客観的な評価を意味する「アセスメント」は、近年、企業経営からヘルスケアまで、様々な分野で注目を集めている。人事の分野でも人材や組織の状態を的確に把握できるものとして重要視されている。そこで本稿では、アセスメントの基本的な概念から、分野別の特徴と具体的な活用方法までを詳しく解説。また「人材アセスメント」について、そのメリットやプロセス、ツールや手法まで実務に役立つ情報を幅広く紹介していく。
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「アセスメント」の意味とは?

「アセスメント」とは、特定の人や物事を、客観的な基準や手法を用いて評価・査定することを言う。英単語の「assessment」は「評価」や「査定」を意味する。ビジネスにおけるアセスメントは、単なる評価に留まらず、課題の特定や改善策の立案を含めた一連のプロセスを指す。

近年では、AIやビッグデータの活用によって、より精緻な分析が可能となり、さまざまな分野で活用が広がっている。

●「モニタリング」との違い

監視、観察、観測などを意味するモニタリングは、特定の対象や状況を一定期間、観察することで、その変化や状態を把握するために行う。一方で「アセスメント」は現時点での状態を把握するために行う。

分野別の「アセスメント」の種類

では、「アセスメント」はどんな分野で活用されているのか。その種類と目的、手法を紹介していこう。

●人材アセスメント

「人材アセスメント」は、人材のスキルや能力、適性を評価・分析することだ。採用時の適性判断から、配置・育成計画の策定、昇進・昇格の判断まで幅広い場面で活用されている。従来では上司が部下のスキルや適性を評価することが一般的だったが、人材アセスメントでは評価者の主観や先入観が含まれないよう、職務遂行能力やリーダーシップ、コミュニケーション能力など、多角的な視点から個人の特性や潜在能力を評価していく。詳しいプロセスや手法は後述する。

なお、人事評価と混同しがちだが、目的が異なる。人事評価の主な目的は、従業員の報酬を決定することにあるが、「人材アセスメント」は、配置転換、能力開発、人材育成、昇進・昇格の判断が主目的となる。

●組織アセスメント

「組織アセスメント」は、企業や組織の状態、強みと弱みなどを評価・分析することだ。組織構造や業務プロセス、社内コミュニケーション、企業文化、従業員満足度、エンゲージメントなど、様々な側面を総合的に分析することで、組織の特徴が浮かび上がり、課題改善や経営戦略の見直し、イノベーションの創出に役立てることができる。

なお、上述の人材アセスメントと組織アセスメントは、併用することで、より企業の課題が見えやすくなる。そのため、どちらか一方でだけではなく、両方取り組むことを推奨したい。

●リスクアセスメント

「リスクアセスメント」は、事業や活動に潜在するリスクを評価・分析することだ。法令順守や情報セキュリティ、労働安全衛生など、様々な観点から業務上発生しうるリスクを割り出し、その危険度と影響度を定量的に測ることで、優先順位を付けて対策を講じることができる。

特に製造業などの現場では有害性や危険性の調査は重要である。2005年には労働安全衛生法の改正によって、有害性を持つ化学物質や危険性の高い機械などを使用する事業所では、リスクアセスメントの実施が義務付けられ、一部製造禁止や許可制による使用が定められた。

●環境アセスメント

「環境アセスメント」は、道路や鉄道、建設などの開発事業が環境に与える影響を予測し、評価することで、日本語では「環境影響評価」とも呼ばれる。企業は、大気、水質、騒音、生態系への影響といった要因を事前に調査し、環境に悪影響を及ぼさないよう対策を練ったうえで、事業計画を作る必要がある。

●ライフサイクルアセスメント

「ライフサイクルアセスメント」は、製品やサービスのライフサイクルにおける環境負荷を評価すること。ここで言うライフサイクルとは、原材料の調達から製造、使用、廃棄までの一連のプロセスのこと。各段階での環境への影響を定量的に測定することは、ESGの観点でも非常に重要となる。

●政策アセスメント

「政策アセスメント」は、行政施策の効果や影響を事前に評価すること。費用対効果や社会的影響、実現可能性などの分析を基に、施策の導入の採否や期待される効果の説明などに用いる。また限られた行政資源で効率的に政策を進めていくのにも役立つ。

●医療・看護アセスメント

医療や看護における「アセスメント」は、患者の健康状態や症状を分析することを指す。症状の観察、検査データの分析、患者との対話を通して身体的・精神的に抱える問題を発見する、看護計画を立てるうえで欠かせないフローである。

●介護・福祉アセスメント

介護や福祉における「アセスメント」は、利用者の状態、生活環境、要望を把握し、適切なケアプランを立てるために実施する。本人や家族との面談の他、日常生活レベルを図るADL評価、生活環境の調査によってアセスメントシートを作成し、現場での支援に活用する。

