●前編:解雇の種類は? 解雇予告は必要? 「解雇」に関する基本的なルールを学ぼう
「解雇」を行う際の注意点
解雇をする際の注意点は次のとおりです。(1)就業規則に解雇事由を明記しておく
「懲戒解雇」の場合には、制裁的な意味合いがあることから、就業規則に解雇事由を明記しておくことは必須です(「労働契約法」15条)。予測不可能なことで労働者を罰することは、労働者の不利益があまりにも大きいからです。一方、「普通解雇」についても就業規則に解雇事由を明記しておきましょう。この点、懲戒解雇とは異なり、就業規則に記載のない解雇事由であっても法的には解雇を行うことができます。ただ、後述する訴訟リスクとの関係で、解雇の有効性を争う際にマイナスとなることは間違いありません(「労働契約法」16条)。
(2)解雇事由に修飾語はつけない
就業規則に記載している解雇事由を見ると、「勤務状況が著しく不良で~」、「再三の指導に関わらず~」などの記載を見かけることがあります。「著しく」、「再三」のような、程度を表す修飾語は受け取る人によって感覚が異なります。「著しいってどういうことですか」と詰め寄らせた際に答えに窮することもあるでしょう。そのため、このような修飾語は削除しておいたほうが無難と考えます。
(3)できない手続きはルール化しない
懲戒解雇の場面で、懲罰委員会を設けている会社もあるかと思います。懲戒する際には手続きとして「会議の開催」をルールにしている会社です。たしかに手続きとしては丁寧で透明性が高いのですが、できない・やっていない場合には当該解雇自体が手続き違反で無効となる可能性もあります。労働者に弁明の機会を与えることは必要ですが、会議の開催までは求められていません。自社の実態に合わせた手続きの内容になっているか確認しておきましょう。
(4)能力不足での解雇は教育指導を踏んでから
能力不足での解雇を行う際は、“それまでに教育指導をどれだけ行ったか”が重要です。解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当でないといけないからです。多くの裁判例では、能力不足(と会社が考えている)の社員に対して、何ら教育指導もせずに一発解雇ということは、社会通念上相当とは認められない、と判断されています。教育指導のやり方ですが、本人の能力向上が目的なので、「何が足りないのか」が分かるようにするべきです。そして、それを本人に自覚してもらいます。そのために、「何が足りないのか」を会社と本人が文書に明記するなどして認識を一致させることが重要です。文書を声に出して読んでもらうと、さらに本人の自覚を促すことになるでしょう。
(5)懲戒解雇でも解雇予告は必要
「懲戒解雇の場合、解雇予告は不要で即時解雇ができる」という誤った認識をもっていませんか。解雇予告が不要となるのは、「従業員の責に帰すべき理由による解雇の場合」や「天災地変等により事業の継続が不可能となった場合」で、事前に労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けたときです(「労働基準法」19条、20条)。
従業員に責任があるからといっても懲戒解雇も「解雇」です。30日前までの解雇予告が必要となることに変わりはありません。
「解雇」を行った場合のリスク
解雇は、会社からの一方的な労働契約の終了行為です。労働者の生活への影響が大きいため、前述の解雇の注意点を踏んだとしても、「解雇は無効だ」という労働者からの訴訟に発展するリスクがゼロになるわけではありません。経営者の中には、「訴訟になってもとことん争う」と鼻息荒くおっしゃる方もいます。ただ、訴訟となれば、時間もお金もかかります。何より、訴訟をしている、という精神的なストレスは計り知れないものがあるでしょう。そして、訴訟で勝てばまだしも、負けた場合も考えておかなければなりません。
訴訟で負けた場合、解雇が無効となるため、労働者は従業員としての地位を失っていないことになります。例えば、訴訟終結まで1年かかった場合、1年分の給料を支払う必要があるのです。働いていないとはいえ、会社の都合で働かせていなかったので、それ相応の給料を支払わなければなりません。
さらに、これが最も重要ことですが、訴訟が終わったからといって、「ノーサイドでその労働者と今後も仲良く働くことができますか」ということです。おそらく無理ではないでしょうか。ということで結局は、和解金などを支払って辞めてもらうことになるでしょう。さらにお金がかかることになります。
このように、解雇はその行為自体“訴訟リスク”が高く、一旦訴訟になった場合には、金銭的、時間的、精神的な負担を会社(経営者)に強いる結果となるのです。
解雇は法的に認められている労働契約終了のための権利ではありますが、最終手段と考えたほうがよいでしょう。
●前編:解雇の種類は? 解雇予告は必要? 「解雇」に関する基本的なルールを学ぼう
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