【HRサミット2016】日本最大級の人事フォーラム 5月11日・12日・13日開催!

こちらのコンテンツの続きをご覧頂くには、HRプロサイトへのログインが必要です。

ログイン

ID/PWを忘れたら

会員登録がまだの方は、新規会員登録(無料)にお進みください。

HRテクノロジーの最新動向とLeBACの活動

〜HRテクノロジーで経営をどう変革していくべきか〜

慶應義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆氏

グローバル社会でホットな話題となっているのが「HRテクノロジー」です。そこで、産学連携によってHRテクノロジーを日本にも普及させるべく、慶應義塾大学大学院 経営管理研究科の岩本隆教授らが中心となって、2015年4月に「HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)」が設立されました。また、Pro Future株式会社でも、「第1回HRテクノロジー大賞」を選定しています。現在、人事の領域において注目を集めているHRテクノロジーの最新動向と、2015年4月以降のLeBACの活動内容について、岩本教授に講演をしていただきました。

HRテクノロジーの歴史と背景

人事におけるHRテクノロジーというのは、給与計算なども含めると20年ほど前からあります。「HR TECH」という商標は、1998年にHuman Resource Technologies社が取得。「HR TECHNOLOGY」は、LRP Publications社が、2000年に商標登録しています。HRテクノロジーは古い言葉ですが、流行し始めたのはこの数年です。その背景には、コンピューティングが進化したことと、クラウドテクノロジーの進化で、この数年で一気に注目度が高まりました。

LRP Publications社が毎年開催している「HR Technology Conference & Expo」は今年が19回目になりますが、ここ数年はかなり大きなイベントになっています。ただし、日本からは5人ほどしか参加していません。しかし、欧米や中国では大手の企業が参加しています。また、スタートアップへの投資額も急増。直近は、アメリカだけではなく、欧州やアジアでもHRテクノロジーが盛り上がりを見せています。日本でもこのようなイベントを開催したらどうかといろいろな団体に提案していましたところ、Pro Futureが今回、「HRテクノロジーサミット2016」を開催。日本では初の大掛かりなHRテクノロジーのカンファレンスになりました。

海外では、HRテクノロジースタートアップへの投資額も増えています。昨年、約2,500億円が投資されました。人事の領域は採用、育成、離職率、ストレスマネジメント、組織診断など、とても広いのですが、400社近いスタートアップが出てきても、まだまだ裾野は広くて深くなっています。日本でも昨年あたりから、スタートアップが生まれてきました。HRテクノロジースタートアップへの投資額ですが、トップ企業は約600億円を集めています。大企業でも600億円の投資となると、相当に大きなビジネスになるはずです。

日本国内に目を向けますと、2014年あたりから各社がHRテクノロジーに動き始めています。HRテクノロジーに関連した企業の研究所・ファンドの例を見ますと、2014年4月にリクルートホールディングスが「RGIP」というファンドを立ち上げて、現在はIndeedなどを含めて海外のHRテクノロジーの会社にM&Aをしています。その後、grooves社が「HRTech研究所」を設立しました。これは、ホームページを見ると、日本初の人事領域における人工知能研究所となっています。そして、リクルートホールディングスが「Recruit Institute of Technology」を設立。現在、こちらの本部はシリコンバレーに移っています。また、ビズリーチが昨年11月に「ビズリーチHR研究所」を作り、今年1月にはテンプホールディングスが「Temp Innovation Fund」を設立しました。国内企業は、2014年〜2015年頃から気づき始めた企業が一気に動き出しています。

「HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)」の活動

私たちは2015年4月に「HRテクノロジーコンソーシアム(LeBAC)」を立ち上げました。その主な活動は「HRテクノロジーカンファレンス」、「ワーキンググループ(WG)」、「交流会(HR Lounge Tokyo)」、「他団体との連携」です。このうち、「HRテクノロジーカンファレンス」は200人規模のカンファレンス、「ワーキンググループ」は会員企業が興味のあるテーマでワーキンググループを立ち上げてセミナーをしたり、勉強会をしています。現在、活動中のワーキンググループには、「人事AI・ビッグデータ分析」、「HRダッシュボード」、「統計女子」、「サービス業人材」、「生産性可視化」、「HRテクノロジースタートアップ」、「関西」、「テキストマイニング活用」、「教育AI・ビッグデータ分析」などがあります。「交流会」は単なる飲み会ですが、人事の方が集まって「HR Lounge Tokyo」というものを14回開催しました。

「他団体との連携」の例としては、ProFutureとは初期の頃から連携しています。先日、ProFutureがインターネットメディアの「HRテクノロジーPro」を立ち上げましたが、その特別後援もしています。そして、今回の「HRテクノロジーサミット2016」の協賛、「第1回HRテクノロジー大賞」の後援、その他、各イベントでの協力、記事化などもお手伝いさせていただいているところです。ProFuture以外にも、日本データマネジメント・コンソーシアムの特別会員、日経BPの「Human Capital」の協賛、日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)の協賛、共同セミナーとしてグローバル人事塾、慶應SFC未来イノベーション&アントレプレナーシップ研究コンソーシアム(FINE)を開催しています。

「第1回 HRテクノロジー大賞」を後援

私たちが後援した「第1回HRテクノロジー大賞」ですが、実はHRテクノロジーは日本の現場でまだ取り入れられていないと思っていました。しかし、募集を始めたところ、50社近い企業から応募があり、かなりビジネスとして活用している事例があったのです。その中から20社を選んでいます。今後はHRテクノロジー大賞記念セミナーなどが開催されるかもしれません。そのようなセミナーにも参加していただいて、各社がどのような取り組みをしているのかを聞いていただければと思います。

大賞を受賞した日本オラクルは、『Oracle HCM Cloud』をグローバルに展開。自社の社員に対し、製品をリリースする前にトライアルを実施し、検証されたものを他社に開示しています。今回は自社のHCMシステムを使っての成功例が評価されました。これは、社員をインターコネクトして、採用や人材育成に活かしています。採用でもエージェントの数をかなり減らして、自社のダイレクトリクルーティングとして社員のルートで優秀な人材を獲得。人材育成についても、社員をインターコネクトすることで、情報共有が成されています。これにより、コストも下がりますし、付加価値も上がるということを実行しているのです。インターコネクトは「言うは易く行うは難し」で、各社とも組織の壁があるので、他部門に情報提供をしても評価されないと行動を起こしません。そういう意味では、経営のトップが意志決定をして、インターコネクトすることの重要性を全社員に浸透させる必要があります。

イノベーション賞の日立製作所は、社内のハイパフォーマーをデータ分析して、その要素を整理。それを採用に活用しています。具体的には、将来のハイパフォーマーの評価項目に対して、評価をつけている事例です。どこの企業も、企業カルチャーがあるので、同じようなタイプの人を採用してしまいます。そこで、基準を作ることで、面接官にも評価シートを書かせています。これは、面接官の評価にもなるのです。

テンプホールディングスはアナリティクス賞を受賞しました。こちらは、退職者の予測モデルの構築です。テンプホールディングスはインテリジェンスと経営統合の最中ですので、よりデータを使うことに注力しています。

業務変革部門優秀賞のディー・エヌ・エーは、従業員パフォーマンス最大化が評価されました。『ビジネスインテリジェンス』というツールを使って、ディー・エヌ・エー流の人材データベースを作っています。

日本ヒューレット・パッカードは、昔から社員の自律性を重要視していまして、それを後押しするワークスタイルとキャリア選択へのチャレンジが、統合マネジメント部門優秀賞の受賞理由となりました。同社は、技術を使って情報共有に取り組んでいます。

