「ブームに乗る」か、「自社らしさを維持」か。施策を形骸化させないために
人事の仕事は一見、地味で不変的なようでも、実はかなり変化しています。人事関係者以外にはあまり知られていないかもしれないのですが、人事の仕事にも「ブーム」があります。そして、意外にも人事はそれに流されやすいものです。過去からのブームをたどると、戦後から始まった「年功序列型の人事制度」からスタートし、「職能資格制度の導入」、「非正規雇用者の活用」、「成果主義の人事制度」への移行、「コンピテンシー」、「ナインボックス」、そして「1on1」と、さまざまなものがありました。いずれの取り組みもブームのうちは注目されても、数年後には形骸化するケースも多かったように感じます。ちなみに、2020年のブームは、間違いなく「エンゲージメント」と「日本型雇用からの脱出」です。
さっそく人事の現場でも、「今年はこの2つがキーワードだけど、あまりブームに流されないようにしようね」という会話が生まれています。その背景には、成果主義の人事制度やコンピテンシーなど、アメリカ型人事制度を導入したものの失敗したという苦い思い出があります。いずれもブームの時には、どの企業もこぞって導入していました。しかし、現在でもきちんと運用できている企業は多くはないでしょう。成果主義といいつつ、結局、年功序列型の賃金体系のままになっている企業が多いような気がします。
ブームに乗るのは、とても楽なことです。経営陣にも「いま、世の中が変わっていて、競合他社も早速、流行を取り入れた施策をおこなっています」と説明をすると、たいてい「わが社もやろう」という話になりやすいからです。人事担当者としても、「うちの会社は先進事例だ」という自信にもなりますし、いわゆる「仕事をした感」がとてもよく出ます。そのため、ついつい他社の事例やコンサルタントの意見を鵜呑みにして、自社にそのまま取り入れてしまうケースがありました。
しかし、本来であればブームかどうかに関わらず、雇用環境の変化や流行が自社にどう影響を及ぼすのかを本気で検討しなければなりません。ブームはブームとして検討してみる必要はあります。しかし、みんなやっているから良いものだろうと鵜呑みにしてはいけません。自社の文化にブームが合わないのであれば、取り入れないと決断する勇気も必要です。
例えば、先ほど2020年のブームと予想した「日本型雇用制度からの脱出」は要注意です。単純に欧米型制度に舵を切ると、過去の「成果主義の人事制度ブーム」のような失敗が起こることが容易に予想できます。ブームをよく検討したうえで、あえて「うちの会社はずっと日本型の雇用制度でいこう」という決断も大いに有効な選択だと思います。
日本企業は、労務管理2.0へ
労務管理の分野では新たな領域やブームに加え、「副業解禁」や「働き方の多様化」など、これまでの仕事にはなかった出来事が次々と起こっています。従来の労使関係や人口増加を背景にした「大量」、「一括」の時代に生まれた労務管理では、もう時代に対応できません。こうした労務管理手法をやめ、人事の領域を統合した「戦略人事企画」と「運用」の2つの体制に再編を行う人事部も増えてきました。まさにいま、日本企業の人事部は労務管理をバージョンアップして「労務管理2.0」に移行するタイミングに来ています。
労務管理2.0は、例えば以下のような労務管理機能を備えています。
・エンゲージメントのモニタリングと向上
・働き方の多様化と自由化の推進
・オンボーディングによる早期定着促進と離職防止
・副業の許可
・出戻りを受け入れる柔軟性
・人材の一括管理ではなく、ITツールを活用した個別待遇
などです。
2020年は、こうした時代に合わせた取り組みに着手し、「うちの会社は『労務管理2.0』です」という企業が増えるでしょう。
また、企業は、「労務管理をバージョンアップするのか、しないのか」という本質的な選択も迫られているように感じます。これに対しては、バージョンアップすることを選択し、実行した会社が、今後、働く人に選ばれやすい会社になっていくのではないかと思っています。
これから日本の労務管理は、さらにバージョンアップを遂げるのでしょうか。各社の取り組みに注目していきたいと思います。
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