会社が社員の採用から退職までのプロセスを管理するために設けた仕組みである「人事制度」。本連載は、その中でも、「人事(賃金)に関する制度(等級制度、評価制度、賃金制度、運用)」について、基本的な知識や導入の際のポイントを解説していきます。今回は、「等級制度(前後編)」に関して、「等級数の決定」と「等級基準書」から解説を始めます。

【人事制度の作り方:2】等級制度 前編:社員数から考える等級の分け方<等級別・職務要件表付き>

「人事制度」構築の目的の明確化

現行の人事制度を丁寧に分析把握したのち、その結果を踏まえて、人事制度の構築の目的を明文化することから取り組みがスタートします。

今後、「賃金制度」や「人事考課制度」等、制度の詳細を決めるとき、いくつかの選択肢から“どれを選択すべきか”迷う場面に必ず遭遇します。このような場合には、各々の選択肢のメリットデメリットを比較し、当初の目的が最も満たされると判断される制度を選択する必要があります。この判断がブレると、一貫性のない制度になってしまいます。整合性のある制度作りのため、最初の段階で目的を明らかにしておくことが重要です。

そもそも会社と社員は利害が対立する面があり、双方が100%満足する制度作りは不可能ですが、モチベーションが高まるよう、社員の希望も尊重した目的とすることが肝要です。

<人事制度構築の目的の例>
(1)社員のキャリアアップの道筋を示し、各社員が当社での将来設計を描くことができるようにする

(2)年功的要素を極力排し、職務能力の向上度合いを基準とした評価制度を構築し、評価結果に基づくメリハリある処遇を実現する

(3)経営情報を極力オープンにして経営者意識の共有化を図り、賃金水準や賃金カーブの見直し、賞与配分の明確化等を実施することで、会社と社員が共に成長していくことを目指す

「等級制度」の考え方と設計方法

前回述べましたように、「等級制度」は社員の役職や職務内容、職務遂行能力等に応じて、等級(職階)を定める制度です。

会社は企業間の激しい競争下にあって、外部環境の変化を先取り、または少なくとも変化に適応するための経営戦略や計画を立案(明示または黙示で)します。そのプロセスで自社の強みを生かして、市場に打って出ることができる人材、即ち「会社が求める人材」が明確になります。この「会社が求める人材」の成長段階を表現したのが「等級制度」です。

その成長段階を、年功か、能力か、成果か、職務か、役割かのいずれによって測るかを決めます。今回は、「職務等級制度」を念頭に置きつつ、「人材育成型人事制度」について検討します。

小規模、中小企業では、「職位による社員区分はあるが、等級がない」、「あってもあまり社員に認識されていない」ことがほとんどではないかと思います。会社によっては、等級制度は社員を「差別する」ことになるとして、消極的な場合もあります。

子供教育のプロセスは、小学校、中学校、高校、大学と進学しますが、これを社員に当てはめると、第一段階として「新卒入社早々から一人前になるまでの一般社員」、第二段階として「管理職の補佐ができる監督職」、第三段階として「管理職」と進んでいくわけです。即ち、等級は業務上の区分で、人格的な差別ではないと、等級の概念を説明することから始めなければなりません。

(1)等級数の決定

等級数は、基本的には前述しましたように、最小でも3段階に分かれます。社員数と相関関係がありますので、社員数が多くなると等級の段階も増加させるのが一般的です。その場合は、基本の3段階の等級の中を更に細分化して等級を増加させます。

社員数から考える一般的な等級数
●社員50名規模:シンプルで柔軟性を重視した3~4等級
●社員100名規模:中堅層を意識した4~6等級
●社員200名規模:多段階で細かいキャリアアップが可能な6~8等級

等級数が多いと、社員のキャリアパスを明確にし、成長のステップを細かく設定できます。反面、評価基準や昇進プロセスが煩雑になることがあり、昇格が遅くなるリスクがあります。

反対に、等級数が少ない場合は、「シンプルな評価体系」や「昇格スピードが速い」というメリットがある一方で、「キャリアパスの不透明さ」や「評価基準の曖昧さ」などの問題が生じやすくなります。このように、従業員数及びメリットデメリットを勘案して等級数を決めます。

(2)等級基準書

各等級に何を求めるかを言葉で表現することで、社員にもその概念を共有化できます。それが「等級定義書」です。下表は、極力簡素にかつ等級のイメージが湧きやすいように表現した例です。細かく詳細に記述するよりも、全体像を把握するのには適していると考えられます。
等級定義書の例
後編では、「多様な働き方」への対応方法や、昇格・降格、等級制度構築の際に必要な職務分析について解説します。
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