●保育アセスメント

保育における「アセスメント」は、子どもの発達状況や保育環境を評価すること。指導や教育の計画を立てるのに活用する。子どもの様子を観察する他、家庭での環境をヒヤリングすることによって、身体的発達、認知発達、社会性の発達などの特徴を把握し、個々に合わせた接し方を考えるのに役立つ。

●心理アセスメント

「心理アセスメント」は、心理カウンセリングの際に行われ、面接や心理テスト、行動観察によって個人の心理状態や性格特性、認知機能などを把握することだ。問題点やその原因を明らかにして、カウンセリングや治療方針を策定していく。

「人材アセスメント」の活用メリット

「人材アセスメント」は企業の成長に紐づく有効な分析手段だ。実施することで以下のようなメリットがある。

●最適な人材採用

応募者の適性や能力を面接官の主観的な判断だけに頼るのではなく、職務適性検査や性格検査などの客観的に基準に照らして評価することで、自社の求める人材像により適した採用ができる。そのため、採用後のミスマッチを防ぎ、採用コストの削減にもつながる。

●適材適所の人材配置

社員一人ひとりの能力や特性を把握することで、その強みを最大限に活かせるポジションへの配置が可能となる。部門間の人材異動や新規プロジェクトのチーム編成においても活用できることは言うまでもない。さらに、得たデータを基に従業員のスキルマップを作成することで、組織全体の人材ポートフォリオを可視化でき、中長期的な人材育成の計画が立てやすくもなる。

●公正な評価・判断

個人の主観に左右されず、客観的な基準で社員のスキルや能力を分析することで、公平性が高く、一貫性のある評価や判断ができるようになる。そのため人事考課における社員の納得感や組織への信頼につながる。

●人材育成プランの最適化

社員個々の強みと課題を把握できれば、より綿密で実効性の高い人材育成プランを立てることができる。キャリアパスの設計にしても、研修の実施にしても、個々や部門ごとの課題が明確なため、効率的に育成施策を進めていける。さらに、定期的に「アセスメント」を実施することにより、育成施策の効果も測定できる。

●従業員のモチベーション向上

客観的な評価によるフィードバックであれば、社員の納得感が高まり、自己理解が進む。公正に努力が評価される環境では、当然モチベーション向上が期待でき、職場全体の活性化も進むと言える。

「人材アセスメント」のプロセス

実際に「人材アセスメント」をどう進めていけばいいのか。順を追って説明していこう。

(1)目的を明確にする

まずは組織の課題や目標に基づき、「人材アセスメント」で達成したい具体的な目的を明確にしておく必要がある。例えば、採用のミスマッチを減らしたい、適材適所の人材配置がしたい、離職率を減らしたいなど、その目的に応じて、評価項目や手法が変わってくる。

(2)アセスメントツールを選択する

目的が決まったら、それに適した評価項目やアセスメントツールを選ぶ。複数のツールを組み合わせることで、より精度の高い評価や複雑な分析ができる。

評価項目としては、以下のようなものが挙げられる。

・個人特性
・対人関係能力
・意思決定能力
・業務遂行能力
・問題分析能力
・判断、決断力
・計画立案能力
・問題解決能力

アセスメントツールや手法の種類は次の章で後述しているので参考にしてほしい。

(3)アセスメントを実施し、結果を分析する

実際にプランに沿ってアセスメントを実施し、必要なデータを収集する。そして収集したデータを分析し、個人の特性や能力を分析していく。

(4)分析結果を活用する

分析結果に基づき、改善策や育成計画を策定していく。アセスメントを実施してデータを収集しただけでなく、情報を活用してこそ意味がある。また社員にフィードバックをすることも従業員エンゲージメントを高めるために重要だ。さらに、次回以降のために、今回のアセスメントのプロセスで生じた問題点の見直し、定期的にアセスメントを実施すると、なお良いだろう。

「人材アセスメント」に役立つツールと手法

「人材アセスメント」は、目的に応じて様々なツールや手法を使い分ける必要がある。代表的なものをここで紹介していく。

●インタビュー・面接

対面での質疑応答を通じて、コミュニケーション能力やリーダーシップ、思考プロセスなどを観察する。採用や異動の際に行われる。ただし、インタビュアーや面接官は、主観ではなく、客観的な基準で評価することが最大のポイントとなる。

●360度評価

360度評価は、上司や同僚、部下など複数の関係者から個人の能力や行動を評価する手法だ。上司のみで評価する場合よりも、評価者が多様となるため、より客観性が高まる。また、より多くの気づきや発見を得やすい。

