近年、「自己肯定感」という概念が従業員の幸福度アップや企業の生産性向上につながるとして注目を集めている。自己肯定感の高い社員は、創造性や生産性が向上し、チームにおいても優れた成果を示すことが研究でも明らかになっている。では、自己肯定感とはそもそも何なのか、どう高めていけば良いのか。本稿では、自己肯定感の定義や重要性、高い人と低い人の特徴を紹介しつつ、個人と組織におけるメリットとデメリット、自己肯定感を高める組織づくりのコツを解説していく。
「自己肯定感」とは? 低い原因と高める方法・組織づくりのコツを解説

「自己肯定感」とは?

「自己肯定感」とは、自分自身を価値ある存在として認め、肯定的に捉える感覚のことだ。長所や短所を含めてありのままの自分を受け入れている状態を「自己肯定感が高い」と言う。自己肯定感が高い人は、何事もポジティブに捉え、新しいことに積極的に挑戦できる。また、自己肯定感の高さは、メンタルヘルスやウェルビーイングに好影響を与える。

自己肯定感には「絶対的(基本的)自己肯定感」と「社会的自己肯定感」の2種類があると言われている。絶対的(基本的)自己肯定感とは、自分の存在を肯定する内発的な自己肯定感のことだ。対して社会的自己肯定感とは、成功体験や成果、評価、報酬などの外的な要因によって自分を肯定する感覚のことである。高い自己肯定感を維持するには、この2つのバランスが大事だが、特に絶対的(基本的)自己肯定感を培うことで、外的な要因がなくても自分を肯定的に受け入れることができる。

●「自己肯定感」と「自己効力感」の違い

「自己肯定感」と似た概念に「自己効力感」がある。自己肯定感が自分自身の存在価値を認める感覚であるのに対し、自己効力感は特定の課題や目標に対して解決や達成できる能力があると信じる感覚を指す。つまり、自己効力感はより具体的な場面での自信を表す概念と言える。

●日本における「自己肯定感」の傾向

日本人は一般的に「自己肯定感」が低いとされている。内閣府が2019年に発表した調査では、日本の若者の自己肯定感は、アメリカ、中国、韓国の若者と比べて低い傾向にあることが報告されている。これには、謙虚さを美徳とする文化や、他人との比較を重視する教育環境などが影響していると言われている。

●組織における「自己肯定感」の重要性

組織において、メンバーの「自己肯定感」は非常に重要だ。自己肯定感が高い社員は、挑戦的かつ創造的で、ストレス耐性も強い傾向がある。すなわち自己肯定感が高い社員が多ければ、意見交換が活発になり、全体の雰囲気が向上する。困難な課題に対しても前向きに取り組めるため、イノベーションを推進する力にもなる。そのため、組織として自己肯定感を育む環境づくりは、企業の成長には不可欠と言える。

「自己肯定感」が高い人の特徴

「自己肯定感」が高い人には、以下のような特徴が見られる。

・前向きに捉える
・自らの感情のコントロールができる
・主体的に行動できる
・努力を続けられる
・他人を尊重できる
・他人の言葉に左右されない


それぞれを詳しく解説していこう。

●前向きに捉える

「自己肯定感」の高い人は、状況を前向きに捉えることができる。失敗や挫折を経験しても、それを学びの機会として捉え、成長のチャンスと考えるのだ。また、自分の長所を認識し、それを活かす方法を考え、困難な状況に直面しても、解決策を見出そうとする姿勢を持ち続けることができるのも特徴だ。前向きな姿勢は問題解決能力を高める要因となり、ビジネスにおいても有利に働く。

●自らの感情をコントロールできる

感情をコントロールできるのも「自己肯定感」の高い人の特徴と言える。ストレスや怒り、不安などのネガティブな感情を抱いても、それに振り回されずに冷静な判断を下すことができる。そのため、メンタルヘルスの維持や良好な人間関係の構築がしやすい。

●主体的に行動できる

「自己肯定感」の高い人は、何事に対しても主体的に行動できる。自分の意思に基づいて明確な目標を設定し、責任を持ってそれを果たそうとするからだ。また新しいチャレンジに対しても積極的で、自己成長の機会を求める傾向が強い。

