「インターンシップ」とは
「インターンシップ」とは、学生が社会に出る前に企業や組織で実際の仕事を体験するための制度である。文部科学省では「学生が企業等において実習・研修的な就業体験をする制度のこと」と定義付けている。主に大学生・大学院生が対象となり、その形態はさまざまだ。例えば、企業やNPOなどが主催者となり、学生が個人的に応募する、あるいは大学のキャリアセンターが主催して行政や企業、NPOなどと連携して行うなどといったケースが見られる。もともとはアメリカで始まった制度で、就職前後の会社へのイメージギャップから3年以内に退職してしまう社員が多く、自分の将来に関連した企業で事前に職業体験をすることで、就職のミスマッチを防ぐというのが目的だった。学生にとっては職業意識の向上になり、業界を知ることで職業選択にも役立つため、近年日本でも普及している。
「インターンシップ」が注目される背景
ところで、今なぜ「インターンシップ」が注目されているのか。その背景を探ってみたい。●就職活動の早期化
大きな要因として挙げられるのが、就職活動の早期化だ。「他社に先んじて学生と接点を持ちたい」と願う企業が増えている。そのための有効な手段として「インターンシップ」が活用されている。●売り手市場の傾向
新卒市場は、依然として学生優位の売り手市場が続いている。知名度がある大手企業・有名企業であれば、さほど影響はないかもしれないが、知名度に劣る中小・中堅企業にとっては、自社のことを知ってもらうことが困難になってきている。そこで、自社の存在を少しでもアピールするためにも、「インターンシップ」を活用する企業が増えている。●認知獲得競争の激化
採用競争が激化してくると、企業はできるだけ早い段階から自社認知を図り、候補者群を形成したくなるものだ。そのための手段となるのが、「インターンシップ」である。早め早めに学生と接点を持つことで、優れた学生を囲い込みやすくなる。産学協議会による「キャリア形成支援に関する取り組み4類型」
従来までの「インターンシップ」は、採用活動への活用が禁止されていたにもかかわらず実態として選考に組み込まれたり、就業体験の乏しいプログラムが存在したりと、近年さまざまな弊害が指摘されていた。そこで、産学協議会では「学生のキャリア形成支援活動」と題して、2025年卒業予定の学生から「インターンシップ」のあり方を再定義している。新たに定義された、「インターンシップ」を含めたキャリア形成支援に関する取り組みの4つの類型について見ていこう。●タイプ1:オープン・カンパニー
オープン・カンパニーとは、特定の企業や業界に関する情報提供・広報を目的として、企業や就職情報会社、大学などが実施するイベント・説明会を指す。就業体験は必要なく、「インターンシップ」とは称さない。参加期間は1日~2日単位の超短期。学業の両立に配慮した時間帯やオンラインを活用して実施する。年次は問わないので、何年生であっても参加できる。ただし、企業は取得した学生情報を、採用活動に用いることはできない。●タイプ2:キャリア教育
キャリア教育は、働くことの理解を深めるための教育を目的とし、「インターンシップ」とは称さない。具体的には、大学が主導する授業・産学協働プログラムや、企業がCSRとして実施するプログラムなどを指す。就業体験は任意となっている。参加期間はさまざまだ。学生の年次も問わないし、いつでも実施が可能だ。ただ、企業が主催する場合には、学業の両立に配慮する必要がある。また、企業は取得した学生情報を、採用活動に用いることはできないとされている。
●タイプ3:汎用的能力・専門活用型インターンシップ
汎用的能力・専門活用型インターンシップは、企業が学生の評価材料を得ることを目的として実施するタイプだ。企業独自で行うものもあれば、大学が地域や企業などと連携して実施する場合もある。この形態では就業体験は必須だが、設定された就業体験要件や指導要件を満たさなければいけない。また、企業が取得した学生情報は、採用活動開始以降に限り用いることが可能となっている。●タイプ4:高度専門型インターンシップ
高度専門型インターンシップは、汎用的能力・専門活用型インターンシップと同様に企業が学生の評価材料の取得を目的に実施するタイプだ。「ジョブ型研究インターンシップ」や「高度な専門性を重視した修士課程学生向けインターンシップ(仮称)」など、想定されるレベルはかなりハイレベルとなる。この形態も就業体験は必須だ。また、企業が取得した学生情報は、採用活動開始以降に限り用いることが可能となっている。「インターンシップ」の目的やメリット
では、企業が「インターンシップ」を行う目的、メリットはどこにあるのであろうか。●優秀な人材の発掘と確保
