「SWOT分析」は、「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」という4つの要素を分析することで、経営戦略や事業計画の現状を把握するフレームワークだ。人事戦略で活用すれば、採用プロセスの改善や人材育成の方向性の設定など、さまざまな業務の質を高めることができる。そこで本稿では、SWOT分析の概要から具体的な実施方法をわかりやすく解説、またテンプレートや他の分析手法との組み合わせ方、実践する上でのコツなども図解とともに紹介していく。
【図解で解説】SWOT分析とは? やり方や企業の分析例を解説

「SWOT分析」とは

「SWOT分析」とは、内部環境である「強み(Strengths)」と「弱み(Weaknesses)」、外部環境である「機会(Opportunities)」と「脅威(Threats)」という4つの項目を分析し、企業や事業の現状や課題を把握するためのフレームワークである。戦略の策定やマーケティングの意思決定、経営資源の最適化などに活用できる。

●「SWOT分析」の目的

「SWOT分析」の目的は、企業が直面する環境を正確に把握し、競争力を高めるための戦略を立案することだ。自社の強みを最大限に活かしながら弱みを克服し、外部の機会を捉えつつ脅威に備えることで、持続的な成長を目指していく。また、製品開発やマーケティング戦略の策定といった具体的な課題に対しても有効な手段となる。

●「SWOT分析」の重要性

ビジネス環境が日々劇的に変化を続けるなかで、企業が競争力を維持し続けるためには、自社の置かれた状況を常に的確に把握することが不可欠である。市場の動向や技術革新などの外部要因と自社の内部要因を照らし合わせることで、新たなビジネスチャンスを発見できる。

また、自社の弱みを客観的に分析することで、業務プロセスや製品・サービスのクオリティ向上につながる具体的な課題を発見することができ、新規事業の立ち上げを検討している際にも、潜在的なリスクを事前に特定し、対策を講じておくことができる。

「SWOT分析」の4つの要素

「SWOT分析」は、内部環境である「強み」と「弱み」、外部環境である「機会」と「脅威」という4つの要素から構成されている。それぞれを詳しく解説していこう。
SWOT分析の図解

●Strength(強み)

「Strength(強み)」は、他社に対する競争上の利点であり、内部環境におけるプラス要素である。製品やサービスの優位性や差別化できている点、認知度、技術力、ブランド力、特許といった無形の資産、設備や資金力などの有形資産が強みと言える。

●Weakness(弱み)

逆に「Weakness(弱み)」は、自社の競争力を制約する内部的な欠点や問題点などの内部環境におけるマイナス要素を指す。例えば、高コスト体質、生産性の低さ、技術力の不足、マーケティング能力の欠如、人材不足などだ。

●Opportunity(機会)

「Opportunity(機会)」は、自社にとって利益を得られる外部の好条件や有利な状況のことだ。外部環境におけるプラス要素と言える。新しい技術の台頭や規制緩和、経済成長、自社製品の需要が高まる新興市場の出現、競合他社が撤退した市場での売上増加の機会などが該当する。機会を的確に捉えることで、新たな収益源を開拓したり、業績を伸ばしたりするチャンスを得ることができる。

●Threat(脅威)

一方で、外部環境におけるマイナス要素が「Threat(脅威)」だ。新規参入による競争の激化、法規制の変更、為替変動、代替製品の台頭、原材料価格の高騰、テロ・自然災害、景気後退など企業に負の影響を与える事柄が該当する。事前に察知し、適切な対策を立てる必要がある。

「SWOT分析」のやり方・手順

「SWOT分析」は、一般的に以下の手順で行われる。順を追って説明していこう。

(1)目的を設定する

初めに分析の目的を明確に設定することが最重要と言える。どのような課題に取り組むのか、どの程度の範囲や期間を対象とするのか、分析結果をどのように活用するのかなどが決まっていなければ、分析や議論の方向性が定まらず、適切な戦略が立てられなくなる。

(2)内部環境の分析を行う

次に、自社の「強み」と「弱み」を洗い出し、内部環境を分析していく。製品・サービス、マーケティング、財務、人材、設備、知的資産など、さまざまな視点で見て抜け漏れがないようにしたい。また、ただ事実を羅列するのではなく、競合他社との比較や、自社の目標達成への影響度合いなども考慮すると良いだろう。

(3)外部環境の分析を行う

内部環境の次は、自社を取り巻く外部環境における「機会」と「脅威」を特定する。政治や経済、社会など、マクロ環境からミクロ環境まで、大小さまざまな角度から分析し、自社のチャンスとなり得る要素と障害となり得る要素を浮き彫りにしていく。

(4)戦略を立てる

内部・外部の両側面から分析したSWOT項目を基に、しっかりと議論し、最終的に具体的な戦略を立案する。「自社の強みや外部の機会を最大限活用するには?」、「弱みを補いつつ、脅威に備えるための戦略は?」など、SWOT項目を掛け合わせながら目的に合わせて実行可能性の高い戦略を策定していきたい。これをクロスSWOT分析という(詳しいやり方は後述)。また、実際に戦略を進めていく際には、定期的に振り返り、戦略の見直しを図ることも重要だ。

