Vol.01
「NEXT HR」特別パネルディスカッション 講演録
次世代の人事、人事サービスの進化と未来(後編)
PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 北崎 茂氏
日産自動車株式会社 人事本部 日本人事企画部 担当部長 福武 基裕氏
株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 人事総務本部 人財企画部 主任 中村 亮一氏
モデレーター:ProFuture代表/HR総研所長 寺澤康介
環境変化が極めて激しい企業を取り巻く環境のなかで、次世代の人事はどうあるべきか。人事サービスの進化と未来はどうなっていくのか。そこでは、単に現状を変革するだけでなく、人事の新しい価値の創造、パラダイムの転換が求められているのだ。 いま私たちは、次世代の人事価値を創造するムーブメント「NEXT HR」を提唱するー。
前編では、日産自動車株式会社と株式会社日立製作所で進められている具体的な取り組みについての話を伺ったが、この後編では、世界の中長期的な将来予測と、HRテクノロジーの進化、そして人事はどう変わるべきかを取り上げる。
2022年、世界の人々の働き方と人材マネジメントはどう変わるか
寺澤続いては、世界の中長期的な将来予測と、人事はどう変わるべきか、テクノロジーの進化がそれにどう絡むかといったところを、まずPwCコンサルティング合同会社の北崎さん、続いて慶應義塾大学大学院の岩本先生からお話しいただきたいと思います。
北崎私からは、未来の働き方と人材マネジメントというテーマで話をさせていただきます。2022年の段階でどういう働き方が世界に存在し、ビジネスのあり方はどうなるのか、人事はそれに対してどういうことをやらなければならないかということについて、先進国一般市民約1万名の人々と世界各国の約1,400名の方へのアンケートにもとづき、PwCがまとめた調査レポートがありますので、これをご紹介します。
まず、今後の働き方を変える諸要因として、「グローバリゼーション」に対する保護主義的な「逆グローバリゼーション」、自社の利益を追求する「個人主義」に対して社会貢献を考える「集団主義」、事業規模拡大に向かう「統合化」に対して小規模組織のネットワーク化に向かう「細分化」、というように、さまざまな対極軸が生まれてくるだろうと、我々は予測をしています。
こうした環境変化を受け、未来の働き方として定義付けたのが「3つのワールド・オブ・ワーク」というものです。まず「ブルーワールド」は「個人主義」と「統合化」を優先する企業群で、大企業型資本主義が支配力を持つ、今のメガ企業がそのまま進化したような形です。次に、「集団主義」と「統合化」を優先するのが「グリーンワールド」で、環境問題への配慮など社会的責任が事業を動かす要因となる企業群です。最後は「オレンジワールド」ですが、小さいことが価値を持つという考え方で、専門分野に特化し、ベンチャー企業の集合体のように動いていく形です。
そういう中で、人事がどう変わるかですが、「ブルーワールド」では、従業員に対して雇用の安定と長期就労を提供する一方、合理性を追求し、利益を上げていくために、非常に精緻な業績管理の仕組みや、ウェアラブルデータを使って従業員の健康状態をモニタリングし、細かい健康管理を行うといったマネジメントが行われると考えられます。
また、「グリーンワールド」では、組織全体と子会社や自社の影響下にあるサプライヤーまでにわたって社会意識や環境意識を求めるため、サプライチェーン全体のデータを可視化してガバナンスを効かせたり、従業員に対してライフ・ワーク・バランスを提供したりといった健全な社会や労働環境を構築していくことが人事の役割になってきます。
一方、「オレンジワールド」では有期雇用が圧倒的に増えて、プロフェッショナルとの個別契約を繰り返していくようなモデルが生まれ、人事はそういう人を探す、あるいは採算性が上がるような契約をするといった調達部門的な動きが求められます。どういう新しいアイデアを持った人がどこにいるのか、テクノロジーをうまく使って見つけることもミッションになってきます。
このレポートにはかなり未来的な仮説が入ってはいますが、大小の差はあれ、こういった変化が起こり、組織の形や、またそこで活用されるテクノロジーは変わっていくと考えられます。それに対し、企業の人事戦略はどの程度まで未来を見据えたものになっているでしょうか。PwCでは世界の人事担当者約480 名を対象にアンケート調査では、どの程度まで長期的な視点で人事の戦略構築をしているかという質問に対して、「短期的(1〜2年)」と回答した企業が21%、「中期的(3〜5年)」は56%と最も多く、「長期的(6年以上)」という回答は24%に留まっています。今日は2022年の世界がどう変わるかというレポートをご紹介しましたが、本日ご紹介したような未来を見据え、人事が今、何を準備できるかという長期的な視点は、これからさらにその重要性を増してくるでしょう。また我々サービスプロバイダーは、こうした変化に人事が対応できるように、今後もより一層、新たな示唆や情報を企業の方々にご提供し続けていかなければならないと思っています。