株式会社東京商工リサーチは2023年12月20日、「賃上げに関するアンケート調査」の結果を発表した。調査期間は2023年12月1日~11日で、企業4,581社(大企業453社・中小企業4,128社)から回答を得ている。本調査から、2024年の賃上げ動向や、賃上げ原資の確保に必要なことが明らかとなった。
【2024年賃上げ動向】「賃上げ促進税制」拡充も“2023年超え”予想は1割にとどまる…中小企業はすでにコストダウンの限界か

2024年の賃上げ、2023年と「同程度」が過半数。「超えそう」は1割にとどまる

政府は「賃上げ」を2024年の最優先課題に位置づけ、2023年を上回る賃上げを求めている。その一方で、物価高騰などで収益が圧迫され、更なる賃上げには二の足を踏む企業もあると考えられるが、2024年の賃上げはどのような見通しとなるのだろうか。

はじめに東京商工リサーチは、賃上げを「定期昇給」、「ベースアップ」、「賞与の増額」、「初任給の増額」、「再雇用者の賃金増額」と定義し、2023年の実績と比較した「2024年の賃上げの見通し」を尋ねた。すると、2024年の賃上げを「実施予定」の企業は82.9%と、8割を超えた。内訳をみると、「2023年と同じ程度になりそう」が51.6%で最も多く、次いで「2023年を下回りそう」が19.7%、「2023年を超えそう」は11.6%と全体の約1割にとどまった。また、「賃上げできそうにない」は17.1%だった。

資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業などを含む)を中小企業と定義したうえで規模別にみると、「2023年を超えそう」は大企業が14.1%に対し、中小企業は11.3%で、大企業が中小企業を2.8ポイント上回った。また、「賃上げできそうにない」は大企業が9.3%、中小企業が17.9%で、中小企業の方が大企業より8.7ポイント高くなった。この結果から、業績不振から抜け出せず、賃上げへの取り組みが難しい中小企業も多いと推測できる。
2024年の賃上げ動向

産業別の賃上げ幅が「2023年を超えそう」との回答は不動産業がトップで2割に迫る

続いて、同社は「産業別の賃上げ幅」を調べた。すると、全体(10産業)では「2023年と同水準」との回答が最も多かった。産業別にみると、最も高い数値を示したのは「建設業」(56.4%)で、「金融・保険業」(48.5%)、「不動産業」(46.3%)、「情報通信業」(42.2%)を除く7産業で半数を超えた。

「2023年を超えそう」と回答した企業は、「不動産業」が17.6%で最多だった。次いで、「情報通信業」(15.6%)、「サービス業他」(13.1%)、「卸売業」(12.1%)と続いた。また、「2023年を下回る」または「賃上げできそうにない」と回答した企業は、「金融・保険業」が42.4%で最も多かった。以下、「情報通信業」(42.2%)、「農・林・漁・鉱業」(39.1%)と続いた。
産業別の賃上げ幅

「2023年を超えそう」の構成比、業種別では倉庫業が1位に

次に同社が、「2023年を超えそう」との回答の構成比を業種別でみたところ、最多は「倉庫業」(26.7%)だった。以下、「政治・経済・文化団体」(24%)、「不動産取引業」(21.8%)、「自動車整備業」(20.8%)、「宿泊業」(20%)と続き、それぞれ2割を超えた。これを踏まえて同社は、「倉庫業は、EC取引の拡大を追い風に需要が増加傾向にあるため、自動化やデジタル化により業務の効率化が進む企業もあるのではないか」との見解を示している。

また、「2023年を下回る」と「賃上げできそうにない」の回答を合算した構成比を業種別にみると、テレビ番組などの制作会社や新聞・出版業などにあたる「映像・音声・文字情報制作業」(66.7%)が1位となり、6割を超えた。以下、「飲食店」(55%)、「広告業」(53.6%)と続いた。同社は、「海外のコンテンツサービス会社の台頭などで、メディアや出版関連の消費者ニーズが多様化している。競合環境は厳しさを増しており、賃上げが難しい企業が多いようだ」と推察している。
「2023年を超えそう」業種別/「2023年を下回る」「賃上げできそうにない」業種別

賃上げの原資としては「既存製品・サービスの値上げ(価格転嫁など)」が最多の6割超に

最後に同社は、「賃上げ原資の確保に必要なこと」を尋ねた。すると、全体では「既存製品・サービスの値上げ(価格転嫁など)」がトップの65.2%で、規模別にみても、大企業が65.3%、中小企業が65.2%と、ともに高水準だった。次いで、全体では「従業員教育による生産性向上」が44.3%で2位となった。規模別では、大企業(51.8%)が中小企業(43.4%)を8.4ポイント上回り、大企業は中小企業よりも人材開発を重視する傾向がみられた。

そのほか、大企業は「既存製品・サービスのコストダウン(原価低減など)」が45.9%と3番目に高い数値であったが、中小企業は30.9%にとどまり、15ポイントの差が開いた。中小企業は「販売が多く見込める新規製品・サービスの投入」が33%と3番目に高く、“コスト削減”よりも“販売量の増加”を重視する傾向がみられた。同社は、「大企業はさらなるコストダウンも視野に入るが、経費削減が限界にきた中小企業への影響も検討すべきだろう」とコメントしている。

また、「賃上げを実施した際の税制優遇の拡大」は全体の14.9%で、大企業が11.2%だったのに対し中小企業が15.4%と4.2ポイント上回り、行政支援を求める声もあがったとのことだ。
賃上げ原資の確保に必要なこと
本調査結果から、2024年の賃上げにおいて「2023年超え」を見込む企業は1割程度にとどまることがわかった。また、賃上げ原資の確保としては「価格転嫁」が最も多く、会社の規模により重視することが異なる結果となった。企業にとって従業員の賃上げは、人材確保や従業員の待遇改善に取り組むために避けては通れないと言えるが、大企業に比べて経営体力に乏しいことからそのハードルは高いと言える。そのような中、政府は2024(令和6)年度の与党税制改正大綱において、賃上げ実施企業を優遇する「賃上げ促進税制」の拡充を決定した。こうした税制面での支援も利用しながら、企業は賃上げの実現を目指していきたい。



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