「クロスSWOT分析」の方法

「クロスSWOT分析」は、SWOTの4つの要素を掛け合わせて分析する手法で、具体的な戦略決定や意思決定を行うことができる。
クロスSWOT分析の図解

●強み×機会

「強み」と「機会」を掛け合わせることで、強みを生かして機会を最大限に活用し、大きく成長するための戦略が見えてくる。例えば、技術力の高さ(強み)と新興国市場の拡大(機会)を掛け合わせて考えることによって、現地生産による低コスト製品の投入戦略が浮かび上がる。

●強み×脅威

「強み」と「脅威」を組み合わせると、強みを生かして脅威に対抗したり防止したりする手段を導くことができる。例えば、自社のブランド力(強み)と新規参入企業の台頭(脅威)を見れば、ブランディングをより強化することで、自社の立ち位置を保守するというマーケティング戦略が見えるだろう。

●弱み×機会

「弱み」と「機会」の組み合わせは、弱みを改善して機会を確実に活用する戦略を考えらえる。例えば、人材不足(弱み)と新規事業の立ち上げ(機会)を掛け合わせると、積極的な人材採用や社員育成に注力する必要があるという課題が特定できる。

●弱み×脅威

「弱み」と「脅威」の組み合わせは、自社の弱みを理解することでリスクを最小限に抑えるための戦略を練ることができる。例えば、技術力不足(弱み)と海外メーカーの台頭(脅威)があれば、マーケットからの撤退や事業売却などの検討も選択肢に入ってくるだろう。

「SWOT分析」におすすめのテンプレート

「SWOT分析」をする際に、以下のテンプレートを使えば、「強み」、「弱み」、「機会」、「脅威」の内容を整理しながら分析を進められる。ぜひ活用していただきたい。
【図解で解説】SWOT分析とは? やり方や企業の分析例を解説

「SWOT分析」と組み合わせるとよい分析

「SWOT分析」は、さまざまな分析手法と組み合わせることで、効率的に進めることができる。以下で組み合わせるとよい主な分析手法2つを紹介しよう。

●PEST分析

「PEST分析」は、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの観点から企業を取り巻く外部環境を多角的に分析する手法だ。それぞれがどう自社に影響を与えるのかを探るために有効で、SWOT分析の際にも詳細に外部環境の「機会」と「脅威」を捉えることができる。
PEST分析の図解

●ファイブフォース分析


「ファイブフォース分析」は、業界の競争構造を分析するためのフレームワークだ。「新規参入の脅威」、「代替製品の脅威」、「買い手の交渉力」、「供給者の交渉力」、「業界内競合との競争」という5つの脅威を明らかにすることで、自社を取り巻く環境を把握し、業界内で勝ち抜くための対策を見出すことができる。そのためSWOT分析の「機会」と「脅威」を特定する際にも役立つ。
ファイブフォース分析の図解

「SWOT分析」で失敗しないコツ

「SWOT分析」効果的に行うために、失敗しないコツをお伝えしよう。

●分析は複数人で行う

一人で分析を行うと、見落としや偏った見方をしてしまう恐れがある。複数のメンバーで分析することで、さまざまな視点からの議論ができ、バランスの取れた分析結果を導くことができる。目的に合わせたメンバー選考が必要だ。

●目的・目標は明確にする

当然ながら分析の目的や達成目標が曖昧だと、的を射た分析はできるはずがない。事前に目的を明確に設定し、関係者で共有することで、効率的かつ建設的な議論が可能となる。

●優先順位をつける

SWOTの各要素を単に列挙するだけでは意味がないし、すべての項目に等しく注力するのは無理がある。そこで、目的に応じて重要度をつけることが重要だ。緊急度の高さや企業の戦略との整合性などを考慮して計画を立て、限られたリソースを優先課題に集中させることで、効率的に取り組みを進めることができる。

●「強み」と「機会」を混同しない

SWOTの分類で迷うこともあるだろう。特に内部環境のポジティブ要因である「強み」と、外部環境のポジティブ要因である「機会」は混同しやすいので注意が必要だ。「強み」が「機会」を生み出すケースもあるが、それぞれを明確に区別しなければいけない。

●定期的に見直す

SWOT分析は一度取り組んだら終わりではない。市場動向やビジネス環境の変化に応じて、SWOTの内容自体も変わっていくからだ。定期的に分析内容を見直して、必要に応じて更新することで、その時宜を得た対策を取ることができる。

