「雇用調整助成金」とは
新型コロナウイルス感染症拡大防止のために緊急事態宣言が発令され、多くの企業が事業活動の縮小を余儀なくされ、売上が激減した。営業停止要請により売上がまったくなくなってしまった企業もあり、そういった企業においては、従業員に休業をさせようにも休業期間の給与を補償するのは厳しい状況である。「労働基準法」の第26条では、企業側の都合により従業員を休業させた場合「休業させた所定労働日について平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払わなければならない」としている。しかし、「営業停止要請」が出た場合は、「休業手当の支払い義務は対象外になる」と厚生労働省の見解が出ている。そのようななか、厳しい状況下においても景気が回復した時のために、解雇を避け、休業手当を支払うという選択をした企業は多い。そういった企業を救うのが「雇用調整助成金」である。
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、従業員に対して一時的に休業や教育訓練、出向をおこない、雇用の維持をはかった場合に、休業手当や賃金などの一部を助成するものだ。
雇用調整助成金を受給できるのは以下の3つの要件に当てはまる場合だ。
(2)従業員を計画的に休業させる
(3)休業させた従業員に休業手当を支払う
しかし、手続きの煩雑さから利用が進まないため、新型コロナウイルス感染症にともなう「特例措置」に累次の改正が加えられ、制度の拡充や手続きの簡素化がおこなわれてきた。
2020年6月12日付の特例措置は次の通りの内容となっており、これが最終形としてほぼ落ち着きそうである。この特例措置により、助成金の「上限額の引き上げ」と「助成率の拡充」が、4月1日に遡及して適用されるので、既に支給決定をおこなっている事業主についても、追加の助成額の支払いがある。
支給申請が済んでいる事業主でも、過去の休業手当を見直し(増額し)、従業員に対して追加で休業手当の増額分を支給する場合は、追加支給を受けることができる。ただし、手続きが必要なので、忘れずに追加支給の手続をおこっておきたい。
表:特例措置詳細
「雇用調整助成金」の実務上の注意事項
「雇用調整助成金」の実務上の注意事項は以下のとおりである。(1) 他の助成金と併給できない場合がある
例えば、母子家庭の母等を採用し、特定求職者雇用開発助成金の受給が可能な人等を休業の対象とする場合、双方の支給要件を満たした場合であっても、どちらか一方しか支給できない(一方が既に支給済であった場合、もう一方の支給は不可)。他の助成金の受給を考えている場合はどちらの助成金を受給するか選択が必要なので注意しておきたい。
(2) 受け取る助成金の額が、支払った休業手当と同額にならない場合がある
今回、助成金の「日額上限額」が8,330円から15,000円に引き上げられたが、助成額は、休業を実施した場合に支払った休業手当に相当する額(※)に「助成率」おび「休業した延べ日数」を乗じて算出するため、特に大企業については、休業手当として支払った額よりも助成額が少なくなることがある。
※休業手当に相当する額は次の(a)~(c)までのいずれかの方法で計算する
(a) 前年度の労働保険料の申告書にもとづき、休業手当として計算される額
(b) 直近の給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書にもとづき、休業手当として計算される額
(c) 小規模事業主(従業員数概ね20人以下)の場合は、実際に支払う休業手当の総額
(3)従業員数が概ね20人以下の小規模事業主は支給申請が簡単になった
申請の煩雑さのために申請を見合わせた事業主もいるかと思うが、現在、申請に必要な書類は以下の5点で、かなり簡素化された。厚生労働省のホームページより自動計算機能がついたエクセルのフォーマットがダウンロードできるので、申請をしていない場合はぜひ申請を検討してほしい。
【申請に必要な書類】
・支給申請書類(3種類:様式新特小第1号・2号・3号)
・比較した月の売上などがわかる書類(売上簿、レジの月次集計、収入簿など)
・休業させた日や時間がわかる書類(タイムカード、出勤簿、シフト表など)
・休業手当や賃金の額がわかる書類(給与明細の写しや控え、賃金台帳など)
・(役員等がいる場合)役員名簿
緊急事態宣言は解除されたものの、まだまだ厳しい状況は続きそうだ。雇用調整助成金を活用し、従業員とともにコロナ禍を乗り切ってもらえるよう、筆者も社会保険労務士として支援ができればと思っている。
※本内容は、記事執筆時である2020年6月23日時点の情報です。