働き方改革の一環としてテレワーク制度の導入が進む中、仕事と余暇をよりシームレスにする取り組みが注目を集めている。それが仕事(work)+休暇(vacation)=ワーケーションだ。タイムシェアリゾート事業を行う株式会社東急シェアリングでは、“東急バケーションズ”のブランド名で、北は北海道から南は宮古島まで、全国に16のリゾート施設を展開。開放感あふれる魅力的なリゾート地を舞台に、ワーケーションという新しいライフスタイルを提案している。昨年の12月には、軽井沢にて同じグループ会社である東京急行電鉄株式会社(以下、東急電鉄)と合同で、研修型のワーケーションも実施した。そこで今回は当日の様子をリポートしながら、ワーケーションが働き方をどのように変え、何をもたらすのか、その魅力や可能性について探っていく。
(HRプロ編集部)
日常のワークを超えた「非日常」がイノベーションを生み、 組織のコミュニケーションを活性化させる

東急電鉄が新たな人事施策としてワーケーションの導入を検討

ワーケーションとは、仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語で、開放感のあるリゾート地で仕事と休暇を合理的に楽しむという新しいライフスタイルの一つだ。時間と場所に捉われずに、日常と違う空間で仕事をすることで、生産性や働きがいの向上、イノベーションの創出などに繋がることが期待されている。では、実際にどのような環境が適しているのだろうか。キーポイントとしては、ほどよい抜け感(開放感)がある景色、日常の仕事環境から離れ過ぎない設備、すぐに行ける・戻れる立地…の3点が挙げられる。そういう意味では、今回ご紹介する軽井沢は、ワーケーションに特に適した環境の一つと言えるだろう。北陸新幹線で東京駅から軽井沢駅まで最短で62分。自然豊かな落ち着いた環境で、仕事に集中するにもリフレッシュするにも申し分なく、近年は軽井沢リゾートテレワーク協会が発足するなど、テレワークの拠点としても注目されている。
今回一泊二日の日程で実施されたワーケーション企画には、東急シェアリングの6名と、東急電鉄・人材戦略室の6名、計12名が参加した。東急電鉄では「ワークスタイルイノベーションの進化」を掲げ、従業員のエンゲージメントを高める取り組みや、一人ひとりの生産性の向上やイノベーションを促進する施策を進めている。その一環として着目したのが、「ワーケーション」だったという。現在、人材戦略室の若手が中心となって制度作りの検討を始めるに当たり、トライアルをすることとした。
ではここから先は、大自然の中で仕事と遊びを楽しむ参加者の様子をご紹介しよう。

軽井沢の美しい風景の中でリゾートテレワークを体験

12月17日朝10時、一行は軽井沢駅のホームに降り立った。快晴の冬空に浅間山の雄姿がくっきりと浮かび、一人ひとりの表情も自然とほころぶ。同じグループ会社とはいえ、初対面の人が多かったため、まずは簡単に挨拶し合い、駅からほど近い施設へと向かった。閑静な別荘地の一画に広がる『東急バケーションズ軽井沢』は、周囲の景観に溶け込んだ落ち着いた外観が特徴的。定員6名の2LDKの部屋が30室あり、いずれも美しいカラマツ林と池に面している。到着後、一行は一部屋2~3名に分かれると、そのまま午前中はテレワークの時間に。各自テーブルにパソコンを広げて、作業に没頭し、ときおりコテージに出て外の空気を吸ったり、キッチンでコーヒーを入れるなど、思い思いの時間を過ごした。
参加者の一人である東急シェアリング・営業推進部の穂坂真由美氏は、「仕事に集中して、ふと視線を窓の外に向けると、いつもと違う景色が広がっているので、気持ちよく仕事ができます。さらに仕事が一区切りついた後は、地元の美味しい料理を食べに出かけたりと、まさにリゾートオフィス感覚で利用できるのが魅力です」と語る。確かに、客室から足を一歩踏み出せば、そこは非日常の空間。都会では感じられない澄んだ風を感じながら、リゾート感覚を味わえる。東急電鉄・人材戦略室 人事開発部 人事課の加藤里菜氏も「自分の家にいるような落ち着いた環境で、とても気に入りました。仕事も思っていた以上に集中でき、テレワークの場としても理想的ではないでしょうか。また、みんなで集まって話し合うこともできるため、組織としても利用しやすいと思います」と、充実した顔を覗かせた。
日常のワークを超えた「非日常」がイノベーションを生み、 組織のコミュニケーションを活性化させる