●努力を続けられる

「自己肯定感」の高い人は、自分の能力を信じ、努力が報われると確信しているからこそ、困難に直面しても簡単に諦めず、粘り強く取り組むことができる。努力を継続する姿勢は、大きな成功につながり、さらなる自己肯定感の向上をもたらす好循環が生まれる。

●他人を尊重できる

前述したとおり「自己肯定感」の高い人は、自分自身を価値ある存在と認識している。だからこそ、他人も同様に価値ある存在だと考え、尊重できる。他人の意見や価値観を受け入れ、協調を重視するため、対人関係でトラブルが少なく、Win-Winの関係を構築しやすい。

●他人の言葉に左右されない

他人の評価や批判に過度に影響されないのも、「自己肯定感」の高い人の特徴と言える。なぜなら、自分の価値観や判断基準をしっかりと持っているため、それに基づいて行動できるからだ。

「自己肯定感」が低い人の特徴

一方で「自己肯定感」が低い人には、以下のような特徴が見られる。

・他人と自分を比べる
・精神的に不安定である
・劣等感が強い
・承認欲求が強い
・他者に依存しやすい
・トラウマをかかえている


それぞれを細かく解説していこう。

●他人と自分を比べる

「自己肯定感」の低い人は、他人と自分を比較する傾向がある。他人の成功や能力に注目し、自分との差を過度に意識してしまうのである。インターネットが一般化した現代では、SNSなどを通じてその傾向がさらに助長されている。他人との違いや自分の劣っている点ばかりに目が向き、自己評価を下げてしまえば、ますます自己肯定感は下がり、本来の能力を発揮できなくなってしまう。

●精神的に不安定である

「自己肯定感」の低い人は、精神的な不安定さを抱えていることが多い。自分の価値を低く見積もるため、些細な出来事にも大きく動揺してしまうのだ。批判や失敗に対して過剰に反応し、長い間落ち込んでしまうこともある。不安定な精神状態が続けば日常生活や仕事にも支障をきたす恐れがある。

●劣等感が強い

劣等感が強いのも「自己肯定感」の低い人の特徴だ。自分の能力や価値を過小評価し、常に他人よりも劣っていると感じてしまう。さらに自分の長所ではなく、短所に目がいきがちである。自信が持てないため、新しい挑戦を避けたり、本来の自分をさらけ出すことができなかったりする。

●承認欲求が強い

一方で「自己肯定感」の低い人は、他人からの承認や評価を求める傾向も強い。自分自身を評価することが難しいため、他人の評価や賞賛ばかりが気になってしまうのだ。例えば、SNSでの「いいね」や、職場での上司からの評価など、常に他人からの肯定的なフィードバックがないと不安に駆られる。承認欲求が強いと、本来の内発的な目標を見失い、他人の期待に合わせて行動するようになってしまう。

●他者に依存しやすい

「自己肯定感」の低い人は、他者への依存度が高くなりがちだ。自分で判断し、行動することに自信がないため、常に誰かの助言や支援を求めてしまう。意思決定の際にも、自分の意見よりも他人の意見を重視する傾向が強い。

●トラウマを抱えている

「自己肯定感」の低い理由として、過去のトラウマ体験を抱えている場合がある。学生時代の環境や職場での失敗などがトラウマとなり、自己肯定感を低下させてしまう。過去の出来事にとらわれ、自分の現状を客観的に評価できなくなってしまうのだ。そうなると、新しい関係性の構築や経験に対して警戒心を抱いてしまう。

「自己肯定感」が高いことのメリット

「自己肯定感」が高いことには、様々なメリットがある。個人と組織の2つの視点で説明していこう。

●個人としてのメリット

「自己肯定感」が高いことで、まずメンタルヘルスが向上し、ストレスに対する耐性が高まる。また、自信を持って行動できるため新しいチャレンジの機会に積極的に取り組むことができ、失敗を恐れないため、学習や成長の機会が増える。対人関係においても、自己主張と他者尊重のバランスが取れ、良好な関係を築きやすくなる。つまり総じて、人生の満足度が高まり、幸福感を得やすくなると言える。

