「4月に支払われた給与」と「4月“分”の給与」とは同じではない?
『算定基礎届』を記載する上で見落としがちな最初のポイントは、「4月・5月・6月の給与額」の正しい解釈である。『算定基礎届』に記載する3ヵ月分の給与額は、「4月・5月・6月の給与額」と定められている。しかしながら、これを「4月“分”・5月“分”・6月“分”の給与額」のことと解釈し、記載内容が誤りになるケースが少なくない。
ここでいう「4月・5月・6月の給与額」とは、正確には「4月・5月・6月に支払われた給与額」を意味している。給与の支給形態が当月払いの場合には、通常、4月に支払われるのは4月分の給与である。そのため、「4月・5月・6月に支払われた給与額」と「4月“分”・5月“分”・6月“分”の給与額」とは同一になる。その結果、『算定基礎届』にどちらの金額として記載したとしても、問題が起こることはない。
一方、翌月払いの給与形態では、4月に支払われるのは3月分の給与が通常である。そのため、「4月・5月・6月に支払われた給与額」と「4月“分”・5月“分”・6月“分”の給与額」とは一致をすることがない。翌月払いの企業は「3月“分”・4月“分”・5月“分”の給与額」を記載してはじめて、指定された給与額を記載したことになるのが一般的である。
記載を漏らしやすい「食事や住まいの提供」
見落としがちな2番目のポイントは、現物給与の記載である。一般的に、給与といえば金銭で支払われるものだ。しかしながら、標準報酬月額を決める上では、金銭以外の物品で支給されたものも給与の一部とみなし、年金事務所や健康保険組合に届け出ることが義務付けられている。金銭以外の物品で支給されるものを現物給与という。
例えば、企業が社員に食事や住まいを提供しているケースがある。これらの食事や住まいは金銭で支給されているわけではないが、企業が社員に対して経済的利益を与えていることにはかわりがない。そのため、現物給与として一定のルールに則って金額換算し、『算定基礎届』の「現物によるものの額」欄に記載しなければならない。しかしながら、「給与とは金銭で支給されるもの」という既成概念からか、現物給与の記載を行わないケースが散見されている。
なお、食事を現物給与として金額換算する場合は、特に注意が必要である。食事の換算額は厚生労働大臣が定めた価額を用いなければならないが、この額は毎年4月に改正されるからである。2024年度は1ヵ月当たりの食事の換算価額が、40都道府県で下表のとおり増額改正されている。
気を付けたい「4月昇給者」に関する記載
見落としがちな3番目のポイントは、4月昇給者の正しい記載方法である。昇給により4月分の給与から支給額が増える企業は多いであろう。この場合には、随時改定の対象になるケースも存在する。随時改定とは給与額が一定程度変動した場合に、年の途中で標準報酬月額を見直す仕組みである。
例えば、4月分の給与から基本給が増額され、その金額から標準報酬月額を求めた場合に現状と2等級以上の差がついたとする。このような場合には随時改定の対象となり、当月払いの企業では7月に、翌月払いの企業では8月に手続き義務が発生するケースが一般的である。
ところで、7月に随時改定の対象となる社員および8月・9月に随時改定の対象になることが予定される社員については、『算定基礎届』の「報酬月額」欄は記載をしないのがルールである。これらの社員に関する記載は、同届の「備考」欄にある「月額変更予定」にマルを付すだけでよい。しかしながら、随時改定の対象社員であることに気付かず、その他の社員と同様に「報酬月額」欄に給与額を記載して提出している事例も少なくないようである。
なお、8月・9月に随時改定の対象になることが予定された社員が、何らかの理由で結果的には対象にならなかったというケースも考えられる。その場合には、改めて対象者の『算定基礎届』を提出しなければならない。
以上のように、4月昇給者については随時改定の対象になるか否かで、『算定基礎届』の記載方法が大きく異なるので注意が必要である。
上記以外にも、『算定基礎届』には細かな記載ルールが設けられている。日本年金機構が発行する『算定基礎届の記入・提出ガイドブック』などを参考に、間違いのない手続きを行っていただきたい。
●日本年金機構:定時決定(算定基礎届)
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