2022年4月の「労働施策総合推進法」(別名:パワハラ防止法)改正により、すべての企業は従業員からのパワハラ相談に対応する義務があります。しかし、対応に不手際があると、被害者からは「安全配慮義務違反」(「労働契約法」第5条)や「使用者責任」(「民法」第715条)、行為者からも「不法行為」(「民法」第709条)と、企業の法的責任が問われるリスクがあります。被害者だけでなく、行為者ともトラブルになるのは企業にとって避けたい事態です。では、どのようにパワハラ相談に対応していけばいいのかお話ししましょう。
「パワハラ相談」の対応を間違えば法的責任を問われるリスクも。企業が留意すべきポイントとは

そもそも企業に課せられた「パワハラに対する措置義務」とは?

「労働施策総合推進法」では、パワハラを防止するための企業の措置として、以下のことが定められています。

●パワハラを許さないという企業方針を明確にした上で従業員に周知し教育をすること
●パワハラ相談に適切に応じることができる相談窓口を設置すること
●パワハラ相談を受けたら、迅速・適切に対応すること
●関係者のプライバシーを保護するとともに、不利益な取り扱いをしないこと

「企業方針の明確化」は、就業規則などで規定をするとともに、社内報などでも折に触れ周知をすると良いでしょう。また、周知をするだけでなく、管理者向けのパワハラ研修を定期的に行い、教育を実施することが重要です。

「相談窓口の設置」については、一般的に人事労務を担当する部署に置かれることが多いですが、弁護士や社会保険労務士などの専門家に依頼をすることも可能です。大切なことは、「パワハラ相談をしやすい環境づくり」と「適切な情報収集」です。具体的には、「いつどこで誰にどのような言動を受けたのか」、「他者に対しても同様の言動があったのか」といった、“相談者がパワハラと受け止めた言動”や、“相談者が企業に対して何を望んでいるのか”を聞き取るようにします。

相談者の希望としてあり得るのは、「行為者とされる者の謝罪」や「懲戒処分」など様々ですが、希望に応じられるかどうかの回答はその場ではせず、調査終了後に報告をする旨を説明しましょう。

次に、「パワハラ相談に対する迅速・適切な対応」が、企業を守るために極めて重要です。具体的には、事実確認を行い、パワハラの事実があった場合には行為者への措置を講ずることになるのですが、ここで不手際があると、相談者・行為者から法的責任を問われかねませんので慎重に行う必要があります。

では、どのように対応していけばいいのでしょうか。

パワハラ相談に対する「聞き取り調査」と「その後の対応」で留意すべきこととは

まず、相談窓口で相談者から聞き取った内容について、事実確認のために聞き取り調査を行います。ここで重要なのがスピードです。相談を受けてから聞き取り調査の開始までに時間がかかってしまうと、相談者の不安・不満が増長し企業への信頼が損なわれ、この段階で企業の「安全配慮義務違反」を問われる可能性があります。

また、聞き取り調査は、複数名で担当することで中立・公正な立場を確保した上で実施するようにします。聞き取り調査を行う際、万が一、行為者とされる従業員が調査に応じない場合は、業務命令であること伝えるようにし、相談をした人を特定することや、相談者に対して相談を取り下げさせることは、その行為自体が懲戒処分に該当することも合わせて告げるようにしましょう。ただ、「相談者と行為者とされる者を一緒に勤務させる」ことが不都合であると判断した場合は、調査目的ために有給での自宅待機命令を出すことも可能です。

もし、相談者・行為者とされる者からの聞き取りだけでは事実確認が不十分であると判断したときは、第三者から聞き取ることも可能ですが、プライバシー保護の観点から事前に相談者の了承を取ることが必須です。

聞き取り調査が完了したら、「一連の言動がパワハラに該当するかどうか」を判断し、相談者に報告をすることになります。相談のあった言動が、パワハラに該当しなかったと判断したとしても、再発防止策は必要になるので、行為者とされる者に対しては、必要に応じてパワハラと取られるような言動を慎むよう指導をすることは可能です。

一方、相談のあった言動がパワハラであると判断した場合は、就業規則の懲戒規定に則って行為者を処分をすることになりますが、いきなり「退職勧奨」や「解雇処分」とすることは避けた方が良い場合があります。まずは、「戒告」や「数日」の出勤停止などの軽い処分を課した上で、再教育と改善の機会を与えることも検討しましょう。

ただ、行為者のパワハラが企業の秩序を維持できないほど深刻なものであった場合は、配置転換などを行うことで当事者を引き離す措置も検討することになりますし、やむを得ず解雇を検討する場合は、自社だけで判断せず、弁護士や社会保険労務士と相談して決定するようにしましょう。
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