今やビジネスシーンでは、「コンセンサス」という言葉が完全に定着してきている。「コンセンサスを取っておくように」と依頼したり、されたりする場面もあるのではないだろうか。ところで、ここでいう「コンセンサス」とはどういった意味合いを持つのであろうか。正しい意味を理解しないまま人事施策やプロジェクトを進めていくと、後々大きな問題に発展するのは言うまでもない。そこで、今回は「コンセンサス」の定義や使い方、「コンセンサス」を得る際のコツなどを解説していきたい。
「コンセンサス」とは? 使い方や得るための4つのコツを解説

「コンセンサス」とは?

まずは、「コンセンサス」の定義や重要性などを紐解いてみたい。

●「コンセンサス」とは

「コンセンサス」とは、意見の一致や合意、総意を意味する。また、根回しや交渉というニュアンスで用いられることもある。他にも、認識や意識という意味も込められている。いずれも、何らかの意思決定や問題解決をする上では大切なプロセスとなってくる。これを怠ったり、不十分であったりすると、いざという時に思わぬ結果を招きかねないのでしっかりと定義を抑えておこう。

●「コンセンサス」の重要性

今日、ビジネスシーンにおける「コンセンサス」の影響はどんどん高まっている。特にバックグラウンドが多種多彩な組織に置いては必要不可欠と言える。背景としては、ビジネススピードの加速化がある。それだけに、企業としては「コンセンサス」を得やすい職場づくりが大切となる。例えば、関係者や当事者には事前に資料を渡したり、詳細を説明したりしておくのも一つの方法だ。また、部下に何かを依頼するにあたっても、「これをすぐにやるように」と言うだけでは、相手から納得が得られない。その業務をなぜ急ぎで頼むのか、その背景や意図を伝えるべきである。

●オーソライズやアグリーメントとの違い

「コンセンサス」と混同しやすい代表的な言葉としてオーソライズやアグリーメントが挙げられる。まず、オーソライズは公的機関や権限を持つ人間が「正式に認める」「権威を付与する」というニュアンスで使われる。

一方、アグリーメントには承諾や同意、協定、契約などの意味がある。ただし、「コンセンサス」が複数から同意を得る場面で用いるのに対して、アグリーメントは相手が単独の際に用いる。要は、マンツーマンでの同意を指す。

●「コンセンサス」の類語・言い換え

「コンセンサス」の類語・言い換えとして、意見の一致や総意、合意、同意などがある。また、合意を形成していく意味合いで言えば、共通理解や意識の共有、共通した認識などもある。他にも、合意形成に向けた準備という意味合いで捉えれば、根回しと言い換えることもできる。

「コンセンサス」の使い方・例文

「コンセンサス」の定義・意味を理解したところで、実際にどうビジネスの現場で使えば良いのか。例文を添えて説明していきたい。

●コンセンサスを取る

「コンセンサスを取る」とは、事前に関係者や当事者の理解を得ることを言う。具体的には、意見を聞いて回ったり、納得してもらえるよう働きかけたりすることが求められる。いわゆる、根回しや事前交渉の類だ。

例文としては、「来月の全体会議に向けて少なくとも各グループの代表者にコンセンサスを取っておく必要がある」「取引先からコンセンサスを取っておこう」などが挙げられる。

●コンセンサスを得る

一方、「コンセンサスを得る」は関係者や当事者の間で合意が形成できたというニュアンスで用いられることが多い。

例文として、「新たな事業計画に関して役員のコンセンサスを得ることができた」「プレゼンでの方向性について部長にコンセンサスを得る必要があった」などがある。

「コンセンサス」のメリットとデメリット

ビジネスシーンでの「コンセンサス」のメリットとデメリットは、どこにあるのかを整理しておこう。

●「コンセンサス」のメリット

最初に、「コンセンサス」のメリットから取り上げたい。3点紹介しよう。

(1)組織の絆を強くする
「コンセンサス」を得ることで組織やチームの絆や団結力が強くなる。なぜなら、そのプロセスの中で話し合いの機会が持たれるからである。時には白熱した議論になることがあるかもしれないが、自分の意見を述べあうことによってお互い理解し合い、前向きな気持ちになれる。それによって、まとまりをもたらしてくれるはずだ。

(2)主体性を育む
トップダウンの組織であれば、上からの指示に従っていれば良いという考えに陥りやすい。一方、「コンセンサス」はメンバーに自ら考える時間や機会を与えることになる。それを繰り返す中でメンバーの主体性が育まれていくと言って良い。

(3)少数派の意見にも耳を傾けられる
「コンセンサス」を得るためには、関係者や当事者の意見や考えに耳を傾ける必要がある。それだけに、日頃あまり意見を言わない人の主張も拾いやすい。

●「コンセンサス」のデメリット

半面、「コンセンサス」にはデメリットもある。2点ほど紹介しよう。

(1)エネルギーを消耗してしまう
間違いなく、「コンセンサス」はトップダウンよりもエネルギーを消耗しやすい。なぜなら、「コンセンサス」を得るために関係者や当事者から合意を引き出す方法や手段を考えなければいけないからだ。上手く合意を得られないとなると、時間も掛かってしまう。

