経営×人事×タレントマネジメント
Vol.2 パフォーマンスとコンピテンシーの2軸による新評価制度を導入し、評価を起点に全社員の成長をサポート
将来のキャリア機会がわかる社内のポジション情報を公開
育成については、どのように行っていらっしゃいますか。
人材育成の一番の要は、評価を行う人の目線合わせや、評価した結果を次にどうつなげるのかといったタレントマネジメントのスキルアップです。そこにしっかり手を入れようということでマネージャー研修に力を注いでいます。
ピープルマネジメントスキルを上げるということですね。
ほかにも制度としては、新規ビジネス、グローバルビジネス、時代を先取りする分野のビジネスなどについて、「ジョブポスティング」という形で社内より人材を募集しています。募集するポジションをイントラネットで社員全員に公開して、応募して受かれば異動できる制度です。また、「オープンジョブインフォメーション」は、欠員が出ているすべてのポジションについての情報を提供する制度です。社内の他部署や事業にどういう仕事があって、将来どういう機会があるのかを社員に見えやすくすること、そして人事権を持っている上司とキャリア機会について活発に議論してもらうことを目的に導入しています。
今後、システムでこういうことをやれたらといったことはお考えですか。
たとえば、個の情報だけを持っていても組織にどうあてはめるべきかというのは見えないので、サクセッションプランニング(後継者育成計画)はできませんし、ここにこういう人がいるというだけの情報があっても、ある程度フラグ立てしていないとその人の状態がわからないので、組織配置計画は立てられないんですね。ですから、本人の異動希望や評価の状況などを多角的、感覚的に“見える化”してプランニングできるようなことをやりたいと思っています。
なるほど。すると将来はシステムに一人ひとりの業務経歴や評価、受けた研修などのスキルズインベントリー(保有スキル一覧)なども全部入っていて、それを全事業の事業長が見られたりするような方向に進んでいかれるんでしょうね。なかなか一気にはできないので、まず現場のピープルマネジメントスキルをしっかり上げながら、ということでしょうか。
実践が積み重なっていく中で、これを仕組み化しないといけないというニーズが生まれてくると思います。実践が十分に積み上がっていませんから、現在、試行錯誤しています。
貴社は世界一のインターネット・サービス企業になっていくための「成功の5つのコンセプト」を掲げていらっしゃいますが、そのひとつが「仮説→実行→検証→仕組化」というものですね。いまは仮説、実行まで来ていて、それをこれから検証しながら仕組み化していくということですね。
そうですね。ちなみにほかの4つのコンセプトは「常に改善、常に前進」、「Professionalismの徹底」、「顧客満足の最大化」、「スピード!!スピード!!スピード!!」というものです。どれも我々の行動のベースです。
人事も、現場でビジネスをしている事業部門とまったく同じコンセプトでやっていらっしゃるわけですね。
評価から次のステップに進むためのコミュニケーションを
2年間、タレントマネジメントに取り組まれて、いまの課題なり、次はこうしたいといったお考えを聞かせてください。
評価を評価だけで終わらせず、次のステップに進むためのコミュニケーションを開始したいということですね。評価を起点にして、現場で上司と部下の方々のコミュニケーションが始まり、次のステップがきちんと描き出されていることがタレントマネジメントの出発点だと我々は考えていますので、そこにいま注力している状況です。
ところで、海外への展開はどう進められていますか。
海外についても考え方は同じです。海外事業が拡大する中で、人材開発に関する共通の理念や言語を持てるように、コンピテンシーや新しい評価の仕組みの導入、国をまたがる異動に必要な格付けの統一といったところは2012年から進めてきて、日本も海外も同じフレームを持っています。これらの導入と定着については、まず研修などを通じて理念の共有を行っていますが、日本でしっかりタレントマネジメントの型をつくり、それをベースに海外でも定着を進められるように準備しているところです。
海外展開をかなり強化されてきていますよね。楽天はいま、世界何カ国で事業を展開されていますか?
現在(2015年1月時点)、EC事業では14カ国・地域、その他事業を含めると28カ国・地域に展開しています。
もうそんなに増えましたか。そういうふうにグローバル化してくると、やがては海外の事業の壁を越えて日本に異動してくるといったことも増えてくるんでしょうね。
そうですね。当社が成長し、地理的な面も含めて事業の幅が広がる中で、社員の多様性が増し、企業として社員により多様な機会を提供できる環境になってきていると思います。そうした環境は当社の強みですし、働く場として魅力的であると思います。この恵まれた環境で社員を成長させていくことが、我々、タレントマネジメント課のミッションだと考えています。
私は、貴社が六本木ヒルズに本社を置かれていたころから人事を訪問させていただいていますが、当時とはだいぶ変わったなという印象です。今年、二子玉川に本社を移転されるそうですが、そのとき、会社としてまた次のステージに行かれるんだろうと思います。いま人事がタレントマネジメントに取り組まれているのは、そのための準備をされているんだなと。人事の役割やあり方もこの2年ぐらいで変わってきたんじゃないですか。
変わってきましたね。以前のフェーズでは、どちらかというと人事は基盤や仕組みをしっかりつくることが大きなミッションだったと思います。職種ベースで人を採用して、配置、管理していましたと。ただ、会社が成長するにつれて、人事が単機能化、機能分化していては対応できないような複合的な課題が増えてきていると感じます。それぞれの人事が単機能ではなく、もっと視野を拡げてバリューチェーンで物事を見られるように人材開発していかないといけないんですね。ですから、人事の中で機能をまたぐ異動や交流なども活発に行っていこうという状況になっています。
人事の中から変わっていこうとされているんですね。今日はありがとうございました。
山西 久雄
楽天株式会社 グローバル人事部 タレントマネジメント課 副課長
大手SI企業を経て2008年に楽天に入社。楽天入社後は海外事業展開を推進する部署で海外での事業立ち上げや戦略推進を担当。2012年に人事部に異動し、移行はタレントマネジメントの立ち上げから推進に従事。
楠田祐
中央大学大学院戦略経営研究科客員教授
戦略的人材マネジメント研究所 代表
東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を5年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。主な著書:「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)「内定力2015〜就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)
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