労務・福利厚生部門優秀賞のNECソリューションイノベータは、メンタルヘルス不調者予防や職場改善への取り組みが評価されました。

ラーニング部門優秀賞はセプテーニ・ホールディングスです。同社は十数年前からデータで人材育成エンジンを作っています。長年のデータが蓄積されているので、毎年、データを積み重ねることで精度が上がってきたとのことです。

サイバーエージェントは人事カテゴリー優秀賞でした。適材適所のためのデータベースということで『GEPPO(月報)』を作っています。

HRテクノロジーサービス提供企業

「第1回HRテクノロジー大賞」を受賞したサービス提供企業ですが、ワークスアプリケーションズは、世界初の人工知能型ERPが評価されました。以前、タレントマネジメントと言われていた「HCM」というツールと、「ERP」が融合し始めていますが、ワークスアプリケーションズは「ERP」から人事の領域に入ってきました。

アナリティクスサービス部門優秀賞のカシオヒューマンシステムズは、慶應義塾大学ビジネス・スクール(KBS)との共同研究により、ハイパフォーマーを5つのパラメータで分析。それに経験データをテキストマイニングで分析して、ハイパフォーマーはどのように育成すべきかを統計分析して構築しています。現在、ハイパフォーマーの分析をしている企業は多いですが、経営の意志が重要です。というのも、若くて優秀な人材を昇進させていくので、年功序列を壊してしまいます。カシオはオーナー企業なので、トップダウンでそのような方針を示しますが、年功序列が残っている企業では分析をしたがりません。ですから、同社では経営の意志があって分析を始めているということです。いざ、分析をしてみると、今まで常識だと思っていたことが実は違っていたり、今まで気づかなかったことに気づくこともあります。

業務変革サービス部門優秀賞のSAPジャパンと統合マネジメントサービス部門優秀賞のワークデイは、HCMのトップ企業です。

デロイト トーマツ コンサルティングは、労務・福利厚生サービス部門優秀賞を受賞しました。ソーシャル(S)、モバイル(M)、アナリティクス(A)、クラウド(C)の『SMAC』技術を活用して従業員の経験価値(EX)向上を図っています。

ラーニングサービス部門優秀賞のサムトータル・システムズはe-ラーニングのタレントマネジメントソリューションが評価されました。

Institution for a Global Societyは、採用サービス部門優秀賞です。同社はスタートアップの企業で、新卒採用向け科学的人材採用・教育サービス『GROW』 を活用しています。こちらは日本語、英語、ベトナム語に対応していて、かなりグローバルに人材データベースを持っている企業です。同社では、採用の際には学生の言うことは信用しないで、人工知能と360度コンピテンシーを分析して評価するとのことでした。

奨励賞のi-plugは、新卒採用のダイレクトリクルーティングで何千社も利用しています。同じくドコモgaccoは、e-ラーニングのプラットホームを提供。またグーグルはYou Tubeを持っているので、『google for Recruiting』というYou Tubeを使った採用を提唱しています。動画で会社の強みを訴求。どのような人がアクセスしているのかをグーグルは分析できるので、それをベースに効率よく優秀な人材を採用しています。

注目スタートアップ賞はSUSQUEとミライセルフです。この2社は昨年設立したばかりですが、かなりの実績を上げています。SUSQUEは『サブロク』というシステムを提供している企業、ミライセルフは15分でAIが企業と応募者の価値観を可視化するサービス『mitsucari』を提供しています。

