コロナ禍による新卒採用の影響
今回の調査は、定点+αであったため、昨今多くの企業が動向を気にしている新型コロナウイルスに関する調査は含まれなかった。しかし、やはりこのコロナ禍を見逃せるはずはない。小野氏は、今回の調査レポートに加えて、新型コロナウイルスの感染拡大によって、新卒採用にどのような影響があるのかについても、見解を示した。小野氏は、内閣府や経団連から、就職活動の時期や手法について柔軟に対応していく指針が示されている背景をふまえ、「企業側はオンライン面接や、2021年4月入社にこだわらない柔軟な面接を実施することが想定され、今後は経団連と大学側で合意された通年採用と連動した動きになっていく」と予測。社会の価値観が変わっていくことを受け、内閣府が提唱しているIoTやAIを活用した新しい社会を目指す「Society 5.0」にも触れ、次のように語った。
「緊急事態宣言後に社会のあり方が変わり、『Society 5.0』の取り組みもこれまで以上に進んでいくことが想定されます。その影響で、インターンシップによる採用が活発になり、この先、企業の間で主流の採用手法になっていくと考えています」
インターンシップの採用が増える背景について、「大学側は『Society 5.0』の実現に向けて、学生の人材育成に力を入れることが国や経団連から求められています。その一環で、キャリア教育を目的に、企業と連携したインターンシップを活用する大学が増えていく」と説明。続けて「ただ、準備期間をふまえ、早くても2023年卒の学生から本格的に導入されることが予想されるので、今後3~5年のスパンで、インターンシップの採用手法が定着していくと思います」と話し、コロナ禍による新卒採用の影響の考察を締めくくった。
今後のキーワードは「通年採用」、「採用チャネルの多様化」、「インターンシップ」
今回の調査レポートと新型コロナウイルス問題に関する話しから、大きく3つのことが浮き彫りとなった。1つ目は傾向こそ大きく変わらなかったが、「就活ルール」の形骸化が進み、「通年採用」へのシフトが加速しつつあること。小野氏が、「コロナ禍によって、社会のあり方そのものが大きく変わろうとしている」と語っていたように、当面はこれまで通りの採用活動が出来ないことは明らか。今まで緩やかに移行が進んでいた「通年採用」は、本格移行期に進み、同時に場所を問わない「オンライン面接」が浸透するなど、採用の時期や手法について、今まで以上に柔軟になることが想像に難くない。また、小野氏は「柔軟な働き方や労働環境への整備への関心はいっそう高まると想定される」とも語っており、柔軟に安心して働ける環境を整備することが、企業のアピールするポイントにつながると示唆している。
2つ目は、採用チャネルの多様化と変化だ。企業は、ホームページや説明会による従来の情報発信「選ばれる(守り)」取り組みに加え、大学やゼミ・研究室、学生が集うコミュニティなどに直接アプローチして「獲得しに行く(攻め)」の動きが求められそうだ。
最後のポイントは、「インターンシップ」の重要性がより増すこと。「Society 5.0」を見据えた教育改革から、大学が企業とタッグを組み、キャリア教育を目的とした「インターンシップ」が増えていくと考えられているためだ。このため、企業は大学とこれまで以上に緊密な連携を取りながら、採用計画や手法を見直す必要がある。
世の中は、「withコロナ」や「アフターコロナ」などと呼ばれる、新しい価値観への転換が求められている。企業もこの変化をいち早く捉え、柔軟かつ積極的に学生にアプローチすることが、新卒採用でよい成果を収めるポイントだろう。
ピープル・アドバイザリー・サービス リーダー/パートナー
鵜沢 慎一郎(うざわ しんいちろう)
ピープル・アドバイザリー・サービス シニアマネージャー
小野 祐輝(おの ゆうき)