前回(2回目)に続き、データを中心に中国に進出した日系企業の現状をお伝えします。まずは、日系企業における、現地での報酬の競争力を見てみましょう。
日本企業のトップマネジメントの報酬レベルが欧米に比較して極端に見劣りする、という記事が日本のメディアに再三取り上げられています。では、中国における日系企業の報酬レベルの市場競争力はどうなっているのでしょうか?
第3回 日系企業の報酬及びその体系における競争力の弱さと、現地社員の収入元変遷
答えが下のグラフで、弊社が華東地区で実施した報酬調査『報酬総額比較(2017年報酬調査)』からの抜粋です。
第3回 日系企業の報酬及びその体系における競争力の弱さと、現地社員の収入元変遷
グラフの一番下の「一般職」、つまりエントリーレベルにおいては、報酬における競争力がそれなりにあり、人員獲得に当たっての障害にはなっていないと言えるでしょう。しかし、「中国人はせっかく研修したのにすぐ転職してしまう」という話は相変わらず現地マネジメントから聞く話です。それは、職位が上位に進めば進むほど現地欧米のみならず中国各社との報酬格差が広がっていることが理由に挙げられます。最近は働くモチベーションは金銭だけではないと言いながら、この報酬競争力ギャップを見れば優秀人材に対する報酬競争力の欠如は明白です。公正な評価に基づき適正な報酬を望む傾向の強い現地社員は、自分の将来を見据えた行動をとるのは自然であると言わざるを得ません。

今後、中国内での日系企業のビジネスモデルが、生産拠点から中国市場での競争を意識する方向へ変わる中、今までと異なるスキルを求めて現地で中途採用するケースが増えています。

この場合にも起きることは長年社内にいる現社員との給与格差、そして年齢、特に30代後半から40代に見られる、での逆転現象です。そこで中途採用を躊躇するのが日系企業。年齢にこだわらず職務での適性・実力を考慮した人事戦略が市場、すなわち人材獲得の競合相手である欧米、中国企業です。長年終身雇用を前提としてきた日本の報酬体系を踏襲している現地日系企業が外国現地でもいまだに多いのが実態です。 最近現地の優秀社員の中途採用で報酬が日本本社の部長よりも、執行役員よりも高いのでNoと言われて採用を断念した、という話を聞くようになりました。これで現場が競争に勝ち抜く戦略を採用できるのかどうか、欧米・中国現地企業とは違う方針です。

固定給と成果によって得られる変動給の体系を対欧米企業・中国民営企業の実際と日系企業の実際を比較したのが下記の『2018一斉調査・報酬体系実態』(中国報酬網社・Cochi調査)です。

この調査によると欧米系、中国民営系企業は職位が上層へ行くほど変動報酬が高くなりその総年収に占める割合も高い。それに比して日系企業では、職位での変動比率構成にあまり変化はなく、かつ変動比率が欧米・中国企業に比して低い、という結果が出ています。
これからの競争相手は欧米企業・中国民営企業であることを考えると、この日系企業の特性が現地で受け入れられるかの検証が必要です。特に成果主義を求める傾向の強い現地社員の意思を考慮すると、この変動給幅の検討は行われるべきかと思われます。
第3回 日系企業の報酬及びその体系における競争力の弱さと、現地社員の収入元変遷
日系企業と現地企業のギャップとは異なりますが、もう一つ変化が起きている収入の多様化、「副業」の実態を紹介したいと思います。下に示すグラフ『副業収入・宅配員の報酬』の表は華東地区(上海周辺)での現場労働者(工員)の収入元の変化を示しています。
ここで分かるのは、本業(主収入)額に対して副業の収入額の占める割合が高いということです。今までは残業に収入を求めていた労働者が、就業時間の終了とともにすぐにバイクにまたがり宅配業へしていることが分かります。つまり、収入源が「主たる業務のみ(残業込み)」から「主たる業務+副業」と転換しているのが実態で見えます。
第3回 日系企業の報酬及びその体系における競争力の弱さと、現地社員の収入元変遷
近年の経済発展を受けて不動産による不労所得を得て懐が豊かになるケースが大都市およびその近郊で起きています。その結果、今までのように残業代をあてにして多くの収入を残業代から得ていた労働者が、直近ではNo more Overtimeという傾向すら出てきています。また、工員の輩出元であった農民工においてもその就職先職種は多様化し、2008年には37%が製造業に就職していたのが、2016年には30%に減っているという統計もあります。(美团外卖研究院)
最近北京、上海地区を中心に高騰する住宅価格、賃貸家賃を受けて特に北京、上海地区以外から就労する社員の住宅環境が悪化しています。
企業側としては、賃金のみならず、住宅手当、遠距離通勤対策、など多様な福利厚生政策を含めた総合的な制度、すなわちトータルリワードが求められます。残念ながら的確にこの状況変化をとらえ対応している日系企業は少ないと言わざるを得ません。
もう一つ、評価制度においても日系企業と現地企業、欧米企業の間にはギャップが存在しています。次回はこの点について取り上げます。
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