「既存社員のリスキリングにそろそろ本腰を入れなければ」。そんな声を、最近よく聞くようになりました。DX時代での生き残りをかけて、各社ともに、“リスキルする”ことの必要性をひしひしと感じていらっしゃるようです。
一方で、リスキリングといっても何をすればよいのかわからない、ピンとこないという企業の方もまだまだ多いのが実情です。リスキリングはこの時代を生きるすべての人々に必須の取り組みです。では人事としては、どのように対応し、推進していくべきでしょうか。
DX時代に活躍できる人を育てる(5)「リスキリング」を社内実践するうえで、人事が持つべき心構え【79】

「リスキリング」の真の問題に気づく

昨今、企業だけではなく、自治体でもリスキリングの取組みは始まっています。その一方で、リスキリングに関するお悩みは、各組織でかなり差がある状況だと感じています。

経営者や人事責任者・担当者から、本当に幅広いご相談があります。例えば、「これからのDX時代に、我が社はついていけるだろうか」といった漠然とした不安から、「とりあえず社員にプログラミングなどのテック系スキルを習得させたい」といった具体的な課題、そして「プログラミングは習得させたけれども、なんかうまくいかない」といった少し進んだお話まで……。

特に、最近の傾向として「プログラミングなどのテック系スキルだけでは、なんとなくうまくいかない」という課題を感じる方が増えてきています。これはまさに本質的な問題で、別の例で考えると、英語を学んだにも関わらず、全く外国人と話せない、という問題と似ています。いくら英語を覚えても、そもそも話す話題を知らなければ会話はできません。また、話したいという思いがあることも重要です。さらに別の観点では、外国人と話すことへの抵抗感や恐れをなくす必要もあります。

プログラミングやITツールについて学んでも、何かを創りたいという思いや、創るための具体的な思考がなければ何もできないのです。ゲームプログラマーがゴルフゲームを創ろうとしたら、ゴルフそのものや、ゴルフのルールを知らなければいけません。

私自身、以前にDXの専門家に優秀なIT人材はどのような人か?を質問したことがあるのですが、そこでは「自分で事業を創ったことがあり、事業とITの両方を知っている人材だ」という答えが返ってきました。

単にITスキルを身につけることがリスキリングではないのです。本シリーズで、これまでお伝えしたことをまとめると、DX時代のリスキリングはあらゆる技を実践で身に付ける、「総合格闘技」のようなものと言えます。

メンバー全員のリスキリングは、一朝一夕では難しい

DXに向けて「何から始めたらよいかわからない」から、ひとまずノーコードツールやローコードツールを使ってみる、DX勉強会を開催してみる、という企業も多いようです。どうすればいいのかわからない、という漠然とした不安から、とりあえずやってみる、という方向に進む流れです。

DX時代に対応するためのリスキリングで、最も重要なことは「何を目的に、誰が、どのようなスキルを、どうリスキルするか」を予め定義することでしょう。目的や知識が不足したままITスキルを習得しても、全く意味がありません。

一律にリスキリングを推進する前に、自社にとってのリスキリングが何の目的で、どのように行うべきなのかを決めるべきなのです。まず、社内人材の特性を分析して、ITスキルはPCスキルから覚える必要があるのか、いきなりプログラミングを覚えても大丈夫なのかを検討する必要があるでしょう。同時に、ITスキルを活用できるだけの組織能力が自社にあるかどうかを見極めることも重要です。

もし、リスキリングの真の目的がデジタルを活用した新規事業の創出なら、無理にリスキリングを試みるよりも、外部委託を活用する方が早いこともあるでしょう。社員のスキルがバラバラで、目的が明確に定まらない中では、リスキリングを行っても意味がないのです。

リスキリングの根本は、組織変革から

このような状況の中、私たち人事関係者はどのような姿勢で、DX時代のリスキリングを推進していったら良いのでしょうか。まずは企業の事業戦略や、目指す方向性に対して、リスキリングが本当に必須なのかを考えるべきです。

今後の事業戦略を考え、社内のメンバーのリスキリングが必要であるのであれば、次に行うのは「推進リーダーの選抜と育成」です。DXの成功には、優れたリーダーが欠かせません。将来のリーダーがDX時代に対応したスキルを持っていなければ、企業の存続すら危うくなるでしょう。

一方で、優れたDXリーダーが活躍するために、組織変革を進める必要もあります。優秀な人材ほど、活躍できる環境でなければ見切りをつけて会社を去っていくものです。我々人事関係者は、常に、優秀な人材が気持ちよく働ける環境をつくり続けなければなりません。優秀なリーダーの意見よりも、過去の慣習や悪しき習慣がまかり通るようではいけません。

優秀な人材をリスキリングするとともに、組織そのものが時代遅れになっていないかを点検しましょう。その上で時代にそぐわないようであれば、“ミッションやビジョン”などの「パーパス」を見直すとともに、組織風土を変革することも必要です。リスキリングを行うのであれば、組織変革をセットで行うことを忘れないようにしましょう。

そして、我々人事関係者が経営者やリーダーのコーチとなって、DXやリスキリングを成功へと導いていくのです。そのためには、我々人事関係者も新たなスキルを積極的に覚え、変化を歓迎するマインドを身につけ、変わらなければなりません。

リスキリングはまさに総合格闘技です。“相手を変えるのではなく、自分たちから変わる”、強い決意とともに進んでいきましょう。
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