「電子印鑑化」のメリット
コロナ禍の影響によってテレワーク化が推進されている一方、アドビシステムズ株式会社の調査によって、「紙書類や押印の対応で、やむなく出社している方は6割」という結果が話題となった(※1)。私は、社会保険労務士として活動を始めたときから、電子印鑑による書類の電子化を前提としている。電子化の目的は、「コスト削減」と「業務の効率化」の2点に効果を見込んでのことである。それでは、それぞれについて詳細を見ていこう。
(1)コスト削減
電子印鑑で「コスト削減」というのは、「電子印鑑化=電子書類化」を指し示す範囲での経費削減を意味する。では、今までの紙による業務を進めた場合にかかっていた経費をあげてみる。
1、紙代:書類を印刷する用紙代がかかる
2、インク代:印字にインク代がかかる
3、切手代:相手先に送る、送り返してもらう返信封筒と切手代がかかる
4、印紙代:契約書であれば印紙代がかかる
5、人件費:印刷、送付等の事務手続きに人件費がかかる
6、保管料:社内のキャビネットなど、保管場所の経費がかかる
これに対して電子書類化した場合はどうだろうか。まず、最大の特徴として、1~4の経費は、ゼロにできる。そして、「5、人件費」については、業務フローが簡素化できるため時間短縮をはかることができる。
また、「6、保管料」については、クラウド上にデータを保有することができるため、オフィス内にスペース確保する必要がなくなり保管場所の賃料を下げることができる。さらに、費用面だけでなく、紙では「あの書類はどこに置いたかな?」と探し出すのに時間を要するが、電子書類であればパソコン上での検索によってすぐに見つけることが可能になる。この「書類を探す作業」には、年間1人当たり80時間もの時間を要していると、コクヨの調査結果(※2)が発表されている。80時間のすべてを無くすことは難しいだろうが、大幅な削減が見込める。
このように「電子印鑑化=電子書類化」によって、「人・物・時間」のコストを削減することができるのである。
(2)業務の効率化
業務の効率化を考えるにあたり、紙の契約書を締結する場合の工程を考えてみる。
1、製本(2部作成)する
2、社内稟議に回す
3、相手先へ郵送する
4、相手先へ届いたことを電話等で確認する
5、相手先で押印してもらう
6、相手先から押印済みの契約書が送られてくる
7、管理台帳などに記載して、キャビネットに保管する
これらに対して電子書類化した場合はどうだろうか。まず、「製本」や「郵送」などの1、3、4、6、7の工程はなくすことができる。
また、「2、社内稟議」についてもパソコンやスマホがあれば社外からもできるため時間の短縮が期待できる。今後も各社の電子書類化が進めば、さらにこれらの工程は削減していけるものが増え、業務効率化のメリットは増々大きくなっていくものと思われる。
このように企業にとってはコスト削減をはかることができ、従業員にとっても煩わしい手作業がなくなることで業務効率化ができるのだ。
【参考】
※1:
アドビシステムズ「テレワーク勤務のメリットや課題に関する調査結果」を発表
HRプロ「新型コロナウイルス感染症拡大により急増するテレワーク。8割以上の経験者が生産性向上を実感する一方、継続には課題も」を発表
※2:
PR TIMES「書類を探す時間は“1年で約80時間”」
こうすれば簡単! いま使っているハンコを、本物そっくりに電子印鑑化する
では次に、大々的に電子決済サービスを導入することは難しいが、できるところから電子印鑑を導入しようと考えている方に向けて、無料で簡単にエクセル・ワード・PDFに押印できる電子印鑑データの作り方を解説していこう。まずは、エクセル・ワードで使用できる電子印鑑の作り方。電子印鑑の作成で一番のポイントは、印影の背景(白い部分)を透明にできるかである。例えば、見積書や請求書では自社の社名に重ねて社印(角印)を押印する場合、印影の背景が透明になっていないと文字と背景が重なり、見えなくなるため、本物らしくない。だから、印影の背景を透明化することが重要なのである。
(I)印影をスキャニング
実際に使用している印鑑を紙に押印し、それをコピー機などのスキャナでスキャニングする。この時、データ形式は「JPG」にしておく。
(II)印影画像をトリミング
スキャニングした印影画像を、画像編集ソフト(ペイントなど)で余分な部分をトリミングして削除する。
無料で印影画像を透明化するサービス「印鑑透過(※3)」を開く。印鑑画像から作る「ファイルを選択」をクリックし、先ほどの画像データを選択し「開く」をクリックする。最後に、「アップロード」ボタンをクリックする。
透明化後の印影画像ファイルを保存するためのダイアログが表示されるので、任意のフォルダに印影画像を保存することで、透明化された印影画像を手にすることができた。とても簡単に、そしてあっという間に作成できてしまったのではないだろうか。試しに、エクセルファイルに電子押印してみると次のようになり、印影の背景が透明かされていることがわかる。
※3:「印鑑透過」
PDFにも電子印鑑を押印できる
PDFファイルは、編集用ソフトを使わないと直接編集ができないため、電子印鑑を押印することはできないと思われがちである。だが、PDFファイルを表示するだけの「Acrobat Reader DC(無料)」でも電子印鑑を押印することはできる。ただし、PDFファイル上にはPDFファイルでないと添付できないため、この場合は先ほど作成した印影画像では押印することができない。では、印影画像のPDF化および設定方法の一例を説明していこう。(a)印影画像をPDF化する
a-1.画像や文章データをPDFへ簡単に変換できる「I Love PDF」サイト(※4)を開く。
a-2.「JPG画像を選択」をクリックし、印影画像を選択する。
a-4.「PDFのダウンロード」をクリックし、保存場所を指定して保存すると印影PDFが作成できる。
b-1.電子印鑑を押印したいPDFファイルを開き、左上の「ツール」→「スタンプ」をクリックする。
b-2.中央上部の「カスタムスタンプ」→「作成」をクリックする。
b-3.「参照」をクリックし、作成した印影PDFを選択した後、「OK」をクリックする。
下図のように、押印された電子印鑑は背景が透明のため、文字の上に印影を重ねても、文字が隠れるようなことはない。
※4:「I Love PDF」
まとめ
細かく電子印鑑の作成方法を解説したので、「面倒だな」と思ってしまった方もいるかもしれないが、一度作成してしまえばあとは良いことずくめである。公文書に押印が求められる「代表者印」や「法人銀行印」の電子化までは難しいかもしれないが、社内文書に使用する場合の「角印」や「役職印」、「個人印」などは、電子化してもいいのではないだろうか。また、コロナ禍において無駄なハンコ出社をなくすことは、「従業員の命や健康を守る」、「社会に貢献する」といったことにもつながるだろう。コロナ禍のこの機会に、会社全体もしくは部署ごとでも、電子印鑑化することで業務効率化や健康経営推進を心がけてみてはいかかがだろうか。
※本内容は、2020年7月時点の情報です。
佐野浩之
ひと・しくみ研究所
社会保険労務士
採用・定着・教育に強い ひと・しくみ研究所
https://www.hitoshikumi.com/