国保祥子氏
多様な人材の活用が企業の生き残り戦略に
まず、なぜ多様な働き方が求められるのかという点について、私からご説明したいと思います。
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」によりますと、日本の労働人口は近い将来半減します。つまり、今と同じ業務内容を半分の人間でやっていかなくてはならない時代が来るということです。
少ない人数で、生産性の高いやり方で業務を回し、なおかつ新しいサービスや製品を開発しなくてはならない──、これまでのように均質な人材をたっぷり使える時代は終わります。多様な人材の活用ができない企業は多分、生き残りが難しいと思います。
では、多様性という観点で、日本はどのような状況にあるのでしょうか。多様性を示す代表的な指標である女性管理職比率を見ますと、日本は諸外国と比較して就業者における女性比率は大差がないにも関わらず、女性管理職比率が著しく低いのが現状です。「管理職に女性が全くいない」という企業も過半数にのぼると見られています。
では、女性の活躍がどうして進まないかというと、最大の理由は結婚や出産によるキャリアの中断です。これが大きなハードルとなり、管理職になるまで組織に女性が残ることができないのです。
厚生労働省の資料によりますと、出産後の女性の就労意欲は高いということが分かっています。では、なぜ続けられないかというと、大きな理由は勤務時間です。子どもができると、保育園のお迎えから子どもが寝るまでの時間、例えば午後5時から午後9時が育児のラッシュアワーになります。この時間に自宅にいられることが、育児をしながら仕事を続けるための生命線になるわけです。言い換えれば5時に帰宅できれば、育児との両立はそれほど難しいことではありません。しかし、当たり前のように21時や22時まで働くことを要求されると、両立できずに辞めざるを得ないということになります。
日本の長時間労働や生産性の低さは以前から問題になっています。国民一人当たりGDPはOECD加盟34カ国中21位という低さです。1時間当たり労働生産性はアメリカの約6割しかありません。平均労働時間はドイツやオランダの約1.2倍です。日本は先進国のなかで驚くほど生産性が低く、その結果、長時間労働が常態化しているのです。
低い生産性の原因は、日本企業の特徴であるメンバーシップ制にあります。職務よりも職能重視で企業のメンバーを決めている──つまり、この仕事をする人を採用するのではなく、仲間にしてもいい人を採用するというのが多くの日本企業のスタイルです。正社員は職務内容・勤務地・労働時間に対する「無限定性」を受容することと引き換えに、高い賃金と長期雇用を手に入れることになります。無限定性を前提とする限り、長時間労働からは逃れられません。自分の仕事が終わったらさっさと帰ることができないことは、メンバーシップ制の課題なのです。
これまでは人がたくさんいたため、無限定性を許容してくれる人だけを採用することもできました。しかし、いろいろな制約を持つ人材、プライベートを大事にしたい若い人達が増えてきました。無限定性を前提としない多様な働き方を認める職場を、実現していかなければならないのが今の時代です。
もちろん、会社としては業績を上げなくてはなりません。大事なのは多様な働き方を支える「働き方支援」と、成果を出させるための「成果主義」の両立です。この二つが両立している企業が理想的な企業で、それがまさにユニリーバさんではないかというのが私の考えです。
では、次はユニリーバさんがどのような働き方の多様性を認める職場を作っているのかという点について、同社の柳原様からご説明をいただきたいと思います。
柳原美穂氏
ユニリーバ・ジャパンの取り組み〜新制度WAAの導入で「いつでも」「どこでも」を実現〜
では弊社の取り組みについて御紹介をしていきたいと思います。弊社は企業行動原則のなかで「職場環境の多様性を推進します」と謳っています。そして「業務遂行に必要な能力と資格によってのみ社員を採用し、雇用し、昇進させます」と約束をしています。前提として、これを地道にずっと継続して実践していることが上げられます。
ユニリーバは全世界190か国で運営しており、本当に多様な人材がいます。その一人ひとりがポテンャルを発揮し、チームとしての活力を上げていくためにはダイバーシティの許容が不可欠です。したがって、我々のダイバーシティは経営戦略の一つであって、決して「女性に優しい会社」になるということではありません。
昨年度のグローバルの数字では課長職以上の女性比率は45パーセントです。目標は5割にすることです。課長では5割を越えているのですが、部長、CEOといったレベルでは45パーセントには達していません。シニアマネージメントも含めて女性比率を上げていこうというのがユニリーバ全体の考え方です。