企業のSWOT分析例

実際にトヨタとマクドナルドの2社を例に挙げて、SWOT分析をしてみよう。

●トヨタ自動車の例

【強み】
・世界的なブランド力
・車両開発への積極投資
・環境への取り組み


トヨタの強みは、世界的に認知されたブランド力と販売力が筆頭と言える。品質と信頼性への追求が、このブランド価値を築き上げていると言える。また、車両開発への積極的な投資姿勢により、技術革新と製品の競争力を維持している点、さらにタイでのカーボンニュートラリティ実現に向けたクロスインダストリー協力のメモランダム締結などの環境への取り組みによって、ハイブリッド車の地位を確立し、持続可能なモビリティの実現に向けた企業イメージを強化している。

【弱み】
・為替変動の収益への影響
・サプライチェーンの複雑さ
・中国市場での苦戦


まず為替変動の収益への影響は、グローバルに事業展開を行う企業としては避けられない弱点である。同じくグローバルなサプライチェーンの複雑さは、部品調達や生産効率に影響を与える可能性もある。また電気自動車の普及が進む中国市場での苦戦も小さくない課題と言える。

【機会】
・新興国での市場拡大
・新技術の導入
・国内の自動運転に関する法整備


自動車販売市場の継続的な拡大は、トヨタにとって大きな成長機会となっている。特に電気自動車や自動運転などの新技術の導入は、市場シェアの拡大や新たな顧客層の獲得につながる可能性がある。さらに日本国内で自動運転に関する法律が整備されてきている点も、自動運転サービスで先行する同社にとっては、競争優位性を獲得する機会となり得る。

【脅威】
・市場競争の激化
・規制の強化
・技術革新のスピード


市場競争の激化は、トヨタの市場シェアや利益率に悪影響を及ぼす恐れがある。特に新興の電気自動車メーカーの台頭は無視できない。また、環境規制の強化によって、製品開発や生産プロセスの変更を迫られる可能性があり、コスト増加につながる可能性がある。技術革新のスピードも脅威となっており、迅速な対応と継続的なイノベーションが求められている。

こうしたSWOTを踏まえたうえで、例えば、自動運転サービスや電気自動車へのさらなる注力によって新興国でのシェア拡大を目指すことや、中国市場への適応と東南アジアなどへの展開などの戦略を考えることができる。

●マクドナルドの例

【強み】
・ブランドの認知度
・手頃な価格
・地域に根差したマーケティング力


マクドナルドの最大の強みは、世界中で高い認知度を誇るブランド力と言えよう。新商品の導入や新市場への参入が比較的容易にできるからだ。また、手頃な価格設定によって、幅広い顧客層を引き付け、頻繁に利用される。さらに各国の地域文化や嗜好に合わせた商品開発や販促活動ができる地域に根差したマーケティング力も顧客とのつながりを強める要因となっている。

【弱み】
・品質のコントロール
・単価の安さ
・健康志向の消費者への対応


フランチャイズシステムを採用するマクドナルドにとって、品質のコントロールは常に課題だ。一部の店舗での品質低下が全体のブランドイメージに影響を与えるリスクもあるが、大規模ゆえに直接的なコントロールが難しい。また、単価の安さは利益率の低下につながる可能性があり、健康志向の消費者への対応が十分でないことは、先進国市場での成長の妨げとなる恐れがある。

【機会】
・テクノロジーの発展
・デリバリー需要の高まり
・低価格志向の拡大


テクノロジーの急速な発展によって、モバイルオーダーなどが普及することで顧客満足度の向上やオペレーションコストの削減につながる。またデリバリーサービスへの需要の高まりや低価格志向の拡大は、マクドナルドの競争力をさらに活かせる機会となる。

【脅威】
・新規参入企業の増加
・物価上昇
・環境問題による原材料不足


新規参入企業の増加は、市場競争をより激化させ、市場シェアの維持が難しくなってくるかもしれない。また、物価上昇による原材料コストの押し上げや、環境問題に起因する原材料供給の不安定化は、利益率を圧迫する重大なリスクとなる。

こうした4項目の分析を踏まえて、例えば、地域に根差したマーケティング力を生かして各地域の持続可能な食材を活用したメニューの開発、健康志向のデリバリーメニューによる新規顧客の開拓などの戦略が見えてくる。

まとめ

「SWOT分析」は、採用戦略の立案や人材育成計画の策定などにも活用できる。自社の組織や人材を客観的に把握し、市場の動向や外部環境の変化による影響を考慮しながら戦略を立てることで、より効果的な人材マネジメントができるだろう。急激な変化を遂げ、不確実な時代だからこそ、SWOT分析を活用しながら環境に適応した人事戦略を展開していきたい。

よくある質問

●「PEST分析」と「SWOT分析」の違いは何?

「PEST分析」は、政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの観点から企業を取り巻く外部環境を多角的に分析する手法だ。それぞれがどう自社に影響を与えるのかを探るために有効となる。一方で、「SWOT分析」は、外部環境である「機会(Opportunities)」と「脅威(Threats)」だけでなく、内部環境である「強み(Strengths)」と「弱み(Weaknesses)」という4つの項目を分析し、企業や事業の現状や課題を把握するためのフレームワークである。
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