「苗字を変えたくないなら結婚なんかするな!」
 「新姓で仕事をするのが当然でしょ?」
 「旧姓のままだと別人になるので駄目です。」
 「事務が複雑になるので諦めてほしい。」
 「夫の苗字がそんなに嫌なの?」
 ……etc.

 これらは、結婚した女性が職場で旧姓を通称として使用したいと申し出たときに、実際に上司から返ってきた言葉の数々である。(TV番組やネット上の書込等より)
職場での通称使用と労務管理上のポイント

職場における通称使用のポイント4点

社会全体では職場の旧姓使用(以下通称使用で統一)は広がってきていると聞くが、依然として通称使用をNGとする職場が多いのも確かなようだ。

 そんな中、2015年12月16日、最高裁が夫婦別姓制度について初の憲法判断を示した。夫婦別姓を認めない現行の制度は合憲であると示した訳であるが、ここではその理由の一つとして「通称使用が広まることで改姓による不利益は一定程度緩和される」と示したことに注目したい。つまり、通称使用の広まりが前提なのである。だとすると、冒頭のような企業側の通称使用拒否の対応は今後非難の的となり、労務管理トラブルの種になっていくかもしれない。そこで、今後企業として職場における通称使用について、あるべき姿を考えてみた。

① 原則として通称使用を認める姿勢を

特に女性は結婚、離婚を機に姓が変わるケースが多い。しかし、職場において実績を積み重ねてきたその人の姓はそれ自体一つのブランドである。本人はそのブランドに誇りを持っているし、顧客や周囲の人たちにとっても信頼の証であると言えよう。これを変更することは企業にとってデメリットの方が大きくはないだろうか。人手不足を背景に女性の活躍をより推進していこうとしている今の時代、通称使用を認めることは時流に乗った、理に適った対応であると言えるだろう。

② 通称使用について職場のルール作りを

法律上、職場においての通称使用を制限する法律はない。そして前述①のような理由もある。しかし、だからと言って個人が自由に通称使用をし始めれば企業の管理体制が混乱するのは明らかである。そこで、社内の通称使用のルールを明確にするべきだろう。
具体的には、
「通称使用が認められるケース」…例)結婚等による旧姓使用に限る、等
「通称使用が可能な範囲」   …例)社内の呼称、名刺の記載に限る、等
「具体的な手続き方法」    …例)改姓の事実発生後1か月以内に手続きをする、等
少なくともこれら3点は押さえておきたい。就業規則等に定めて、労使間の約束事にしておくとなお良いだろう。

③ 上司が理解を示して職場全体の雰囲気づくりを

さて、通称使用を認めて、その社内ルールも明確にした!さあもう大丈夫だ!!と思ったら早計である。長年の伝統や慣習というものはそう簡単に変えられるものではない。
例えば、結婚で姓が変わった場合、どんなに本人が旧姓の通称使用を希望していたとしても、周囲の人は往往にして勝手に新姓の方で呼び始めるものである。大抵の場合そこにはお祝いの意味も込められており、それを覆すのは気が引けてしまい結局不承不承新姓に変更することになった、なんてこともありそうな事例だ。
こうした事態を防ぐには、職場の上司の理解が欠かせない。リーダーが通称使用の最大の理解者となり、本人をフォローし、職場全体にその意識を広げていくことが大切である。


 私自身、社労士として社会保険事務等でお客様の名前のフリガナを「○○さんですね?」と伺って「違います!○○○です!(怒)」と、何故そこまで怒るのかという位不機嫌に返事をされた経験がある(どう見てもそうは読めない読み方だったのだが)。また、現在行われているマイナンバー通知でも、フリガナが違うことに対して各自治体に苦情が多く寄せられているらしい。

このように人それぞれ深い思い入れや誇りを持っているのが人の名前である。名前はその人そのものであると言っても良い。その名前を大切にしない企業は人を大切にしない企業だと思われてしまうかもしれない。たかが名前と軽んずべからず。細やかな配慮と対応を心掛けたいものである。



出岡社会保険労務士事務所
社会保険労務士 出岡 健太郎

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