AI、早期化に翻弄される人事
【佳作】の紹介を続けます。こちらも【優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選したものです。
AIを搭載した適性検査で、自社の組織風土とのマッチ度(相性)が最適と判定された候補者に辞退されるという皮肉を描いた作品です。AI判定を信じた結果の失望感と、それに対する恨み節がユーモラスに表現されています。
近年、従来からの検査(学力や適性)とは異なる判定方法を導入する企業が増えています。自社の既存社員にも応募者と同一の適性検査を受けてもらい、組織全体や受け入れ部署のカルチャー、組織風土を可視化し、応募者の検査結果とのマッチ度をAIで診断するというものです。応募者個人のキャリア志向や価値観、パーソナリティーなどを総合的に分析し、組織側の診断結果と照らし合わせてマッチ度を算出するようです。
AIの万能性に対する疑念と、人間の予測不能な一面が感じられる一首です。AIには相性だけでなく、ぜひ辞退確率も機械学習してもらいたいところです。
同様に【最優秀賞】を受賞した作者が別の作品で【佳作】にも入選したケースです。
最近はパソコンやスマートフォンの利用が多くなり、普段の生活で文字を書き慣れていない学生が増えており、エントリーシートや課題の作文などの読みづらい手書き文字の判読をAIに助けてほしい――という採用担当者の苦悩を詠んだ作品です。文字の癖が強く、「内容が良くても読めない」という現実に対する皮肉がユーモラスに描かれています。
どんなに癖の強い文字も読み込ませたら(スキャンしたら)、すぐにテキストデータ化してくれる優れた画像認識技術を持ったAIの登場を期待するしかない切実な気持ちが込められています。ただし、それほど手こずるのであれば、そもそも手書きでの提出を諦めたほうが早いのではと思ってしまうのは私だけでしょうか。
年々就職活動(採用活動)の早期化が進んでいますが、これは決して早期決着に結びつくものではなく、単に早期化した分だけ活動全体は長期化しているのが現状です。早期に内定を獲得しても、そこで就活を終える学生は極めて少数派です。
残りの多くの学生は、「内定をゲットしてからが本番!」とでも言わんばかりに、その内定を保険と考え、そこから第一志望の企業の内定獲得に向けた就職活動を本格化させます。新卒採用の早期化が進む中、内定獲得後もより良い企業を探し続ける学生の熱意と採用担当者のやるせない悩みが入り混じった作品と言えます。
学生に不合格を伝える「お祈りメール」という就活のつらさを採用担当者側の視点で描いた一句です。お祈りメールは学生から極めて不評であり、就職活動における企業を悪者扱いにする象徴的なものの一つです。しかし、それを送る企業側もせっかく応募してくれたのに申し訳ないという思いでいっぱいであり、受け取る学生側はもちろんのこと、決して心が晴れるものではないということを学生に知ってほしいとのメッセージが込められています。
採用担当者と学生双方の心情を考えさせられる作品です。誰か、少しでも双方がポジティブになれるようなお祈りメールを開発してくれないものでしょうか。