キャリア自律促進のための取組とQCサークル活動を活用した人財育成
〜第5回 日本HRチャレンジ大賞受賞企業講演(1)〜
味の素株式会社 キャリア支援グループ シニアアドバイザー 渡辺昌彦氏
株式会社LIXIL シニアライフカンパニー 人事総務グループ 田島純人氏
HRチャレンジ大賞は、「人材領域の果敢なチャレンジが日本を元気にする」をキャッチフレーズに、人材領域で優れた新しい取り組みを積極的に行っている企業を表彰しています。「第5回 日本HRチャレンジ大賞」では、ミドル・シニアの戦力化・活性化を目指したキャリア自律の体系的な仕組みを構築し、キャリア自律をベースに生産性・創造性を向上する取り組みを行っている味の素株式会社が大賞を受賞。人材領域部門優秀賞は、株式会社LIXILシニアライフカンパニーの「QCサークル活動を活用した人財育成」が受賞しました。今回は、「第5回 日本HRチャレンジ大賞受賞企業講演」として、味の素株式会社と株式会社LIXILシニアライフカンパニーの取り組みについて紹介していただきます。
「確かなグローバル・スペシャリティ・カンパニー」実現を目指した「キャリア自律」促進のための取組
味の素株式会社 キャリア支援グループ シニアアドバイザー 渡辺昌彦氏
本日は「味の素の企業概要・目指す姿」、「味の素の人財マネジメント」、「味の素のキャリア自律の取組」の3点についてお話します。
味の素(株)は創業が1909年で、現在の売り上げは1兆1859億円、そのうち、海外が6292億円で53%となり今や海外での売り上げの方が増えています。従業員は3万3295人です。
「2020年頃に“グローバル食品企業トップ10”入りを果たす」を目標に「成長ドライバーの展開(GROW)」と「更なる事業構造強化(FIT)の“FIT&GROW with Specialty”を基本方針に「先端バイオ・ファイン技術が先導するスペシャリティ食品企業グループ」へ成長を加速させています。
次に、人財マネジメントについてですが、これまで味の素が培ってきたものとは異なる「新しい事業領域」、「企業・業界」、「多様な地域・国々・人々」をマネージしていく必要があると考えています。そのためには、従来の弊社の強みに加えて、新しい人財マネジメントの進化・変革が求められており、自律的自己の成長と企業の成長を同時に実現するために、キャリア自律の取り組みを推進しています。
キャリア支援の目標は「楽しく・面白く・イキイキと自らの旗を立てよう」
弊社のキャリア支援グループは、2012年7月からスタートしました。今後ミドル、シニアの社員層が増える中で、「楽しく・面白く・イキイキと自らの旗を立てよう」そして「一歩踏み出そう」との目標を掲げ、「キャリア自律支援制度」「シニア再雇用制度」を中心としたキャリア・ライフプランのサポート施策の立案・運用を行っています。
ここから、弊社のキャリア自律の取組について説明させていただきます。自律的キャリア開発とは、「社員一人ひとりの成長は、会社・事業の成長の基礎である」、「自律的なキャリア開発・選択は社員の責任である」、「社員の自律的なキャリア開発を支援するのは、会社の責任である」と定義しています。
キャリア自律、自律的キャリア開発を推進するのは、個人と組織の関係が変化しており、個人の価値観、働き方の多様化が社会的な潮流・背景となっています。それに加え、競争的、グローバルな環境の中で、個人の自律の必要性が一層高まりつつあります。
そこで、今後のキャリア開発の基本的な考え方として、厚生労働省が目指す「生涯現役社会」への移行を踏まえ、労働力確保の視点と70歳雇用の義務化を見据え、「生涯を通して、能力を発揮、社会に価値を提供し続ける」ことを研修のメッセージに掲げています。
具体的なキャリア研修の展開としては、2013年8月に56、57歳の上級部長を対象に「アッパーミドル・キャリア研修」をスタートさせました。ここで、受講者として研修、カウンセリングを体感して頂き、「自分の人生を考える上でなかなか有意義であり、もっと若い時期から研修を受けるべきではないか」という声が挙がったことで、翌年には40代基幹職の「ミドルキャリア研修」に繋がりました。2015年には40代一般職の「ミドルキャリア研修」、「30代キャリア研修」、食品メーカー合同での「若手女性キャリア研修」へと拡大し、2016年には「新人キャリア研修」をスタートさせました。
