「雇用調整助成金の特例措置」とはどういうものか
まず、「雇用調整助成金の特例措置」がどのような制度なのかをおさらいしておきましょう。最も大きな特徴は「助成率」です。中小企業の場合、解雇を行っていなければ助成率は10分の10で、行っていると5分の4に。大企業の場合では、解雇をしてなければ3分の2で、している場合は約4分の3となります。また、中小企業、大企業ともに助成額の日額上限は15,000円です。ただし、緊急事態宣言下において、知事からの要請による営業時間短縮等を実施し、売上などの生産指標が30%以上減少した全国の大企業については、助成率が引き上げられることになりました。では、「緊急事態宣言等対応特例」について詳しく見ていくことにしましょう。
【緊急事態宣言等対応特例】その1:全国の大企業が対象の特例
「令和3年1月からさかのぼって3ヵ月間の生産指標が、前年または前々年のそれと比較して30%以上減少している全国の大企業」が対象になる特例です。この要件に該当していて、令和3年1月8日(2回目の緊急事態宣言の開始日)から4月末までの期間に休業や短時間休業を行っている場合は「雇用調整助成金」の助成率が引き上げられ、解雇を行わなかった場合は10分の10、解雇を行ったときは5分の4となります。また、上記の要件を満たすと「雇用維持要件」も緩和されることになりました。「雇用維持要件」とは、「一定の期間内にどれだけ解雇をせずに雇用を維持したか」というものです。これまでは「令和2年1月24日から判定基礎期間の末日まで」という非常に広い期間が対象でしたが、この特例では「令和3年1月8日から判定基礎期間の末日まで」と、範囲がかなり限定されます。「判定基礎期間」は、休業を判定する1ヵ月単位の期間のことをいい、原則として「給与等の締め日の翌日から次の締め日までの1ヵ月間」を指します。つまり、「令和3年1月8日から、休業した日が含まれる給与締め日まで」の期間で、どれだけ解雇をしたかを見るわけです。
さらに、雇用維持要件のもう一つの要素である「労働者数の維持」について、「特例事業主に雇用されている労働者および派遣労働者として役務の提供を行っている者の数が、事業所労働者数の平均の5分4以上であること」という要件も適用外になります。
最後に、この「緊急事態宣言等対応特例」の全国版に該当していると、支給申請の期限についても緩和されます。原則では、判定基礎期間末日の翌日から起算して2ヵ月以内に支給申請をする必要がありますが、特例では判定基礎期間の末日(休業をした日が入っている給与等の締め日)が3月31日以前であっても、5月31日まで申請が可能です。
【緊急事態宣言等対応特例】その2:首都圏の大企業が対象の特例
こちらは、「緊急事態宣言が出された首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)に所在地がある大企業事業主」が対象の特例です。助成率や雇用維持要件、支給申請期限については、先程の全国大企業の場合と変わりません。ただし、この特例に該当するための条件は、「生産指標の低下」ではなく、「緊急事態宣言下の首都圏(上記の4都県)にある特定の施設において、営業時間短縮要請などに協力した大企業」となります。この「特定の施設」というのは、飲食店や喫茶店、劇場、映画館などを指し、上記の要件を満たしていて、かつ「令和3年1月8日から4月30日まで」の期間を含む、判定基礎期間中の休業や短時間休業が対象となります。この特例が適用されるのは、あくまで「上記の都道府県に所在地を置く施設」です。大企業が対象となるため、全国展開している場合も多いと思いますが、施設の所在地が対象外であれば、特例は適用されません。
【緊急事態宣言等対応特例】その3:首都圏「以外」の緊急事態宣言対象地域にある大企業が対象の特例
首都圏以外で緊急事対宣言が出された、栃木県、岐阜県、愛知県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県の大企業が対象の特例です。助成率や雇用維持要件、支給申請期限といった特例の条件、内容は先述の首都圏大企業とほぼ同様ですが、首都圏よりも先に緊急事態宣言解除されているので、判定基礎期間が「令和3年1月14日から3月31日までの休業が対象」となり、首都圏とは異なります。※本内容は、2021年3月時点の情報です。
山口善広
ひろたの杜 労務オフィス
社会保険労務士