「社内副業」とは、社内の自分が所属する組織に籍を置きながら、別の事業部や部署の新たな業務に携わることを指す。VUCA時代を見据えた人材育成や業務効率化の観点から、「社内副業」を採用する企業がいま増えてきている。本記事では、「社内副業」の定義や企業への効果、気になる報酬や評価の中身、企業事例などを紹介していく。
「社内副業」の定義やデメリットとは? 気になる報酬や評価、企業事例も解説

「社内副業」の定義や採用する企業が増えているその背景とは

「社内副業」とは、事業部や部署といった社内の自分が所属する組織に籍を置きながら、別の事業部や部署の新しい業務に携わることを指す。今、「社内副業」を導入している企業が増えてきているが、背景にはどのようなものがあるのだろうか。それは、従業員のスキルアップと業務効率化の大きく2つが挙げられる。

予測ができないVUCAの時代においては、特定のスキルを保有したスペシャリストだけでなく、幅広い知識や知見を備えたいわゆる「T型人材」の育成、採用ニーズが高まっている。社内副業を採用することで、そのような人材を育てていくというのが企業の狙いだ。また、社内副業には業務効率化の目的もある。自社の従業員が幅広い業務に関わることで、社内業務の属人化を防ぐことができ、会社全体の業務効率化につなげることができる。

「社内副業」がもたらす企業へのメリット、効果

●能力開発や育成

別の事業部や部署の業務に関わることで、新たな分野やジャンルの知識や知見を身につけられる。社内副業によって習得した多様な視点は、本業にも活用できるだろう。能力を発揮できていない社員やモチベーションが低下している社員にとっては活力となる制度でもあり、社員の能力開発や育成に効果的といえる。

また、会社全体の業務の流れを把握することで、これまで見えてこなかった課題の発見や解決ができるかもしれない。

●属人化した業務の改善

他部署の業務を経験することで、社内の属人化した仕事の改善につなげられる。例えば、急遽離職する従業員が居たとしても、一定期間、その穴を社内副業の従業員たちでサポートし合いながら、埋めることができる。そのため、業務の滞りも防げるだろう。

●業務改善の活性化

社内副業によって、自社内の業務全体を把握することができるため、社内の様々な仕事を自分ごとの視点で見られる。そのため、これまで見えなかった課題が発見され、社内の業務改善の活性化につながる。業務の改善が活発な組織状態では、新たなアイデアやイノベーションも生まれやすいだろう。

●情報漏洩のリスク軽減

他部署や他事業部といっても同じ社内での就業となるため、社外の副業に比べ、情報漏洩に対するリスクは軽減されるだろう。

「社内副業」のデメリットとは

●業務量の増加

本業とは別に社内の仕事を引き受けるため、業務量の調整を怠ると本業に残業が発生するといった支障が出る。社内副業の時間を定めていない企業の場合は、上司と相談しながら業務量の調整を入念に行ったほうがいいだろう。

●業務効率の低下

別の事業部や部署の業務に携わるため、本業だけでなく、複数の業務のスケジュールの管理や調整をしなければならない。この管理や調整がうまくいかなければ、本業と社内副業のどちらも業務効率の低下は避けられない。特にテレワークの場合は、顔が見えない中で仕事を進めていかなければならず、チャットやビデオ会議などを活用することが重要になる。

気になる「社内副業」の報酬は?

そもそも「社内副業」は本業とは別で他事業部や他部署の業務に携わることであり、別に給与が支払われるといった報酬の考え方はない。あくまで給料内で本業と社内副業の時間が割り振られている。

一方で、社内副業を行うことで、新たに報酬を得られる機会をつくる企業もある。サイバーエージェントでは、エンジニアやクリエイターといった技術職を対象としたグループ内副業制度「Cycle(さいくる)」を導入。通常業務以外のプロジェクトの仕事を就業時間外に請け負うことで、報酬を得ることができる制度を構築している。

「社内副業」の評価はどうしている?

「社内副業」を採用している企業では、どのような評価制度を設けているのだろうか。ここではリコーやKDDIの事例を紹介したい。

●リコー

社員本人と直属の上司、受け入れ先責任者の3者が合意すれば、就業時間の最大20%まで他部署の業務を行うことができる「社内副業制度」を2019年4月より導入している。実施期間は原則6ヵ月以内で、副業であげた成果は人事評価にも反映される。

●KDDI

2020年6月より、就業時間の約2割を目安に他部署の業務を経験できる「社内副業制度」を導入している。社員本人、所属部署、社内副業先部署の3者が合意した上で、最大6ヵ月間社内副業を行い、社内副業先の業務も人事評価の対象にしている。

企業事例を紹介

最後に、上記であげた企業以外にも、パナソニックや丸紅が取り組む大手企業の事例を紹介する。

●パナソニック

「社外留職」と「社内複業」と呼ばれる2つの制度を導入している。「社内留職」は、従業員が提携先の出向先など他社に籍を移し、風土や価値観、経営管理手法などの異なる他社での業務を通じて、パナソニックでは得られない自己成長を促進する仕組みだ。「社内複業」では、所属部門に身を置きながら社内の新しい業務を経験し、自分の能力や可能性を試すことで自己成長を促進する狙いがある。ともに期間は約1ヵ月~1年としている。

●丸紅

「15%ルール」を同社では導入しており、勤務時間の15%を新規事業創出のための時間に充てることを可能としている。管理しないことがアイデアやイノベーションを生みやすいと捉え、時間の管理は各従業員に任せている。また、直属の上司への許可は必要なく、挑戦に対する心理的なハードルを下げるため、取り組みの報告のみとしている。
「社内副業」は従業員のキャリア形成だけでなく、企業の人材育成や人手不足といった課題の解決を支援してくれる制度といえる。一方で気をつけなければいけないのが、従業員の業務量やスケジュール管理だ。企業で導入する際や従業員が希望する場合は、業務量のバランスや頻度などを曖昧にせず、数値化したうえで「社内副業」の制度を運用していく。それが制度を円滑に進めていくうえでのポイントになるだろう。
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