●適性検査

Webや紙でのテスト形式で、個々の知的能力、性格特性、職務適性などを客観的に測定するやり方だ。統計的にデータを収集でき、また主観を挟まないため信頼性の高い評価が可能となる。採用選考や配置転換の判断材料として広く活用されている。

●エニアグラム(性格診断)

エニアグラムと呼ばれる性格診断は、個人の行動パターンや価値観を9つの性格タイプに分類する手法だ。個々の得手・不得手を把握できるため、採用でのミスマッチ防止や、人材配置の際に有効となる。またチーム全体で実施し、チームビルディングに役立てるのもよいだろう。

エニアグラムにおける9つの性格タイプ
タイプ1:改革する人
タイプ2:人を助ける人
タイプ3:達成する人
タイプ4:個性的な人
タイプ5:調べる人
タイプ6:忠実な人
タイプ7:熱中する人
タイプ8:挑戦する人
タイプ9:平和をもたらす人


●アセスメント研修

「アセスメント」の専門家を招いて研修やグループワークを行い、社員を客観的に評価してもらうのも手法の一つだ。社内に高い専門性や知識を有する社員がいる場合は、内部で開催するのも手だが、外部の専門家に委託するのが一般的だ。研修は実務に近い環境で行うことで、より正確な評価ができる。また、参加者同士で互いの理解を深めるのにも役立つ。

●インバスケット・ゲーム

インバスケット・ゲームは、架空の人物になりきり、模擬的な業務課題を通じて、判断力や思考能力を訓練するゲームだ。これは、問題をどう解決するのか、制限時間内に処理できるのか、など昇進・昇格の候補者選考で有効となる。

●その他のアセスメントツール

上記で紹介したものの他にも、オンラインで実施可能なテストやサーベイはさまざまある。最近ではAIを活用した分析機能がついていたり、結果の自動集計や可視化機能があったりと高性能なツールは多い。より効果が高く、効率的に評価・分析を行えるため、初めて「人材アセスメント」を実施する際に最適と言える。

「人材アセスメント」実施時のポイント

最後に「人材アセスメント」を実施するうえで注意するべきポイントを、5つ紹介しよう。

●評価基準を明確にする

何を目的に「人材アセスメント」を行うのかと併せて、何を基準に行うのかを明確にすることは欠かせない。組織の価値観や目標に基づき、明確な評価基準を設定し、また評価者間で基準の解釈にブレが生じないよう、具体的な行動指標を定義することが重要だ。また、定期的に基準を見直すことも必要となる。

●氷山モデルを理解する

氷山モデルとは、「海面上に突き出ている氷山の一角のように目に見える事柄にとらわれず、海面下の目に見えない部分にこそある本質を見抜くべき」だという考え方だ。つまり表面的な行動や発言だけでなく、その背景にある価値観や動機づけまで深く理解することが大事である。

●結果を客観的にフィードバックする

評価結果を客観的にフィードバックすることで、社員の納得感は高まり、成長につなげることができる。フィードバックに主観を交えてはいけないわけではないが、必ず客観的な情報と切り分けて伝えなければ、評価される側が間違った解釈をしてしまう可能性がある。

●別の指標と併用する

アセスメントツールによって得られた結果は、あくまで判断材料の一つであることを認識し、鵜呑みにしないようにしたい。単一の評価手法だけでなく、複数の指標と併用し、多角的に人材を観察することで、より正確な評価をすることができる。定量的評価と定性的評価を組み合わせるなど、バランスの取れた評価を心がけたい。

●継続的に繰り返す

一時的な評価に留まらず、定期的にアセスメントを実施することで、成長の過程を把握し、より効果的な課題解決のプランや人材育成の計画を立てることができる。評価項目のブラッシュアップやツール選びの見直しなど、PDCAサイクルを回しながら、評価方法自体も改善していくと良いだろう。

まとめ

「アセスメント」は、様々な分野で活用される評価・分析手法だ。特に「人材アセスメント」は、企業の持続的な成長を支える基盤として、重要性が増している。近年ではテクノロジーの進歩によって、より精緻な評価ができるため、人事担当者の方には積極的に活用を検討していきたい。ただし、客観的なデータのみにとらわれるのではなく、人間的な視点や配慮も忘れてはいけない。客観と主観の両方のバランスを取りながら、組織と個人の価値を最大化するための、一つのツールとして、アセスメントを効果的に活用していくことが大事となる。

よくある質問

●「人材アセスメント」を活用するメリットは?


企業が「人材アセスメント」を活用することで、以下のようなメリットがある。

・最適な人材採用ができる
・適材適所の人材配置ができる
・公正な評価・判断ができる
・人材育成プランの最適化ができる
・従業員のモチベーション向上が図れる
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