「アッパーミドル・キャリア研修」では、弊社の基幹職の9割がキャリア研修は有意義だったと回答しています。さらに、特筆すべきは受講者の9割以上が「明日から取り組むことが決められた」と答えています。また、キャリア自律の意識調査では、「自分の意見や経験を周囲の人に伝えている」、「周囲が自分に何を期待しているか理解している」「現在の職場で自分の能力や持ち味を活かせている」などの回答が多く、モチベーション高く仕事に取り組んでいるという結果が出ています。
これらの研修のほか、キャリア支援グループではキャリアカウンセリング機能強化としてキャリアコンサルタントとしての能力開発を図り、インナーカウンセラー養成講座、キャリアデザインハンドブックの発行や女性活躍推進に向けて女性リーダー向けコーチング研修などに取り組んでいます。
基幹職自律支援制度としては、「再雇用コース」「人材派遣登録コース」の他に、一人ひとりが自分らしいキャリアをデザインすることができる様に、転進支援休暇、転進支援会社等の活用ができる「シニア転進コース」、「マイプランコース」を用意しています。 こうした中、「生涯現役」、「地域社会と生きる」「夢を実現する」など、ミドル・シニア層のキャリアの多様化が見られるようになりました。
最後に転身者の事例を紹介します。一人は50代後半で転職、第2の人生はモノづくりを選択しました。その他、58歳で早期退職しレモン栽培等の新農業をはじめた人、60歳まで勤め老後は自然豊かな田舎でのんびり暮らしたいと、定年後は地方に住居を移して町役場の職員として働いている人等がいます。転職活動のメッセージとして「とにかく忙しかった。自分の会社人生を一気に棚卸して、それを未知のスカウトや求人企業に売り込むのは、まさに気力と体力が必須ということを実感した。」、「思い切って扉をたたいてみると、別の世界があるものだ。」、「地域密着で仕事をしながら夫婦で元気に過ごしていければと思っています。」等頂いています。
私自身も8月末で60歳定年となりシニア入りしました。セカンドキャリアを皆様と一緒にキャリア自律、そして中高齢者の活躍推進に取り組めればと考えています。
QCサークル活動を活用した人財育成
〜QCを介護の現場に定着させ、現場改善力の強化を図る〜
株式会社LIXIL シニアライフカンパニー 人事総務グループ 田島純人氏
HRチャレンジ大賞にて、人材育成部門優秀賞をいただいた「QCサークル活動を活用した人財育成」について、紹介させていただきます。製造現場で使われることが多いQC(Quality Control)をLIXILの介護の現場に定着させて、改善の向上に繋げている内容です。
弊社は製造業がコア事業となっていますが、カンパニー制度を敷いている中で、住宅・サービス事業も展開しております。LIXILシニアライフカンパニーは、介護事業を担当している社内カンパニーです。事業内容は介護付き有料老人ホーム、高齢者向け住宅運営を行っており、2006年にある企業より事業譲渡を受けて介護業界に参入しました。
QCは歴史のある改善手法です。日本は戦後、資源もなく荒廃していく中で、「工業立国の道しかない」とアメリカから品質管理の専門家を招き、品質管理について学び、日本流の品質管理の手法としてQCが整備されました。1960年代には、小集団でQC活動を行う「QCサークル」が開始され、弊社の前身であるトステムも取り入れ、何十年にも渡って活動しています。現在、日本の商品は品質が良いとされていますが、その礎はQCによる手法でしょう。その後、バブルの崩壊などにより、QCの見直しが進み、QC自体も改善を繰り返しています。
なぜ、QCが今なお使われているのかと言いますと、製品不具合の削減・改善に非常に効果的だからです。何か不具合が起きた際に、テーマの選定→現状把握→現状分析→目標設定→対策立案→対策実施→効果把握→歯止め→反省・今後の展開というQC実施の9ステップがあります。これにより、真の原因を掴んでそれに対する対策を立てることができ、効果を検証して次に繋げることができます。QCは客観的・科学的・データによる改善手法です。
製造業の改善手法「QC」を介護サービスに導入してランキングUP
この製造業でよく使われているQC手法を、弊社の介護サービスに取り入れた背景についてご紹介させていただきます。当初、シニア事業部門の業績はあまり良くありませんでした。事業を開始してから4年を経ても、有料老人ホームや高齢者向け住宅の入居率は50%未満。それでは、業績が上がらなくても仕方ありません。当時、ダイヤモンド社が出していた介護サービスの充実度や従業員の技術レベル、人員の安定状況などを考慮したランキングで、弊社は東京では68ホーム中59位。福岡でも27ホーム中23位と、下から数えた方が早い状況でした。これでは、入居者から選ばれません。それは、メーカーが介護事業に参入したためノウハウが無く、スタッフの勘や経験に頼りがちだったからです。