「インターンシップ」を通じて、企業は優秀な人材を発掘・採用するチャンスを手にすることができる。参加者の中から自社に合致する学生や、求める能力やスキルを持った学生を見つけ出し、入社へのモチベーションを喚起していけるからだ。●採用のミスマッチ防止
「インターンシップ」を導入すれば、仕事の概容や仕事の進め方、職場環境や雰囲気などを事前に理解してもらえる。学生としても納得した上での入社となるので結果的に、「こんなはずではなかった」というミスマッチの防止につながると言える。●人材育成
「インターンシップ」を、新入社員教育の前段と位置づけ、人材育成につなげていける。具体的には、学生に実務を行う上で必要な能力やスキルを教えたり、それらを習得する機会を提供できたりする。●企業の知名度向上
「インターンシップ」を実施し、大学・学生・企業が接点を持つことで情報交換が促され、学生も企業について認知するだけでなく、理解を深めることができる。特に、知名度に劣る中小企業やベンチャー企業にとっては、魅力の発信ができる絶好の機会となる。学生が「インターンシップ」に参加する目的とメリット
一方、学生からすると「インターンシップ」に参加する目的とメリットがどこにあるのかを考察してみたい。●内定獲得率が上がる
学生がインターンシップ先として選ぶ企業は、間違いなく、興味がある企業か将来の進路に関連すると判断した企業のいずれかとなる。「インターンシップ」に参加することで学生は、積極的な姿勢や入社への意欲を企業に対して、早い段階からアピールすることができる。●業界内でのつながりを作る
「インターンシップ」に参加することで、同じ業界・企業を志望している学生と知り合い、情報を交換することができる。また、多様な企業人と接して繋がりを持つことも可能となる。●業界・企業・職種への理解を深める
「インターンシップ」に参加することで、その業界・企業・職種の雰囲気や働き方などを知ることができる。その結果、自身が働く姿も描きやすくなるし、入社後もギャップも少なくなるはずだ。●業務体験を通して適性を知る
「インターンシップ」では、さまざまな業務を経験する。それらをこなしていくうちに、自分では意識していなかった新たな適性を見出すこともあり得るし、思い描いていた通りに業務と自分の相性を再確認できることもあるだろう。「インターンシップ」の給与体系は?
実は、「インターンシップ」の種類によっては、参加した学生には給与を払わなければいけない。どういった条件の下で支払義務が生じるのか、賃金の相場は幾らかを解説したい。●給与支払い義務が発生する条件
基本的には、「インターンシップ」に参加した学生と契約上の定めがない限り、報酬の支払いは必要ない。ただし、「インターンシップ」の条件が労働基準法第9条の「労働者」に該当する場合には、雇用契約の締結が必要となり、給与の支払いが発生する。具体的には、見学や体験的な要素がない。使用者から業務に関して指揮命令を受けているなどのケースだ。●賃金相場
インターン生へ支払われる賃金の相場は、時給1,000~2,000円程度だ。個人の成績・能力によっては、さらにインセンティブが支給されるケースもあり得る。「インターンシップ」の実施方法
ここでは、実際に「インターンシップ」をどのような流れで行っていくのかを紹介したい。(1)目的の明確化
まずは、「インターンシップ」を開催する目的を明確化し、人事部だけでなく経営陣や学生を受け入れる現場部門と共有することが重要となる。(2)業務内容の決定
次は、「インターンシップ」に参加してもらう学生にどのような業務を担当してもらうかを決定しなければならない。あまりにも負担の大きな業務や慣れが必要な業務を任せるわけにもいかないが、とはいえ簡単な業務ばかりをやらせると学生の意気も下がってしまうため、注意を要する。(3)応募方法の検討
続いて、参加する学生をどう集めるのかを検討していく。応募方法には、自社のホームページや専用フォームなどから参加学生を募る直接応募、大学を通じた応募、求人サイトを通じた応募などがある。それぞれ、メリットとデメリットがあるので十分に検討したい。・直接応募
メリット:コストをかけず、自由に情報を告知することができる
デメリット:自社に興味を持っている人以外は集まりにくい
・大学を通じた応募
メリット:多くの学生に知ってもらえる
デメリット:大学ごとのやり取りが必要になり、手間がかかる
・求人サイトを通じた応募
メリット:多くの学生に知ってもらえる
デメリット:コストがかかり、求人サイト内の制約を守る必要がある
(4)受け入れ体制の整備
