リスクをとらないことが最大のリスク

稲垣:最後の質問です。「今の世間ではリスクをとることが怖いという思いが広まっているかなと思います。この時代にリスクをとることについてどうお考えになりますか」。

米倉:リスクをとらないことがリスクだと思います。僕はこの間アメリカのデザインスクール、Dスクール、スタンフォードに行って、そこでデザインラーニング、デザインシンキングなどを学びました。そこで言っていることは4つ。「早く始めて」、「早く失敗して」、「早く学習して」、「早く成長する」。これすごいなっていう話をしたら、僕の教え子の一人が、「早く失敗したい」って言っていろんなことをやり始めた。

僕はこのほうが絶対いいと思う。要するに失敗って何かっていったら「ラーニング」なんですよ。学習の基盤だから、失敗っていうのはそこで終わらない。そこから早く学んで早く成長するプロセスですから、僕は今何もしないことのリスクのほうが大きいような気がしますけどね。あっという間に60歳過ぎるよ。

稲垣:僕はリスクよりもチャレンジという言い方がピンときますが、今のビジネス人生で3つぐらいチャレンジしたことがありました。まず新卒で光通信という当時すごい勢いのある会社に入りました。入る前は周りに反対されましたが本当に入ってよかったっていうのが僕の1つ目。2つ目は起業ですね。30歳で起業したんですけど、これも周りに止められました。やめたほうがいいよ、失敗するからと。本当に苦労はしましたし今もうまくいっているわけではないですが、本当にそのチャレンジをしてよかったと思っています。3つ目は海外移住。39歳で英語が話せない状態で行くという無謀なチャレンジ。その前に米倉先生に出会い、いただいたのが、「転んだ彼を笑うな、彼は歩こうとしたんだ」という言葉です。転ぶというのは全然格好悪いことじゃないと39歳でも思いました。今も転び続けていますけども、リスクというかチャレンジは絶対したほうがいいなっていう感覚ですね。

岡田:私もそう思いますね。私の場合マッキンゼーを辞めて、その翌月に家事代行サービスをやろうとして失敗して、その翌月から英語学習のビジネスを始めたんですね。自分が英語のビジネスをするなんて思ってもなかったですし、家事代行サービスの失敗があったから今があります。今日のような機会もいただいているので、やっぱりチャレンジしてよかったなと思います。あとリスクのとり方っていろいろあると思うんですけれども、僕の場合起業しかリスクをとった経験がないので分からないですが、起業に関していうとフィナンシャルのリスク。ただ有限なので、自分が入れる資本金以外のリスクは基本的にないじゃないですか。私の場合200万円だったんですけれども、なのでマックス200万円失う、これ以外のリスクは存在しません。そういう意味でそれぐらいのリスクはとって全然問題なかったなというふうに私は思っていますね。

米倉:みんな、チャレンジしましょう。異質な人が本当に大事だと思います。若い人達は好奇心を持って、いろんな国に出ていろんなことにチャレンジしないと、今までの20年間と同じ1年間が続いちゃうと思うんですよね。何かを変える。それが起業かもしれないし、英語に対するチャレンジかもしれないし、全く違う道を歩むっていうことかもしれないっていうような気がしています。ですから今日はますます面白いなと思っちゃいましたよ。こっちは先がないのにこんなに面白いと思っているんだから、先がある諸君はもっと面白いぞということを言いたいです。
第28話:日本企業の革新のために必要な「強いバイタリティ」や「リスクを恐れないチャレンジ」とは

対談を終えて

「多様性がもたらす、日本企業の革新とは」という大きなテーマでディスカッションをしたが、結論は現状に染まらず、チャレンジして変えていくことが大事。チャレンジをしたりリスクを負ったりするには勇気が必要だが、歯を食いしばって強いバイタリティで臨んでいく。米倉先生はハーバード大学PH.Dで一橋大学名誉教授、法政大学大学院教授。岡田さんは大阪大学工学部からマッキンゼー出身。学位をもち、とてもアカデミックなお二人だが、やはりマインドが大事だという結論がとても面白かった。私もお二人に負けず、今日からもっとチャレンジしていこうと思う。

【登壇者】
米倉誠一郎氏
一橋大学名誉教授 法政大学大学院教授
一般社団法人Creative Response Social Innovation School学長

学外活動では、ソニー戦略室長、プレトリア大学日本研究センター所長などを経て、『一橋ビジネスレビュー』編集委員長を兼務。現在、(株)教育と探求社社外取締役、(株)Francfranc社外取締役。NPO法人e-Education・アドバイザー、NPO法人クロスフィールズ・アドバイザー、NPO法人ティーチャーズ・イニシアティブ理事などを務める一方、いくつかのベンチャー企業の顧問・アドバイザーも務めている。一橋大学社会学士・経済学士・社会学修士、ハーバード大学博士。専攻は、イノベーションを核とした戦略と組織の歴史的研究。 著書に、『経営革命の構造』(岩波新書)、『創発的破壊:未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『オープンイノベーションのマネジメント』(有斐閣)、『2枚目の名刺:未来を変える働き方』(講談社)、『イノベーターたちの日本史:近代日本の創造的対応』(東洋経済新報社)、『松下幸之助:きみならできる、必ずできる』(ミネルヴァ書房)など多数。

岡田祥吾氏
株式会社プログリット代表取締役

1991年生まれ。大阪大学工学部を卒業後、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーに入社。日本企業の海外進出、海外企業の日本市場戦略立案等、数々のプロジェクトに従事。同社を退社後、2016年に英語学習コーチング「プログリット(PROGRIT)」のサービスを創業。創業から4年半で累計受講者数は10,000人を突破。創業3年の段階で17億円の売上を達成、多くの投資家からも注目を集めている。また、Forbes Japanが選ぶ「30 UNDER 30 JAPAN 2020」の受賞者として選出される。著書に『英語学習2.0』(KADOKAWA刊)

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