チェンジマネジメントがうまくできていないことが、日本企業の課題
竹村 会田さんはグローバル企業として知られるP&Gに長く在籍されましたが、その間、どのようなことを経験されたのですか。会田 アメリカの大学院を出た後、オハイオ州シンシナティにあるP&G本社に入社しました。それから30数年ずっと人事畑です。日本法人を皮切りにカリフォルニアの工場、ペンシルバニアの工場、それから本社に異動してマーケティング部門やロジスティクス部門のHRに携わったり、HRのヘッドとして日本や中国の法人に赴任したりしました。特に私が専門的に取り組んだのは組織変革の領域です。最後の3年間は、本社でいろいろなチェンジマネジメント(組織変革をスピーディに成功に導くためのマネジメント手法)に関するトレーニングコースを作って、全世界の人事部門の育成に携わりました。
竹村 人事として非常に幅広くグローバルな経験をされて、退職後はコンサルティング会社を立ち上げて活動していらっしゃいますね。
会田 現在は、さまざまな企業に戦略的人事、リーダーシップ開発、組織デザイン、企業風土改革などのコンサルティングを提供しています。
竹村 そうしたご経験の中で、今の日本企業では何が課題になっているとお感じになっていますか。
会田 チェンジマネジメントがうまくできていない企業が非常に多いと感じます。やっていても意識変革までで、本当に変わることがなかなかできていません。
竹村 変革の必要性は感じていても、実行することが難しいとお悩みの日本企業は多いですね。そのためには、まず人事部門に変革が求められるという声もよく聞かれます。
会田 人事が変革の推進役になれている日本企業は少ないようです。これは大きな問題だと思いますが、理由はいくつかあるでしょう。まず、日本企業では、人事部門内で長年にわたって多様な経験を積むというより、数年で他部門に移ったり、他部門から来たりするケースが多いため、人事としての専門性が不足しがちです。専門性が足りなければ、本当に戦略的なアイデアが生まれるはずはなく、うわべだけの変革になってしまいます。取り組んでいる業務も、採用と、研修と、定期異動でどう人を動かすかといった領域の比重が大きすぎるのではないでしょうか。
人事が先頭に立ち、企業の変革を導く役割を果たせているか
竹村 おっしゃるように、定期的な人事異動などがルーティンのように行われて、その対応に追われてしまっている方々は多いかもしれません。でも、そうしたことだけでなく、人事がイニシアチブを取り、戦略的思考によって企業の変革を導いていくような役割が期待されているわけですね。会田 まずは、人事がもっと戦略的なところに関与し、人事のリーダーシップで組織変革を行っていくことが大事だと思います。また、日本企業では組織変革に取り組んでも失敗するケースが多いと言われますが、ビジネスに直結した変革になっていないことが大きな理由ではないかと感じています。
竹村 組織変革を成功させるためには、どうすればよいのでしょうか。
会田 ビジネス上で本当に切実なニーズが何であるか、それを達成するためにどのように戦略を変え、組織デザインを変え、文化を変えていくか、それをどのようなリーダーシップをもって推進していくのかということをきちんと考え、明確化することです。しかし、日本企業では、そういうところに踏み込まずに終わっている場合が多いように思います。
竹村 結局、なぜ組織変革が必要かというと、世の中やビジネス状況が変わっているからであって、だから、そこにどうアプローチしていくかという戦略が生まれ、組織体制や育成はこうあるべきだというようにつながっていく。しかし、そのつながりがないと、ルーティンワークの中で、とにかく変えないといけないから変えていく、研修をやらないといけないからやっていくといったような形式化的になってしまう可能性がありますね。
組織変革を「やりなさい」と下に任せてしまう経営者
会田 また、組織変革というのはトップダウンでやらないと難しいのです。日本企業でも、将来にわたってビジネスに勝つための明確な展望を持ち、強いリーダーシップを発揮されている経営者がいる場合は、組織変革に成功している例がよくみられます。多くの日本企業がなかなか変われない背景のひとつには、グローバルと比較したトップリーダーの違いもあると思います。- 1