「インターンシップ」の実施に向けては、受け入れ体制の準備も欠かせない。例えば、プログラムの流れ、時間配分を決める、協力してもらう部署や社員を事前に決めて依頼しておく、連絡手段を決め学生に伝えておく、契約書や誓約書を準備するなどが挙げられる。
(5)募集
次は募集を掛ける段階だ。ここでのポイントは、募集期間と訴求要素だ。募集期間が短すぎると想定通りの人数が集まらない恐れがある。逆に募集期間が長すぎると早くから応募してきた学生のモチベーションが低下してしまう。また、自社ならではの魅力をいかにアピールするかも十分に考える必要もあるのは言う間でもない。(6)面接・採用
誰でもインターンシップに参加できるとしてしまうと、受け入れる現場の負担はかなり大きくなってしまう。それだけに、面接・採用を通じて参加者を厳選したいものだ。重視すべきは、多様性の確保だ。さまざまなバックグラウンドの学生が参加できるようにしたい。「インターンシップ」実施のポイント
「インターンシップ」を実施するにあたっては、幾つか注意しなければいけないポイントがある。それらをリストアップしたい。●学生満足度を優先する
「インターンシップ」では自社の魅力を発信するだけではいけない。むしろ、優先すべきは学生の満足度だ。学生が何を知りたがっているのか、どんなコンテンツを求めているのかなどを学生の視点から企画する必要がある。●参加日程を選べるようにする
恐らく学生は、自分のスケジュールに基づいてさまざまな企業の「インターンシップ」に参加するはずだ。せっかく、興味を持ってもらえたとしても都合がつかないとなってしまっては、機会損失となる。幾つかの日程の中から選べるようにしておくことが大切だ。●意欲とリーダーシップを重視する
「インターンシップ」への参加者を決める際には、学生の意欲やパーソナリティに重きをおくようにしたい。どうしても、「インターンシップ」ではグループワーク形式で進めることが多くなる。協調性のない学生がいると、チームメンバーのテンションが下がってしまうからだ。●実施前の事前説明
実施にあたっては、事前説明をしっかり行うようにしたい。具体的には、「インターンシップ」を開催する背景・目的、自社の説明や業界の概要などを説明するようにしよう。それらを認識しあうことで、価値のある「インターンシップ」となるはずだ。●社員との交流機会の確保
参加者の満足度をアップさせる秘訣は、社員との交流機会を確保することだ。タイミングを見て、アドバイスをする、ヒントを与える、良かった点はもちろん、改善を期待している点をフィードバックしてあげることが大切になってくる。●ハラスメント行為の予防
絶対に注意しなければならないのが、パワハラやセクハラなどのハラスメント行為だ。行為者には、その意図がなかったとしても、些細な言動が大きなトラブルにつながることがある。そうしたことを防ぐためにも、何をしたらパワハラやセクハラになるのか、関係者で再確認しておきたい。まとめ
今や、「インターンシップ」は採用活動において大きなウェイトを占めている。大手就職情報会社の調査結果を見ても、2024年卒の学生が参加した割合は9割超。2023年度の実施企業も7割を超えているという。自社が求める優秀な人材を採用・獲得するために、「インターンシップ」は不可欠な施策となっていることを認識する必要がある。もう一点、留意してもらいたいのは、受け入れ体制をしっかりと構築することだ。万が一、不十分な点があると、学生が企業にマイナスの印象を抱いてしまうだけでなく、最悪の場合にはそれをSNSで発信されて風評被害にあう可能性もある。万全を期して、インターンシップを実施してほしい。よくある質問
●「インターンシップ」は無給か?
「インターンシップ」は、企業と学生と契約上の定めがない限り、基本的に報酬の支払いはない。ただし、「インターンシップ」の条件が労働基準法第9条の「労働者」に該当する場合には、雇用契約の締結が必要となり、給与の支払いが発生する。具体的には、見学や体験的な要素がない。使用者から業務に関して指揮命令を受けているなどのケースだ。●「インターンシップ」の目的やメリットは?
「インターンシップ」を実施するうえでの企業と学生の双方のメリットは以下の通りだ。【企業側】
・優秀な人材の発掘と確保ができる
・採用のミスマッチを防止できる
・人材育成につなげられる
・企業の知名度向上を図れる
【学生側】
・内定獲得率が上がる
・業界内でのつながりを作れる
・業界・企業・職種への理解を深められる
・業務体験を通して適性を知ることができる
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