能力で採用すれば結果として男女5割ずつの採用となり、同じように教育、昇進の機会を与えれば、管理職の男女の比率は変わらないはずです。しかし、実際には途中で差がついていきます。その原因を理解して対処していかないとこの差は埋まりません。
やはり女性の場合、出産・育児というライフイベントがありますので、そこをサポートする仕組を入れていくことが必須になって参ります。
これは女性だけの問題ではありません。多様な人材を活かすためには働き方のフレキシビリティを上げることが重要です。選択肢を広げるということです。そうすることで仕事の効率・生産性が違ってきますし、選択肢があることでモチベーションが上がり、結果として会社へのエンゲージメントも上がっていくということになると思います。
そのような考え方のもと、ユニリーバジャパンでもいろいろな取り組みをして参りました。弊社ではアファーマティブ・アクションは採っておりません。能力によってのみ採用・登用していくことが前提です。制度としては、育休は2歳まで取れるようにしていますし、配偶者の転勤に伴う休職制度も導入しています。また、育児・介護休業後は前と同じ職務に就くということも明記しています。
2005年にはフレックスタイム制度を導入しました。ワーキングマザーだけでなく、小さいお子さんがいらっしゃるお父さん、介護中の方、制約のない社員にとってもフレックスがあるということはよいことだと思います。
在宅勤務も2011年に導入しました。トライアルも行い、在宅勤務により効率が落ちたかを質問をしたところ、在宅勤務者の同僚、上司も含む約95パーセントの人が生産効率は変わらない、ないしは上がったと回答しました。さらにモチベーションが上がった、会社に対するロイヤリティが上がったといった回答も得て、導入しました。
今年7月にはWAA(Working from Anywhere & Anytime)という制度を導入しました。これはフレックスのコアタイムを撤廃し、なおかつ自宅に限らず、どこで働いてもよい、という制度です。
同時に毎月の残業時間の上限を45時間にするガイドラインも導入しました。
これらの取り組みによって、2016年8月現在、ユニリーバジャパンの女性管理職比率は全体の男女比と同じ33パーセントになっています。その内訳は、課長レベルでは36パーセント、部長レベルでは14パーセントです。
ではWAAについてもう少し詳しく説明いたします。これは社員が柔軟性をもって仕事をするための選択肢であって、必ず利用しなくてはならないというものではありません。また、オフィス外勤務や深夜早朝勤務を強制するものでもありません。これを成功させるためには、上司・チームとのコミュニケーションと信頼関係が重要なポイントになります。
同時に残業上限45時間も導入しましたが、これは、各自で労働時間を見直してもらうのが目的です。もちろん、残業は個人だけの責任ではありません。もし、チームによって残業時間に大きな差がある場合は、人員を追加するなどの経営判断をすることになります。
さて、WAAをなぜ導入したかですが、残業代を少なくするためでも、オフィスコストを下げるためでもありません。ひとえに「一人ひとりの社員がよりいきいきと働き、健康でそれぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る」ために導入しました。働くだけが人生ではありません。就業は人生の一部です。そのなかで人生を楽しんでもらいたいというのが制度の目的です。それが会社の成長にもつながります。
よく他の企業さんから在宅勤務で部下がいなくて大丈夫ですかという質問をいただきます。弊社では各ポジションと役割が明確にされています。そのポジションで何をしなければいけないのか、どういう結果を出さなければならないのかがジョブディスクリプションでクリアになっているわけです。その上で、毎年目標設定をして、評価をWhat(成果)とHow(リーダーシップ)で行います。このパフォーマンスマネジメントはグローバルで統一されたシステム、プロセスです。
また、単年だけではなく中長期での評価もしています。部門だけではなくHRが最低年2回タレントディスカッションも実施しています。そのほかにランプライター(Lamp Lighter)といって従業員が健康で活力のある生活を持続するためのグローバルプログラムも実施しています。キャリアは会社ではなく自分で作るものという文化もあります。
これらにより、WAAの導入による混乱はまったくありませんでした。
以上がユニリーバジャパンの取り組です。