※本稿は、鈴木友紀夫『企業にはびこる名ばかり産業医』(幻冬舎)の一部を抜粋・再編集したものです。
それに対してプレゼンティーイズムは、従業員が職場にいるにもかかわらず、生産性が低下しているために生じる損失を表します。具体的には、頭痛などの体調不良やメンタル不調、過労・睡眠不足による集中力の低下などにより生じる、ミスや作業効率の低下、業務の遅れといった損失のことです。
従業員が心身の不調を抱えた状態で勤務を続けていると、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズムといった「損失」が大きくなり、結果として企業の業績を押し下げる圧力になるのです。その損失を数値化した研究もあります。
経済産業省「健康経営の推進に向けた取組」では健康関連リスクとして、「身体的リスク」「生活習慣リスク」「心理的リスク」の3種を挙げ、それぞれ次のような因子とアブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、医療費がどのように関連するかを示しています。
・身体的リスク(血圧、血中脂質、肥満、血糖値、既往歴)
・生活習慣リスク(喫煙習慣、飲酒習慣、運動習慣、睡眠・休養)
・心理的リスク(主観的健康感、生活満足度、仕事満足度、ストレス)
身体的リスク因子のなかで病気の既往歴のある人は、ない人に比べて欠勤による損失(アブセンティーイズム)が1.6日多く、医療費も年間13.7万円も高くなっていました。生活習慣リスクでは特に睡眠・休養の影響が大きく、睡眠・休養のリスクの高い人は、そうでない人に比べて欠勤による損失が0.7日多く、日々の生産性損失(プレゼンティーイズム)が32.9万円にも上っていました。
さらに心理的リスクの各因子は、身体的リスクや生活習慣リスクに比べ、欠勤による損失も日々の生産性損失も大きな相関がみられました。なかでも目立つのが日々の生産性損失で、リスクのある人とない人の損失の差は、主観的健康感で110.5万円、生活満足度で46万円、仕事満足度で71万円、ストレスで41.5万円と、大差になっていました。
総じて、各リスク因子に該当する数が多いほど、アブセンティーイズム、プレゼンティーイズムによる生産性損失が高くなっていました。そして健康リスクの低い人の損失額は年間60万円程度なのに対し、健康リスクの高い人の損失は90 万円ほどに上ることがわかりました。
これは健康リスクの高い従業員の健康度が上がれば(低リスクになれば)、一人あたり30万円の損失削減=生産性向上につながるということです。
※ 健康経営®は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。
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