人事部門としてどのように経営に貢献していくかということを考えた時に、当然ながら入居率を上げて経営を良くしていかなければなりません。そのためには、サービスを向上させていかなければいけない。サービスを向上させるためには、意識改革が必要です。そこに人事部門がどのように関与するかですが、弊社ではビジネスパートナー・ビジネスドライバーとして、事業戦略に関わっていくことと考えました。そのためには、「人と組織を活性化させていく=人事部門が変化をリードしていく」というミッションを持って、トステム時代から使用していたQCを使って変革を推進することに決めたのです。
当社のQC活動の全体の流れはシンプルです。学んで、実践して、アウトプットするという3つのステップを、半年ごとのサイクルで繰り返しました。QCを学ぶだけでは身に付きません。QCサークル活動で実践することによって、スキル習得を推進しています。これだけ見れば非常にシンプルですが、メーカーと違ってサービス業でQCを展開することは難しい作業でした。QCを学ぶ時間のために、サービスをする時間が削られてしまうということで、大きな反発もあり、退職者も出たほどです。しかし、経営層からQCの重要性や意義を繰り返し説明し、ようやく軌道に乗りました。
ノウハウが詰まったテキストを活用した研修を全社員に実施した後、実践に入りましたが、そこで重要なポイントが3つ挙げられます。まずは、マネジメント力の育成です。幹部候補や有望な若手にQCリーダー活動を経験させて育成。6ヵ月ごとにリーダーを入れ替え、リーダーの経験者を増やしていきました。次に、テーマを介護事業用にアレンジしたことです。これにより、顧客のためになると実感できるテーマを設定し、モベーションのアップに繋げていきました。一般的にQCとは品質の向上や改善に用いられますが、当社では顧客満足度を上げることやサービスの向上に繋げるように取り組んでいます。3つ目のポイントは、サービスを定量化する活動にチャレンジしたことです。サービスを定量化するのは難しいことですが、それを実践することで問題点や目標を明確にした活動をすることができます。
最後に、アウトプットですが、半年間のQC活動の棚卸をするために「全社QC発表会」をしています。この場で、経営層への報告をし、優れた活動を表彰します。発表会後はイントラネットで発表当日の状況を公開し、更に発表資料は冊子化し配布します。事例の全事業所での共有をすることで、半年ごとにレベルを向上させる仕組みとしました。
ここで、QC活動による効果を見ていきます。先ほど、取り上げたダイヤモンド社の有料老人ホームランキングでは、この取り組みにより、東京が482ホーム中、3位と11位。福岡が158ホーム中、2位と6位に上昇し、対外的にも高い評価をいただけるようになりました。また、有料老人ホームや高齢者向け住宅の入居率も直近ではほぼ満室の状態で、お客様からもご支持をいただけるようになっています。その他の効果としましても5年間の継続した取り組みにより、意識・行動の変革が進み、人・組織の強化に繋がってきました。
介護業界は「3K」や「人手不足」と言われることも多い業界ですが、人と組織の意識・行動が変わることで、より強い人・組織・会社・業界にしていけると確信しています。介護の現場に入る人は少ないのが現状ではありますが、引き続き人と組織の活性化を追求しながら、今後は弊社の活動を業界全体の地位向上に貢献させたいと思います。
味の素株式会社
人事部 キャリア支援グループ シニアアドバイザー
渡辺 昌彦氏
1980年に味の素株式会社に入社、食品営業を中心に飲料、医薬事業も担当、40代後半からコーポレート系の業務を担当、2012年7月からキャリア支援グループを立ち上げ、9月からシニアアドバイザーとして従事。 産業カウンセラー、キャリアコンサルタント2級、ファイナンシャルプランナー2級等の資格を取得、慶応CRL登録キャリアアドバイザー、PREP経営研究所研究員として活動している。
LIXILシニアライフカンパニー
人事総務グループ グループリーダー
田島 純人氏
1997年(株)LIXILの前身トステム(株)に入社。営業として代理店を担当後、東北支社石巻営業所所長として宮城県東部エリアの営業責任者を経験。2007年から東北6県エリアの人事総務担当として従事し、LIXIL5社統合における人事・総務統合を経験。2011年からシニアライフカンパニーの人事総務責任者として「強い良い」会社づくりに従事。