマネジメントシステムを提供するベンダーに、導入までの手順を聞こう。自社に適するシステムであっても、導入までに時間がかかりすぎてしまったり、導入コストが高すぎたりすることもある。また、自社に必要な機能を加えていった結果、追加費用によって当初の予算をオーバーしてしまうかもしれない。
予期せぬ事態が起こらないよう、導入までに自社で用意しなければならないものなども確認しておこう。
▼社内への周知
タレントマネジメントシステムの導入と導入のためのスケジュールが決定したら、社内への通知を行う。タレントマネジメントでは、従業員の個人情報をより詳細に収集・管理するため、不快感や抵抗感を示す従業員がでないとも限らない。企業側は、なぜこのようなシステムを導入するのか、従業員に詳しく説明し理解してもらう必要がある。また、説明は導入によって享受できるメリットが異なるマネジメント層とメンバー層に分けて行ったほうがよい。
・どういう目的でタレントマネジメントシステムを導入するのか
・システムの導入で何が変わるのか
・業務内容は変わるのか
・従業員側が得られるメリットはあるのか
従業員の疑問に答えながら、タレントマネジメントシステムを導入する目的やメリットを伝えていこう。
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