アクティブラーニングを通じて強固なチームづくりを図る

続いて午後は、チームビルディングを目的とした「ワーケーション」を実施した。舞台となった『ライジングフィールド軽井沢』は、軽井沢の広大な国有林内に位置するアウトドアリゾートで、家族や仲間と自然体験ができるキャンプフィールドをはじめ、チームビルディング向けのアクティビティも豊富なため、企業の研修や合宿などにも利用されている人気の施設だ。一行は現地に到着すると、ライジングフィールド代表・森和成氏のガイドの下、早速フィールドワークを開始。50年以上前に廃線となった草軽電気鉄道の線路跡探索トレッキングでは、足場の悪い山道を、互いに声を掛け合い、手を取り合いながら踏破し、2社間でコミュニケーションを深めた。さらにその後はアドベンチャー施設(アスレチックとは異なる)を活用したアドベンチャーにも挑戦。与えられたミッションを達成すべく、全員で知恵や力を出し合い、大型のシーソーやターザンロープと格闘するなど、日が暮れるまでアクティビティを満喫した。これらアクティブラーニングでは、戦略的思考やリーダーシップ、チャレンジスピリット、チームへの貢献度などが試された。また、会社や役職などの垣根を越え、互いに遠慮なく意見をぶつけ合うことで、より相互理解を深めることができたようだ。
日常のワークを超えた「非日常」がイノベーションを生み、 組織のコミュニケーションを活性化させる
東急シェアリング・営業推進部 兼 新規事業開発部の波多野佑介氏は、「互いに手を取り合い、成功したり失敗したりを繰り返して、とにかく面白かったです。結局、体を動かすことが一番距離を縮めるのだと実感しました。また、それぞれの役割が明確になったり、普段オフィスでは見られない一面が見えたりと、良い意味で皆さんの印象が変わりました」と笑顔で話す。東急電鉄・人材戦略室 人事開発部 統括部長の小野隆憲氏は、「こういった非日常的な場所で、みんなで一つのことに向かって協力し合うことで、新しい刺激や発想を得ることができました。また私の部署は日頃から若手ともフランクに話をすることが多く、風通しは良い方だと思うのですが、スーツを脱ぎ、普段着姿で交流を図ることで、より一層コミュニケーションが促進されると感じました」と振り返った。
日常のワークを超えた「非日常」がイノベーションを生み、 組織のコミュニケーションを活性化させる
株式会社ライジングフィールド
代表取締役社長 森和成氏

大自然の中に身を置くと、人間は自然と心がオープンになります。そしてそこでチームビルディングやディスカッションを行えば、お互いのことをより理解し合えます。多くの日本人は、仕事は仕事、プライベートはプライベートと、分けて考えがちですが、本来仕事とプライベートは繋がり合っているもの。両者をシンクロさせることができれば、人間はもっと豊かに生きられるでしょう。ライジングフィールドはそれを実現させる場所です。企業研修でお越しの際は、ご家族連れでも構いません。お父さんやお母さんがアクティブラーニングに精を出している間、お子さんたちには自然体験活動を通じて、生きる力を高めていただきます。会社の成長とともに、家族の成長にもお役だてください。


ワーケーションは 多様な働き方の選択肢の一つ

日常のワークを超えた「非日常」がイノベーションを生み、 組織のコミュニケーションを活性化させる
アクティブラーニング終了後は、引き続きライジングフィールド内の多目的ホールにてディスカッションを実施。東急電鉄からは改めて人事課題と、ワーケーション導入の狙いについて話され、さらに全員で1日を振り返り、良かった点や導入する上での課題点など、さまざまな議論が交わされた。そしてディスカッション終了後は、ガーデンラウンジにてBBQパーティーを開催。御馳走と焚火を囲いながら、互いの労をねぎらい、親睦を深めた。
『東急バケーションズ軽井沢』での宿泊を挟み、2日目はイノベーションの促進を目的に視察を兼ねた「ワーケーション」を実施。人気のブック&カフェ『軽井沢書店』でのテレワーク体験をはじめ、昨今話題となっている充実の農産物直売所『軽井沢発地市庭』や軽井沢を代表する老舗ホテル『万平ホテル』などを見て回り、各自充実した時間を過ごした。
この2日間を振り返り、東急電鉄・人材戦略室 人事開発部 統括部長の小野氏は、「他社と合同で行ったことにも意義があったと思います。同じグループであっても、立場が違う中で、互いに忌憚のない意見を言い合うことができ、新しい見方が得られた。こういう場所だからこそ、よりオープンマインドになってコミュニケーションが促進されるのでしょう。非常に収穫の多い2日間でした」と締めくくった。
小野氏が語るように、大自然の中で働く第一のメリットは、個々が殻を破ることで普段以上にコミュニケーションが取りやすくなることだろう。また都会では得られない刺激や発見が得られ、ひいてはそれがイノベーションのきっかけに繋がるかもしれない。今回の事例のようにワーケーションはさまざまなメリットをもたらすが、あくまでも多様な働き方の選択肢の一つである。重要なのは、それを社員自らが選択するということだ。ワーケーションを通じて、働き方がどう変わるのか、そして何が得られるのかを実感するためにも、まずは体験してみてはいかがだろうか。
日常のワークを超えた「非日常」がイノベーションを生み、 組織のコミュニケーションを活性化させる

ワクワク感がイノベーションの源泉に

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