HRデータ分析と人材活用データのニーズ

HRデータ分析に関する直近のアンケート結果ですが、面白いのはどのアンケートを見ても、人事のデータ分析をしている企業としていない企業では、明らかに差があることです。業績が業界平均より良い企業の方が、HRデータの分析をしています。続いて、日本企業における人材データ活用のニーズを見ますと、「従業員のモチベーション要因分析」がトップです。現在、海外では「エンゲージメント(engagement)」という言葉が流行っています。「ピープル・エンゲージメント」とも言いますが、「エンゲージメント」は婚約という意味ですので、企業と従業員が婚約するというイメージの言葉です。日本はエンゲージメントが高いイメージがありますが、実はそうではありません。企業は従業員が活躍する環境を整えると約束します。一方で、従業員は企業に成果を出すことを約束するというのが、エンゲージメントです。お互いの付加価値を提供し合うことと考えていいでしょう。次に、ニーズがあったのは、「ハイパフォーマー要因分析」ですが、これは現在、取り組んでいる企業が多いようです。私のところに来る相談も、これが多くなっています。ハイパフォーマーの要因を分析できれば、採用にも育成にも従業員の最適配置にも活かせます。それがあれば、「採用候補者のパフォーマンス予測分析」もできるのです。その他、「最適人員数の予測分析」、「社員の退職リスク分析」、「社員の不正行為リスク分析」などがニーズとしてあるようです。

既存の人事ビジネスを脅かすHRテクノロジー

日本企業における人材データ活用を取り巻く社内環境ですが、組織を作っている企業もあれば、人事部門にデータアナリストを置き始めた企業もあります。データアナリストがいる企業は、先進企業の41%です。また、予算が組まれている企業は、先進企業の50%となりました。やはり、業績がいい企業と悪い企業で差が出ています。

HRテクノロジーは、別の業界にいた方々が参入してきていまして、既存の人事サービスをしている企業からすると、ビジネスを脅かされる状況です。今までの業界構造が変わるにしろ、オポチュニティがあると言えるかもしれません。特に日本企業は、まだまだ「経営者の勘と経験」や「過去に積み上げた企業文化」で経営判断をしている企業が多いので、テクノロジー活用の可能性は広くて深いと感じています。テクノロジー活用が進むと、人は、「テクノロジーでできない(=人にしかできない)」付加価値の高い仕事に特化でき、さらに高い付加価値を生むことができるのです。加えて、データの蓄積が差を生み出すため、早く取り組んだ企業と取り組んでいない企業との差が開き続けています。昔の製造業ですと、日本が作ったものをアジアの国がマネをして追いつかれることがありましたが、データはブラックボックスにできる部分が多いので、データの蓄積が差を生むビジネスです。そのため、早く取り組むべきだと考えています。

経営の変革に向けて行うべきこと

最後に、HRテクノロジーによる経営の変革に向けて行うべきことを4つほど挙げました。
まず、HRテクノロジーはとても速いスピードで変化・進化しているので、「HRテクノロジーの進化を常にウォッチする」ことが重要です。それには、HR部門とテクノロジー部門とが連携することやHRアナリティクス部門を立ち上げることなどをお勧めします。

2つ目に人事は領域が広いので、「経営の方向性に対して、何からどう手をつけていくべきか整理する」ことです。そのためには、経営をどう変革していくか、そのためのアクションの優先順位づけをした方がいいでしょう。

3つ目として、「データを整備する」ことです。私たちがデータ分析をすると、足りないケースが多々あるので、どのデータを、どういう目的で整備するかを見極める必要があります。そして最後に、「小さくても早めに成果を出していく」ことです。企業での取り組みは、成功事例の積み重ねにより、中長期的に継続することになるからです。

岩本 隆氏

慶應義塾大学大学院
経営管理研究科 特任教授
岩本 隆氏

東京大学工学部金属工学科卒。カリフォルニア大学ロサンゼルス校工学・応用科学研究科材料額・材料工学専攻Ph.D.。日本モトローラ(株)、日本ルーセント・テクノロジー(株)、ノキア・ジャパン(株)、(株)ドリームインキュベータ(DI)を経て、2012年から現職。外資系グローバル企業での最先端技術の研究開発や研究開発組織のマネジメント経験を活かし、DIでは技術・戦略を融合した経営コンサルティング、技術・戦略・政策の融合による産業プロデュースなど、戦略コンサルティングの新領域を開拓。現在は産業プロデュース論を専門領域として、新産業創出に関わる研究を行っている。