●組織としてのメリット

「自己肯定感」の高い社員が集まる組織は、コミュニケーションが活発で、創造性と問題解決能力が高い。社員同士が積極的に自信を持って意見を述べ、新しいアイデアを提案することができ、困難な課題に対してもチーム一丸となって前向きに取り組み、解決策を見出すことができるからだ。さらに仕事に前向きで精神的にも健康であるため欠勤率が低下し、離職率も抑えられる。また自己肯定感の高いリーダーがいれば、失敗を受け入れ成長できるようにメンバーを導き、モチベートすることができる。結果的に組織全体の生産性は向上するのだ。

「自己肯定感」が低いことのデメリット

逆に「自己肯定感」が低ければ、デメリットが生じる。こちらも個人と組織の視点で説明しよう。

●個人としてのデメリット

「自己肯定感」が低いと、自信を持ちづらいため、何事にも消極的で新しい挑戦を避けてしまい、成長する機会を逸してしまう。対人関係においても、自己主張が苦手なため相手との誤解が生まれやすいうえ、相手と比較してしまいがちで信頼感を築きにくい。さらにキャリアにおいては、自分の能力や経験を上手くアピールができずに自己実現が難しくなる恐れもある。

●組織としてのデメリット

「自己肯定感」の低い社員が多い組織は、コミュニケーション不足に陥りがちで、連携が上手く取れない傾向がある。社員が自分の意見が否定されてしまうかもしれないという不安を抱えているため、積極的な意見交換ができないからだ。そのため、生産性は低く、イノベーションが起こしづらい。さらにメンタルヘルスの問題などで欠勤率が上がり、離職率の増加につながる可能性もある。また自己肯定感の低い管理職は、部下の失敗を許せず圧力をかけてしまうため、社員の疲弊や不平不満を生み出してしまう。

「自己肯定感」が低い原因

「自己肯定感」が低くなる原因には、様々な要因がある。以下で紹介していこう。

・失敗や挫折した経験がある
・他人との過剰な比較をされた経験がある
・否定的な言葉を言われた経験がある

●失敗や挫折した経験がある

失敗や挫折の経験は、「自己肯定感」を低下させる大きな要因となり得る。仕事上の大きなミスや、人間関係の悪化や破綻などによって、否定的なセルフイメージを持つと、自己肯定感の低下につながってしまう。また、失敗を個人の能力不足と結びつけてしまい、「自分にはできない」という固定的な思考パターンが形作られてしまうこともある。

●他人との過剰な比較をされた経験がある

他人との過剰な比較も、「自己肯定感」を低下させる大きな要因だ。幼少期や学生時代に周囲の大人や教育者から他人と比較されたり、仕事をする上でも他人と自分の成績を比べたりしてばかりいると、自分の価値を相対的にしか評価できなくなってしまう。特に現代ではSNSの普及により、他人の華やかな一面ばかりが目に入りやすくなり、自己との比較が助長される傾向にあり、自己肯定感の低下を招く原因となっている。

●否定的な言葉を言われた経験がある

親や教師、上司など影響力のある人物から否定的な言葉を繰り返し言われると、その言葉がセルフイメージとして内在化しやすくなる。「お前はダメだ」、「そんなことも出来ないのか」というような言葉は、受け手の自尊心を傷つけ、自己否定的な思考になってしまう。

「自己肯定感」を高める方法

「自己肯定感」を高めるには、どうしたら良いのか。個人でできる方法として以下のようなものがある。

●自分の良いところを見つける

「自己肯定感」を高めるためには、まず自分の良いところを認識することが重要だ。日々の生活の中で自分の長所や成功体験、小さな達成感を意識的に見つけ出し、それを肯定的に評価する習慣をつけると良い。例えば、毎日寝る前に今日の自分の良かった点を3つ挙げる、他人からの肯定的なフィードバックを素直に受け入れるなどのやり方は効果的だ。自分自身の価値を再認識することで、自己肯定感を高めていくことができる。

●信頼できる人に話を聞く

信頼できる人に自分の思いや悩みを打ち明け、客観的な視点で自分を見ることも有効だ。家族や親友など自分を深く理解してくれている人と定期的に対話の機会を持つことで、自分では気づかなかった長所や可能性を発見できる。また、自分の考えや感情を言語化し、共感を得ることで、自己理解が深まる。専門家であるカウンセラーやコーチングを利用するのも良いだろう。

