雇用保険料徴収に関する改正内容
まずは、65歳以上の方の雇用保険料徴収に関する改正内容についてです。法律の改正によって、2017年1月1日から65歳以上の労働者についても、雇用保険の適用条件(1週間の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上の雇用見込みがあること)を満たせば「高年齢被保険者」として雇用保険が適用されるようになりました。ただし、当面の混乱を避けるために、保険料の徴収については2019年度(2020年3月31日)までは「65歳以上の方については徴収を免除する」というかねてからの規定がそのまま適用されていたのです。雇用保険料は被保険者と事業主が折半で負担していますから、その両方が免除されるということは被保険者から雇用保険料を徴収する必要もありませんでした。
しかし、2020年4月1日からは免除規定が廃止されるため、たとえ 65歳以上の被保険者を雇用していたとしても、企業は従業員の年齢に関係なく雇用保険料を納めなければならなくなります。それにともない、65歳以上の高年齢被保険者からも、本人負担分として雇用保険料を徴収する必要が出てきた、というわけです。
2020年4月1日以降の注意点
それでは、雇用保険料の徴収について2020年4月1日以降、どのような点に注意すれば良いのでしょうか。主な注意点は3つあります。まずひとつ目は「雇用保険料の徴収を開始するタイミングに気をつける」という点です。わかりやすく具体例をあげてみましょう。
たとえば、給与の支払いが「毎月末日締め、翌月10日払い」とされている65歳以上の高年齢被保険者の場合、雇用保険料の徴収を開始するタイミングは4月10日からではなく5月10日からとなります。これは、雇用保険料を含む労働保険料を計算するにあたって必要な賃金総額を計算する際に、「賃金が属する年度」をその支払いが確定した時点(すなわち「賃金締切日」)で判断するためです。
上記の場合、4月10日に支払われる賃金の「賃金締切日」は3月31日であり、前年度に属しますから雇用保険料の徴収をする必要はありません。
反対に「毎月10日締め、当月25日払い」のような場合は、「賃金締切日」も4月ですから、企業が4月25日に従業員に支払う賃金から雇用保険料を徴収しはじめる必要がある、ということになります。
注意点の2つ目は「労働保険料を計算する際に忘れずに算入すること」という点です。2020年度の確定した労働保険料を支払うのは2021年度になりますが、その際に今まで免除対象だった 65歳以上の高年齢被保険者分の賃金を忘れずに賃金総額へ算入しなければなりません。「雇用保険料は徴収したが納めていない」などということになると、後々大きな問題になりますから早めに対応しておくのが良いでしょう。
3つ目は「雇用保険料率を正しく確認すること」です。2019年度の雇用保険料率は、一般の事業で「1,000分の9」(農林水産・清酒製造業は「1,000分の11」、建設業は「1,000分の12」)となっています。しかし、原則として雇用保険料率は毎年度変わります。
また、雇用保険料率の決定は保険年度が始まる4月直前になることも多く、変更を知らずに前年度の料率のままで雇用保険料を徴収してしまうと、被保険者への返金や追加徴収といった余計な手間がかかってしまいます。実は、本稿執筆時(2020年1月現在)でも決まっていません。雇用保険料率が決定されると、最新の情報は厚生労働省のホームページ(※)に掲載されますので、保険年度が変わるタイミングで忘れずに確認していただくのが確実です。
今回解説した改正内容はあまり大々的に取り上げられてはいませんが、高齢者の労働環境整備のために大切なものです。しっかりと対応し、働きやすい職場づくりに役立てていただければと思います。
厚生労働省のホームページ
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000108634.html
渡邊 由佳
オフィス・ゆか 代表社会保険労務士
https://officeyuka.com