前回は、営業職の目標設定について述べたが、営業職以外にインセンティブを適用できる職種は存在するのだろうか?答えはYes。但し、目標を定量的に設定できることが条件となる。
例えば、サービスマンや技術職などで、売上や粗利などが個人別に測れる職種は適用性が高い。さらに、生産性や顧客による評価によって売上や稼働率などが変動するような職種は、営業にあらずともインセンティブの適用に持って来いと言えよう。
やりようによっては、専門業務型裁量労働制の対象19職種などは殆どが適用可能だと思われるが、ここでは、わかりやすい例として、システムエンジニアにおける目標設定の考え方を述べていきたい。
最終回 インセンティブ導入のポイント(その2)
システムエンジニアのような技術職の場合は、営業職のように、会社の目標を縦割りでブレークダウンするわけにはいかない。なぜならば、サービス業は人工(にんく)の世界。1人で稼げる額には限界がある。営業職であれば“どれだけ仕事を獲ってくるか”、技術職であれば“どれだけ稼ぐか”というように分けて考えなければならない。言い換えれば、営業職はトップダウン、技術職はボトムアップで考えればよいということだ。ボトムアップとは、個人の人件費をベースに考えるということ。給与に福利厚生費を含めた人件費に会社の総経費、利益目標を人件費の額に応じて按分することで、個人目標の設定ができるということだ。

なお、技術職においては、個人ごとに売上総利益を年間目標額と設定するのがよいと考える。担当分野によって、教育などのコストが多くかかっている技術者は、個人目標も高く設定することになるだろう。それでも当然のことながら、技術者全員の個人目標を合計しても会社の目標には到達しない。そこで、技術者にもグループ目標をミックスで設定することが必要になる。グループ目標は、営業職と同様に、会社の目標を縦割りでブレークダウンすればよい。個人目標の合計とのギャップは、ビジネスパートナーとの協業における外注費売上や製品販売などにより、埋めていかなければならないということだ。つまり、営業が100%グループ目標であるならば、技術職は個人目標50%、グループ目標50%という比率で配分すればよい。

以下に、このケースで設定した支給テーブルの例を記載する。
最終回 インセンティブ導入のポイント(その2)
支給テーブルとは、基本給の12ヵ月分や年俸などによって設定された年収基準額に対し、目標に対する達成率に応じてテーブル上の支給率を支給するものである。
 例)基本給50万円の技術職が、個人目標120%、グループ目標100%を達成した場合
   600万円(年収基準額:50万×12ヶ月)×22%(12%+10%)=132万円

もちろんこうした支給テーブルを設ける際には、現場の実態に応じて柔軟に変更できるようなルール作りも忘れてはならない。単価×工数の準委任契約に従事するシステムエンジニアは、上記の例がそのまま適用できそうだが、請負契約のプロジェクトに入る社員の場合は、考慮が必要だ。年間を通じてグループで単一プロジェクトのみを実施する場合は100%グループ目標でもよいが、複雑なのは、個人目標を設定した後に、年度の途中でプロジェクトにアサインされるといったケースだ。

この場合は、プロジェクトのスタート時に、計画値として売上総利益を個人に割り振り、計画通りにプロジェクトが終了すれば、どれだけの数字が業績に反映されるかを、予め合意しておかなければならない。計画通りにうまくいかないのがプロジェクト。終了時に計画よりも数字が悪化した場合は、その原因を分析し、個人の業績に反映しなければならない。これらはプロジェクトマネジャーが試算し、部長が承認するというプロセスも必要だ。このような場合は、自分のいいように数字を操作しないためにも、プロジェクトマネジャーにはグループ目標のみを設定しておくのが妥当だろう。

導入にあたって考えるべきことは、まだまだ山ほどあるが、個人目標とグループ目標を組み合わせて考慮することで、基本的に、技術職にもインセンティブの導入は可能である。重要なことは、社員の不満が出ないように、業務の実態に合わせて公平・公正に考えなければならないといこと。もちろん、会社の利益を損なわない範囲で、しっかりとシミュレーションも行わなければならない。

これまで6回に渡り、働き方改革の切り札としてのインセンティブ制度について述べてきた。働き方改革関連法案はようやく閣議決定されたものの、裁量労働制の対象拡大については、厚生労働省の調査データに不自然な数値が多数見つかったことにより、法案から削除されている。現在、当初の予定から1年遅らせ、2020年4月から実施の方向で検討中である。このような状況で、対象者が極めて限定的なこの法案を待って動き出すより、今の制度の中で労働生産性を上げる方法を探すほうが、遥かに現実的だと私は考える。

第2回で述べた通り、裁量労働制は業種によってはすでに導入が進んでいる。一方、インセンティブという考え方は、日本企業に導入するのは未だハードルが高いということが、過去のアンケート結果で明らかになっている。しかしながら、裁量労働制の導入だけだと、社員の成果は変わらないだろう。生産性向上に加え、社員のモチベーション向上と成果をも期待するのであれば、成果給すなわちインセンティブの導入は、避けては通れない。“成果主義”をイメージしてしまうと、失敗例も多く思い浮かぶだろうが、前回までに記述してきたポイントをしっかりと押さえれば、効果も十分期待できる。

外資系企業は、日本企業と比べてインセンティブの導入が進んでおり、リファレンスとなる外資系企業も多くある。さらに、AIやIoTといった新しいテクノロジーが本格的に台頭してくるこの数年に、どうやって現場の行動変革を促すかを真剣に考えていることだろう。日本企業も同様に、今ここで動かなければ、外資系に水をあけられるばかりだ。現場の行動変革は、労働環境や労働時間の問題解決だけでなく、社員の動機付けが必須であると考える。私は、働き方と給与体系を変えることによる、強い日本企業の復活のために、少しでもお役に立てたらと強く願っている。
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