●成功体験を積み重ねる

成功体験を積み重ねることは非常に重要だ。成功は必ずしも大きなものである必要はない。日常生活の中で、小さな目標を設定し、それを達成していく過程で得られる成功実感を大切にしていけば良い。新しい料理に挑戦する、定期的に運動する、新しいスキルを学ぶなど、自分にとってチャレンジングでありながら達成可能な目標を設定し、一つずつ達成していくことで、「自分にもできる」という自信が生まれる。その積み重ねが、自己肯定感の向上につながる。

●他人と比較しない

他人との比較を避けることも「自己肯定感」の向上には必要と言える。人にはそれぞれ独自の人生があり、それぞれに異なる長所、短所、経験がある。ところが、他人と自分を比較すると、劣っている点に目がいき、過剰に自分の価値を否定してしまうことにつながる。他者と比較する代わりに、過去の自分と比較し、自身の成長や変化に注目すると良いだろう。「誰かより優れている」ではなく、「自分なりに成長している」という視点を持つことで、より肯定的なな自己評価ができる。

「自己肯定感」を高める組織づくりのコツ

組織として「自己肯定感」を高めるには、以下のような取り組みが効果的だ。ぜひ参考にしてほしい。

●コミュニケーションの機会を設ける

定期的なミーティングや部署を越えた交流会、1on1面談などを実施することで、社員が自分の意見を発信することができる。またそうした意見交換の際には、各自の意見や提案を尊重することで、建設的な議論が活発化し、社員それぞれが自分の価値を認識しやすくなる。業務の会話だけでなく、日常的な対話も促進することで、互いの理解が深まり、「自己肯定感」の醸成につながる。

●フィードバックを適宜行う

タイムリーで適切なフィードバックが自己肯定感を生む。成功した取り組みや良い成果に対しては具体的な称賛を送り、改善が必要な点に対しては、批判ではなく具体的なアドバイスを提供して成長の機会と捉えてもらうことが大切だ。また、上司からだけではなく、同僚や顧客からの評価など、多様な視点からのフィードバックを取り入れることも、社員に自分の強みと成長の余地を認識し、自己肯定感を高めるのに有効だ。

●成功体験につながるサポートを行う

組織全体で、失敗を恐れずにチャレンジできる環境を整え、失敗しても学びの機会として前向きに捉える文化を醸成することが大切だ。大きな目標を小さな段階に分け、段階ごとに達成感を得られるように目標管理をしていくことで、部下に成功体験を積み上げてもらうことができる。さらに個人の努力や成果を組織内で共有し、表彰・称賛する機会を設けることで、成功体験の効果をさらに増幅させることができる。

●心理的安全性の高いチーム作りを心掛ける

心理的安全性の高いチーム作りは、社員の「自己肯定感」を高める上で非常に重要だ。心理的安全性とは、自分の意見や懸念を自由に表現でき、失敗を恐れずに新しいアイデアを提案できる環境が整備されていることだ。これには、多様性を尊重し、異なる意見や背景を持つメンバーを積極的に受け入れる姿勢、失敗を非難せず、学びの機会として捉える文化を醸成することが求められる。社員が自己表現しやすい環境であれば、「自己肯定感」が高まりやすい。

まとめ

「自己肯定感」は、個人の成長と組織の発展に不可欠な要素だ。従業員の自己肯定感を高めることが、組織全体の活性化や生産性向上につながる。自己肯定感の向上は、中長期的な視点で取り組むべき重要な課題も言え、人事担当者は、社員がありのままの自分を肯定して受け入れることができるよう、環境を整備していくことが求められる。社員が小さな成功体験を積み重ねられる仕組みを考えてみてほしい。

よくある質問

●「自己肯定感」を高める方法は?

個人と組織の「自己肯定感」を高める方法は以下がある。
【個人】
・自分の良いところを見つける
・信頼できる人に話を聞く
・成功体験を積み重ねる
・他人と比較しない

【組織】
・コミュニケーションの機会を設ける
・フィードバックを適宜行う
・成功体験につながるサポートを行う
・心理的安全性の高いチーム作りを心掛ける

●自己肯定感が低いのにプライドが高いのはなぜ?

「自己肯定感」の低い人は、他人と自分を比較し、他人からの承認や評価を求める傾向も強い。そのため、他人からの批判や評価を過剰に敏感となり、受け入れることが難しくなる。また自分自身の都合の良いことしか容認できず、正当化しようとしてしまう。その結果、「プライドが高い」と見られてしまう。
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