(2)相手の意見に妥協しなければいけない場面もある
毎回お互いの意見が合致し合意を得られるのがベストである。しかし、「妥協せざるを得ない」「妥協した方が得だ」などと考えて「コンセンサス」に至るケースも少なくない。こうしたケースでは、関わった人のモチベーションや生産性が低下してしまう可能性がある。

ビジネスシーンにおける「コンセンサス」の使い方

何か物事を決定するとなると、「多数決」が一般的だ。だが、別な決め方もある。それらを紹介したい。

●コンセンサス方式

コンセンサス方式とは、会議などにおいて意思決定を行うための一つの方法だ。賛成派、反対派双方の意見を踏まえ、お互いに歩み寄りながら合意形成を図り、最終的には全会一致で物事を決めていくというアプローチになる。これによって、組織内の対立を避けることができるのがメリットといえる。ただ実際には、反対意見が出ないのであれば、全員が賛成しているとして物事を決めるケースも見受けられる。

●ネガティブ・コンセンサス方式

コンセンサス方式と対を成すのが、ネガティブ・コンセンサス方式だ。参加者全員が否決・反対した場合にのみ採決することができる。これは、WTO(世界貿易機関)で紛争解決制度として用いられているが、ビジネスシーンではあまり採用されていないのが実態だ。

「コンセンサス」を取る4つのコツ

組織において「コンセンサス」を取るコツを4つ紹介したい。

●論点・目的を明確にする

まずは、何を議論するのかという論点、議論するための目的を明確にする必要がある。ゴールとして、どんな合意を得たいのかを決めておかないと話の方向性が定まらず、「コンセンサス」に至らない。時間と労力の無駄に終わってしまうことであろう。

●意見を引き出す

意見を引き出すこともポイントだ。「ハードルが高いのではないか」と思う人もいるかもしれないが、実りある議論を進めていくには欠かせないプロセスと言える。そのためにも、安心して意見を言い合える雰囲気や環境を作っていくことが重要となる。具体的には、「○○さんはどう?」と声掛けするのも得策だ。聞かれれば何らかの形で発言しようとするからである。

●率直な意見を伝える

何かを決めようとすると、意見が分かれるのは必定だ。そうした状況を無視して強引に物事を決めたり、意に反する考えに賛成するように促されたりすると納得度が下がるだけでなく、不満が残ってしまう。そうならないためにも、「コンセンサスを得る」ことを目的とする会議では、参加者が意見を言いやすい雰囲気を作るよう心がけたい。

●解決策を打診する

批判的な意見が提示された際に、どう対応するかもポイントとなってくる。絶対に放置してはいけない。そうした意見であっても一旦は集約し、取り入れるべきか、そうでないかを整理していくことが重要だ。さらには、発言者に対しても理由を説明するようにしたい。いわゆる、フィードバックだ。真摯に向き合う姿勢を続けていれば、「コンセンサス」を得やすくなると言える。

ビジネスシーン以外での「コンセンサス」

実は、「コンセンサス」はビジネスシーンだけで用いられる用語ではない。さまざまなシーンで見かける。代表的な例を紹介しよう。

●コンセンサスゲーム

コンセンサスゲームとは、コミュニケーションスキルやチームビルディングスキルの向上を目的とするゲームだ。人材採用や企業研修などで良く取り入れられている。通常は、複数人から成るグループごとに課題を与え、それぞれのメンバーで考え議論し、グループとしての合意を形成した上で発表するという流れになっている。これを通じて、チームにおいて「コンセンサス」を得るプロセスを実体験できる。

●市場コンセンサス

市場コンセンサスとは、株式市場において証券アナリストが分析した株の利益やレーティング、配当などの予想数値の平均を言う。コンセンサス予想とも呼ばれている。投資家は、この数値を株式売買を行う際の参考指標としている。

●コンセンサスアルゴリズム

コンセンサスアルゴリズムとはブロックチェーン(分散型台帳)技術において、取引データを格納するブロックを新たに追加する場面で、合意形成を行うアルゴリズムを意味する。仮想通貨の取引を行う際の合意形成方法として用いられている。

●医学的コンセンサス

医学的コンセンサスとは、最新の医学的な知識や根拠に基づいて専門家たちが総意としてオフィシャルに表明したプロセスや内容を指す。診断方法や診療ガイドラインなどを作成する上で大きな役割を果たしている。

●国民のコンセンサス

近年では、政治のシーンでも「コンセンサス」が用いられることがある。具体的には、国民のコンセンサスだ。これは、ある政策に関して国民の総意・合意を得ることを意味する。

まとめ

合意、総意、同意など「コンセンサス」には、さまざまな意味合いが含まれている。それだけに、「コンセンサスを取る・得る」といっても実際には簡単ではない。例えば、事前に根回しや交渉を行う、会議の場では意図する方向にファシリテートする、必要な段取りを漏れなく進める……。それぞれに合わせて多様なスキルを発揮していかなければならない。言い換えれば、研修などを通じて「コンセンサスを取る・得る」ことに長けた人材を育成していけば、社内の仕事がスムーズに流れていくはずだ。その視点で、人材育成、研修体制のあり方を見直してみてはいかがだろうか。
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