この組織変革を実現させるために、人事部門と新事業推進部門が連携し、様々な取り組みを進めています。そこで今回は、同社 執行役員 人材統括部長の野崎正人氏、ならびに執行役員 NV推進本部 CN事業開発担当の大津武嗣氏と、同社にアセスメントプログラムを提供する株式会社リードクリエイト 常務取締役の吉田卓氏が対談。変革に取り組む背景や目指していく姿などをお話しいただきました。(以下敬称略)
「5つの変革」に向けて人材育成と環境整備に取り組む
吉田 まず始めにNGKグループビジョンの概要と、その中で目標として掲げられている「5つの変革」について簡単にご説明いただけますか。野崎 弊社は2050年の社会を想定したバックキャスト思考に基づき、自分たちの“ありたい姿”と“なすべきこと”を示したNGKグループビジョンを策定しました。かつてはがいし事業を中心に、その後は排ガス浄化用セラミックスなど自動車の内燃機関向け製品を主力として成長してきましたが、将来的にそれらの製品ニーズが縮小していくことが予想される世界において、我々が成長を続けていくためには、第3の創業とすべく新製品の創出や事業構成転換が欠かせません。
そこで「独自のセラミック技術でカーボンニュートラルとデジタル社会に貢献する」ことを“ありたい姿”として設定。さらにその実現のために“なすべきこと”として、「ESG経営」「収益力向上」「研究開発」「商品開花」、およびそれらを支える「DX推進」という5つの領域での変革に取り組んでおります。
野崎 NGKグループビジョン、ならびに「5つの変革」を実現させるためには、それに取り組む人材の充実と、その人材が持てる力を十分発揮できる環境を整えることが不可欠です。そのため、会社としてどんな人材を求めているのか、一方で、人材が活躍できる舞台をどのように整備していくのかを、2万人を超える全従業員に伝えるべく、「人材育成方針」および「社内環境整備方針」として定めました。
「人材育成方針」に関しては、「高度な知識、技術、能力を身につけて、主体的に問題に取り組む人材」、「チームワークを発揮し、粘り強く成果につなげる人材」、「自律的に成長し、自身と会社を変革し続ける人材」という大きく3つの観点から育成に取り組み、「社内環境整備方針」に関しては、「多様性を尊重し、様々な人が活躍できる職場」、「豊かで活気あふれる職場」、「挑戦を後押しするオープンな職場」を作り上げていきたいと考えております。
吉田 人的資本経営を実践する上では経営戦略と人材戦略の連動が欠かせませんが、その中でも特に重要となるのが人材像や人材要件を言語化する営みだと思います。各事業部はもちろん、経営層や海外拠点の方々ともコンセンサスを取る必要があると思いますが、そういった方針づくりにおいて苦労された点やこだわった点などがありましたらお聞かせください。
野崎 「人材育成方針」における人材像については、従来のものをさらに細分化していきたいと考えていたのですが、例えば「新たな事業開発」に向けて日々探索している人たちと、「収益力向上」のためにラインで地道に貢献している人たちを同じ言葉で括るのは非常に難しく、粒度を揃えるのに大変苦労しました。
そして多くの人たちと議論を重ねた結果、やはり最終的には従来から大切に掲げてきた「高度な知識、技術、能力、主体性」「チームワーク」という言葉に立ち戻ったのです。高度な知識や技術を持ちチームワークを大切にしていくことはこれまでもこれからも大前提であり、そこへ新たに「自律」という言葉を加えることで現在の表現となりました。
吉田 検討や議論を繰り返した結果、原点に立ち返ったと。まさにそれが御社のDNAなのでしょうね。一方、「社内環境整備方針」づくりにおいてはどのような点にこだわりましたか?
野崎 ここではやはり「挑戦」という言葉にこだわりましたね。多様性を尊重した、活気あふれる環境がないと、挑戦なんかできない、という考え方がベースにはあります。実はこの中に「失敗を恐れずに…」という文言も入れたかったのですが、ヨーロッパの子会社の社長や人事の方から強く反対されたんですね。「挑戦に失敗はつきもの。何故それを敢えて入れるのか」と。この辺りの感覚は日本と欧米では異なり、それぞれの文化が持つ前提を合わせるのに苦労しました。
吉田 昨今多くの企業が「挑戦」という言葉を人的資本経営の文脈の中でお使いになるのですが、その解釈や定義が微妙にずれているように感じます。経営や人事は、「挑戦」=「未知・未経験な領域へ果敢に挑む」といった意味合いで発信しているにもかかわらず、肝心の現場社員は、ただ漠然と一生懸命頑張って成果を出す、これまで以上に多くの仕事量をこなすことを「挑戦」と捉えている。言葉だけが独り歩きして、その「意味合い」が共有されていないケースも多々見られるのですが、御社ではいかがでしょうか?
野崎 おっしゃる通りだと思います。弊社の場合、社長が「今までと違うことに積極的に取り組んでほしい」と常々メッセージを発信しているのですが、それこそがまさに「挑戦」なんですよね。毎日同じことを漫然と繰り返すのではなく、たまには事業所から一歩外に出て、今まで接点のなかった人と話をして帰ってきてもいい。それも一つの挑戦だと。やはり何か違う行動を起こさないと、物事や結果は変わりませんから。我々人事もそういうメッセージはもっと強く出していきたいと考えています。
「未来に向かって挑戦できる人材」を評価
吉田 今おっしゃられた大きな方針を具現化するために、あるいは様々な組織・人事課題を解決するために、2025年度から新たな人事制度をスタートさせるとのことですが、この制度の一番の狙いや意図は何でしょうか?吉田 新しい人事制度の一環として、基幹職を対象としたコンピテンシーもリニューアルを進めていらっしゃるそうですね。こちらの狙いもお聞かせください。
野崎 基幹職コンピテンシーに関しては、3つの「人材育成方針」と3つの「社内環境整備方針」それぞれに対応した形で新たに作り直しています。例えば「高度な知識や技術」を身につけてほしい、そのためには「継続的に学習するような行動」を取ってください、といったイメージです。これらのコンピテンシーに基づき、360度評価などを実施することで、自身に期待されている役割が正しく認識できたり、現状の課題を発見できたり、自身の目指すゴールが明確になると考えています。
NV推進本部を「挑戦と変革の良きロールモデル」に
吉田 ここからは事業構成転換に向けて中心的な役割を担うNV推進本部についてお伺いします。まずはNV推進本部のミッションや会社全体の中での位置づけなどをお聞かせください。大津 弊社は現在、2030年に新規事業で売上1,000億円以上を目指す取り組み「New Value 1000」を進めています。その達成に向け、マーケティング機能を軸として新たな価値創造を推進する役割を担っているのが、我々NV推進本部です。これまで新規事業開発の推進は、研究開発本部や各事業部が個別に行っていたのですが、2022年4月にNV推進本部が新設され、すべてが一カ所に集約されることとなりました。
そんな我々に与えられたミッションは、未知なるものに挑戦し、新しい事業を生み出すこと。そのためには従来のやり方や常識に縛られず、発想を転換していく必要があります。実は私自身、NV推進本部が立ち上がって半年のタイミングで他社から転職してきた身であり、ここまで外部視点の発想を持って自由に色々なことをやらせていただいてきました。そういう意味では、私自身も挑戦者であり、これからもNV推進本部が「変革の良きロールモデル」であり続けるための施策を打ち出していきたいと考えています。
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